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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第113話 自爆プログラム

 轟音が大地を揺るがした。

 地平線の彼方から弧を描いて飛来した一本の槍――否、槍に似た巨大な投射物が、空を裂いてユリウスのもとへと迫る。

 それはライナルトに手出し無用と言われた命令が届かなかった兵士によるものだった。


「回避っ……!」


 咄嗟にユリウスが機体を旋回させるも、魔導回路が加速限界を迎えていた。赤黒く輝く槍の穂先が、オリオンの右腕に直撃。

 直後、爆発。

 視界が一瞬白に染まり、魔素が弾け飛ぶ。鋼鉄の右腕が根元から吹き飛び、関節ごとねじ切られた。


「くっ……!」


 ユリウスは衝撃で操縦席に叩きつけられ、オリオンの機体はバランスを崩し、地面に膝を突いた。

 システムの警告音が鳴り響く。


《警告:右腕部破損。出力低下。姿勢制御に支障》


 熱と焦げた魔素の匂いがコックピットを満たす中、ユリウスは歯を食いしばって立ち上がらせる。


「まだ――終わってない……!」


 距離、三十メートル。

 敵陣の最前列、ただ一騎、黒き騎士のごとく歩み出る男がいた。

 漆黒の軍服の上に、雷光をまとう装甲。銀髪が風にたなびき、その瞳は静かな殺意を宿している。


 ライナルト・フォン・ヴァルトハイン――雷帝のスキルを継ぐ男。


 ユリウスの視線が彼をとらえる。


「ライナルト……!」


「ようやく姿を見せたな、兄上。無様な姿だ」


 その言葉にユリウスは激昂し、残された左腕の駆動を最大にして突撃する。

 全身を傾け、残されたブースターを吹かし、速度を稼ぐ。たとえ片腕でも、倒す――その気迫に満ちた突進。


 だが、数歩踏み込んだ瞬間だった。

 脳裏を、過去の光景がよぎる。

 無邪気に笑う幼い弟。訓練場で背を追いかけてきた姿。勝ちたいと願っていた、あの頃の――


「っ……!」


 一瞬、ブースターの噴射が緩んだ。

 そのわずかな隙を、雷帝が見逃すはずもなかった。


「雷よ――」


 ライナルトの手から放たれた稲妻が、空気を裂いて奔る。雷撃がオリオンの胴体へと直撃し、コックピットの周囲を焼き焦がす。

 装甲が破れ、内部フレームがむき出しになる。システムが次々と沈黙し、オリオンは崩れ落ちた。


「……が、ぁっ」


 ユリウスの意識は、深い闇の中へと沈んでいった。


 リィナ、それに撤退準備を進めるセシリアたちにも雷撃が直撃するのが見えた。

 爆煙と焦げた魔素のにおいが漂う戦場。かつて誇り高き鋼の巨人だった〈オリオン〉は右腕を失い、炎に包まれていた。


「ユリウス様……応答を……!」


 リィナは必死に魔導通信機を操作するが、スピーカーから漏れるのはノイズだけだった。魔素の乱れもひどい。ユリウスの命の気配はかすかにある。だがこのままでは――。


「緊急事態、宣言……指揮官ユリウス様、応答なし。全軍は後退準備を。セシリア様、聞こえておりますか?」


《聞こえてるわ、リィナ。今すぐ魔導砲を展開する。撤退路は確保してみせるから、ユリウスを――お願い》


「承知いたしました」


 リィナは跳躍装置でオリオンの頭部へ跳び乗り、焼けた装甲を素手でこじ開けた。魔導刻印を一つずつ解除しながら、煙の中からユリウスの姿を引きずり出す。


「……ユリウス様。しっかりしてください……!」


 彼の顔は血に濡れ、意識はない。それでもリィナは迷わなかった。

 左腕の魔導操作パネルを開き、極秘のコードを入力する。


「……鹵獲防止処理、起動。認証コード:リィナ、……起爆まで、三十秒」


 起動した自爆紋様が、オリオンの内部から淡く発光し始める。


「……生きて、帰りましょう」


 ユリウスを背に担ぎ、跳躍するリィナ。その背後を、黒い軍装に身を包んだ男が目ざとく見つける。


「……邪魔をするな、ゴーレムめ」


 雷帝の加護を刻まれたライナルトが、剣を抜いて走る。重厚な黒の軍装から放たれる魔力は、まさに人ならざる威圧感を帯びていた。

 リィナは振り返ることなく跳躍し、自陣を目指して走り出す。


「逃がさん!」


 だがその一瞬後、地面が揺れ、爆音が空を裂いた。

 青白い魔導光が広がり、オリオンが爆散した。

 自爆プログラムによる爆発であった。


「――なっ……!?」


 逃げるリィナに手を伸ばした瞬間、爆風がライナルトを巻き込む。彼は反射的に魔導障壁を展開するも間に合わず、鎧ごと爆炎に焼かれて地面に叩きつけられた。


「……ぐっ、く……この……っ!」


 火傷と打撲で、視界がかすむ。だが気力はまだある。近づいてきた副官たちに支えられ、彼は荒く息を吐いた。


「退くぞ……。治療が必要だ。奴らの首は……次に取る」


 彼は怒りを噛み殺しながら、後方の貴族が所有する城砦へと一時撤退を命じた。


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