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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第114話 緊急治療

 ユリウスが運び込まれた時、彼の身体は血にまみれ、意識はなかった。

 撤退作業は中断され、ライナルト軍の前進にそなえ、再び防衛のための準備が開始される。


「どいてっ、私がやる!すぐに寝かせて! リィナ、補助魔素の供給ラインを組んで!」


 セシリアは誰よりも早く駆け寄り、リィナからユリウスの身体を引き取った。雷撃で吹き飛ばされた部品が当たり血まみれとなった右肩、焼け焦げた胸元。生命反応は――かすかに、ある。


「まだ……まだ間に合うわ。お願い、魔素の流れを読み解いて……っ!」


 彼女の指先が、ユリウスの額と心臓部に触れる。〈魔導計測〉の魔法で、体内の魔素の循環を読み取り、損傷箇所と破損した魔力回路を把握する。


「心臓の周囲が……損壊してる。呼吸も浅い……っ」


 セシリアはすぐさま腰のポーチから、魔導錬金薬を取り出す。だが通常の回復薬では間に合わないと悟ると、次の瞬間、自らの手のひらを切った。


「私の魔素を――使って……!」


 自らの血と魔力を触媒に、複数の補助魔法を同時に詠唱する。

 泣き出したかったが、それをすればユリウスが助からないことはわかっていた。

 一分一秒を争う事態に、泣くのは後回しにしたのである。


「〈魔導治癒陣・第四式〉、展開。血流固定、呼吸強化、痛覚遮断……全部まとめて!」


 光の紋様がユリウスの身体に浮かび上がる。体内で崩壊しかけていた魔素の流れが、ゆっくりと整えられていく。


「ユリウス……お願い、目を開けて……あなたが……ここで死ぬなんて、許さない……!」


 滲む涙を拭う暇もなく、セシリアは集中を続ける。魔素の流出を止め、仮初めの安定を得るまで、彼女の意識は張り詰めた糸のようだった。


やがて――。


 ユリウスの胸が、かすかに上下した。


「……戻ってきて……くれた……」


 セシリアは膝をつき、震える手で彼の頬に触れた。安堵と、張り詰めていた緊張が一気に崩れ、静かに涙がこぼれる。



――ミリ視点――


 ユリウスの体はぐったりとしていた。血の気の失せた顔、荒い呼吸すら聞こえない胸元――だがミリは泣いていられなかった。

 セシリアが魔導処置を施している。その術式を邪魔してはならないと分かっていたからだ。


(死ぬなよ、兄貴……絶対に死ぬんじゃねぇぞ……)


 拳を握りしめる。自分は鍛冶屋だ。命を救う術なんて持っていない。

 悔しさに歯を食いしばったミリの耳に、セシリアの低い声が届いた。


「魔素の流れが……詰まってる……! リィナ、魔導回路の補助を!」


 言葉と同時にリィナが応じ、ミリの目の前で複雑な魔導錬金術式が展開された。


 ……自分にも、何かできることがあれば。

 でも、今できるのは――ただ祈ることだけだった。


【リィナ視点】


 ユリウス様の体を担いで帰ってきたとき、セシリア様の顔が真っ青になった。

 そして、すぐに指示が飛ぶ。


「すぐに寝かせて! リィナ、補助魔素の供給ラインを組んで!」


「はい、セシリア様!」


 私はその命令に従い、魔導回路を急ごしらえで展開する。

 コアはまだ辛うじて反応している。……でも、長くは持たない。

 彼の生命力が、まるで細い糸のように感じられた。


「……どうして……ユリウス様……!」


 私は魔素を送りながら、歯を噛みしめた。

 こんな戦い方、許せない。

 死にかけても、皆のために前に出るなんて――。


「もう……もう、嫌です……!」


 私は叫んだ。

 でも、セシリア様の顔は揺るがない。彼女も必死だった。

 なら、私も止まれない。

 ユリウス様を、取り戻すまでは――!


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