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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第25話 今度はお風呂


「ユリウス様、洗濯の次は……体も洗いたいです」


 リィナの真顔の訴えに、砦の空気がぴたりと止まった。


「体を……って、風呂なんてこの砦にあるわけ——」


「作ろう」


 ユリウスは当然のように言った。


「兄貴、ノリ軽っ!」


 ミリが顔を引きつらせる。

 だがユリウスは真剣そのものだった。すでに魔導錬金術について書き留めているノートを開き、ペンを走らせている。


「砦の井戸水を引いて、魔素変換炉で熱を生成。それを魔導回路で浴槽に伝える。簡単な熱交換式だ。浴槽は……」


「私が作る!」


 ミリが勢いよく手を挙げる。


「兄貴、ドラム缶くらいの大きさでいいな? 工房で叩いてくる!」


「頼んだよ、ミリ」


 ミリは砦の中にある工房へ駆け出していき、鉄を鍛える音が響いた。

 その間に、ユリウスとセシリアが浴場の設置を進める。魔素変換炉の隣にスペースを確保し、魔導回路を走らせる。


「この魔導ラインを底面に通せば、熱が均一に回るはずだわ」


「うん、湯温も調整できるようにしておこう」


 しばらくしてミリが、ぴかぴかに磨かれたドラム缶を抱えて戻ってきた。


「できたぞ! 名づけて、ミリ式どこでも風呂!」


「ありがとうございます、ミリ様!」


「だから“様”やめろって言ってんだろ!むずがゆい」


 設置されたドラム缶に水を張り、魔素変換炉から熱エネルギーを送り込むと、じわじわと湯気が立ちのぼる。


「……あったかい……!」


 セシリアが驚いたように湯を触る。


「よし、準備完了。リィナ、セシリア、ミリ、先に入ってて。僕は外で見張ってるよ」


「遠慮しないでユリウス様。ご一緒に……」


「ダメに決まってるだろ!」


 ミリが即座に突っ込んだ。


「ですよねー……」


 セシリアが同意する。


「では、私たち三人で」


 リィナが当然のように言い、セシリアとミリを引っ張っていく。


「ちょ、ちょっと! 押すなリィナ!」


「なんで私がこんなことに……」


「ふふふ。これも砦の風情ですわ」


 三人の湯気混じりの笑い声が、夕暮れの砦にほのかに響いた。

 ユリウスはその声を背に、一人ベンチに腰を下ろした。


「……うん、いい感じに生活感出てきたな……」


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