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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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158/213

第158話 プレゴン

 ヴァルトハインの工房区――。

 そこでは、巨大な鋼鉄の塊がうなりを上げていた。


「自走砲……動いたな」


 ユリウスは汗を拭いながら、試運転中の車体を見つめていた。

 以前、農業機械――コンバインの開発を通じて得た車両制御や足回りの技術。

 それを軍事用途に転用する計画は、すでに始まっていた。

 ベースとなったのは、対地攻撃に特化した重火力魔導兵装――通称「サジタリウス」。


 だが、これまでは移動時に多くの兵と馬を必要とし、機動力に難があった。


「これで、どこへでも砲を持ち運べる。敵にとっては悪夢ですな」


 側にいたアーベントが無表情に言った。

 ごつごつとした無骨な車体に、リィナが刻印魔導回路の最終調整を施していた。

 動力は小型の魔素変換炉と、従来よりも高出力な伝導ライン。旋回式砲塔と油圧式の安定脚が装備され、発射時の衝撃を吸収する設計になっている。


「命名は……『プレゴン』、炎の馬だ」


 ユリウスがつぶやいた。


「いいな。今にも地を蹴って走り出しそうな名前だ」


 ミリが笑って頷く。


「兄貴のネーミングセンス、たまには悪くないじゃん」


「たまには……って、いつも微妙って思ってたってことよね?」


 セシリアが呆れ顔で突っ込む。


「だって、本当に微妙だったし……前の『オリオン』は良かったけどさ」


 そんな軽口が飛び交う中でも、ユリウスの視線は真剣だった。

 東部でうごめく不穏な連合――その脅威に対抗するために。


 炎をまとい、砲撃とともに疾駆する鋼の獣――炎のプレゴン

 それは、ヴァルトハインの新たなる牙として、静かに牙を研いでいた。



 夕暮れの砦の広場に、量産型パワードスーツと新型自走砲「プレゴン」、そして改造されたサジタリウスがずらりと並ぶ。

 漆黒の装甲に光を反射させながら威圧感を放つそれらの兵器は、戦場の風景を塗り替える力を持っていた。


「……これが僕らの力か」


 ユリウスは感慨深げに呟いた。隣にはミリが腕を組み、誇らしげに胸を張っている。


「兄貴の〈工場〉と、あたしらの技術が合わされば、こんなもんさ。どこに出しても恥ずかしくねえよ」


「これほどの戦力を見せつけられたら、東部の貴族たちも震え上がるでしょうね」


 セシリアは淡く微笑みながらも、その瞳には冷たい光が宿っていた。

 リィナは無言で、パワードスーツとプレゴンを交互に見つめていた。やがて静かに口を開く。


「現時点での制圧率……八十五パーセント以上と推測されます。東部防衛網はこの戦力には耐えられません」


 ユリウスはうなずいた。

 この光景を見れば誰もが思うだろう――勝利はすでに掌中にある、と。


「だが、油断するな。敵は利害が一致すれば一枚岩となる。だからこそ、これを見せつけてやる。抵抗する気力も起きないほどの圧倒的な戦力差。スキルを持たない平民が、貴族と同等以上に活躍する戦場を」


 その言葉に、皆がうなずく。

 量産型スーツが、無言で陽の光を反射し、プレゴンの砲身が静かに夕日に向けてそびえ立つ。


 その光景は、ただの兵器展示ではない。

 ――新たな秩序の象徴だった。


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