第25話 今度はお風呂
「ユリウス様、洗濯の次は……体も洗いたいです」
リィナの真顔の訴えに、砦の空気がぴたりと止まった。
「体を……って、風呂なんてこの砦にあるわけ——」
「作ろう」
ユリウスは当然のように言った。
「兄貴、ノリ軽っ!」
ミリが顔を引きつらせる。
だがユリウスは真剣そのものだった。すでに魔導錬金術について書き留めているノートを開き、ペンを走らせている。
「砦の井戸水を引いて、魔素変換炉で熱を生成。それを魔導回路で浴槽に伝える。簡単な熱交換式だ。浴槽は……」
「私が作る!」
ミリが勢いよく手を挙げる。
「兄貴、ドラム缶くらいの大きさでいいな? 工房で叩いてくる!」
「頼んだよ、ミリ」
ミリは砦の中にある工房へ駆け出していき、鉄を鍛える音が響いた。
その間に、ユリウスとセシリアが浴場の設置を進める。魔素変換炉の隣にスペースを確保し、魔導回路を走らせる。
「この魔導ラインを底面に通せば、熱が均一に回るはずだわ」
「うん、湯温も調整できるようにしておこう」
しばらくしてミリが、ぴかぴかに磨かれたドラム缶を抱えて戻ってきた。
「できたぞ! 名づけて、ミリ式どこでも風呂!」
「ありがとうございます、ミリ様!」
「だから“様”やめろって言ってんだろ!むずがゆい」
設置されたドラム缶に水を張り、魔素変換炉から熱エネルギーを送り込むと、じわじわと湯気が立ちのぼる。
「……あったかい……!」
セシリアが驚いたように湯を触る。
「よし、準備完了。リィナ、セシリア、ミリ、先に入ってて。僕は外で見張ってるよ」
「遠慮しないでユリウス様。ご一緒に……」
「ダメに決まってるだろ!」
ミリが即座に突っ込んだ。
「ですよねー……」
セシリアが同意する。
「では、私たち三人で」
リィナが当然のように言い、セシリアとミリを引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと! 押すなリィナ!」
「なんで私がこんなことに……」
「ふふふ。これも砦の風情ですわ」
三人の湯気混じりの笑い声が、夕暮れの砦にほのかに響いた。
ユリウスはその声を背に、一人ベンチに腰を下ろした。
「……うん、いい感じに生活感出てきたな……」




