第27話 お風呂騒動 三人視点
【セシリアの視点】
ああもう、こんなことになるなら、一人で入ればよかった――!
目の前についたてがドミノのように崩れていく様子を、セシリアはスローモーションのように見つめていた。湯気の中、ミリがタオルを手に絶叫し、リィナはなぜか満面の笑み。
「セ、セシリア、なんとかしてっ!」
ミリが隠れる背中を探して右往左往している。
「なんで私が!?」
ユリウスが慌てて目を背けながら走り去っていく姿がチラリと見えた。顔が真っ赤だった。
「……ああ、終わったわ。私の清らかな入浴時間が……」
銀髪を濡らしながら、セシリアは静かにタオルを被った。
【ミリの視点】
「ぅわああああああ!! 兄貴ィィィ!! 見たら殺すぞォオ!!!」
湯船から飛び出し、タオルで全身を包むミリ。その顔はまるで戦場を駆け抜ける戦士のごとく赤く燃えていた。
「おまっ……リィナァアア! てめぇ、なんで湯ぶっかけたァ!?」
「虫を排除しようと――」
「ドアホ! 湯で虫倒してどうすんだ! 湯船のバリアじゃねぇよ! しかもついたてぶっ倒してどうすんだ!」
「でも、命中率は百パーセントでした」
「誰も頼んでねぇよその精度ッ!」
ミリは頭を抱えた。服もない、体も丸見え、おまけに兄貴に見られた――かもしれないという最悪の状況。
「……もういやだ、風呂ってなんなんだよ……」
【リィナの視点】
「セシリア様、ミリ様。ついたてが倒れてしまったのは不可抗力かと。私は悪くありません」
リィナは湯気の中、ぬるりとした笑みで立っていた。まったく反省の色はない。お風呂の縁に腰かけて、ぷかぷかと湯をたたえながら鼻歌すら歌っている。
「虫、倒せました。よかったです。処理完了です」
「リィナ! あんたなぁっ!」と怒鳴るミリをまるで無視して、リィナは続けた。
「ユリウス様の視線に関しては、遮蔽の失敗による偶発的露出。記録対象外とします」
「いや記録すんな! あとその言い回しやめろ!」
「セシリア様、次回は防御魔法による視界遮断を検討しましょう。魔導風呂防衛計画、発動です」
「やめなさい!」
リィナは満面の笑みで、また新しいお風呂の設計図を描き始めた。




