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外れスキル〈工場〉で追放された兄は、荒野から世界を変える――辺境から始める、もう一つの帝国史――  作者: 工程能力1.33
1章

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第11話 セシリア登場

 カン、カン……!

 中庭に金属を打つ音が響いていた。

 ユリウスは袖をまくり、精錬炉の土台にレンガを積んでいた。ミリは粘土を練って継ぎ目を埋める。

 二人は無言のまま息を合わせ、砦の中に新たな「始まり」を築いていた。


 その時――

 ギィ……と、砦の外門が鈍く軋む音を立てて開いた。


「……兄貴、今、音……」

「ああ、誰か来たな」


 警戒して顔を上げたユリウスの視線の先に、一人の少女が立っていた。

 銀色の髪を風になびかせた、細身な旅装の女性。年齢はユリウスより少し上だろうか。地味な顔立ちに、どこか場違いなほど整った所作。


「……あれ……?」


 彼女――セシリアは砦の中を見回し、ぽつりとつぶやいた。


「朽ちた廃墟のはずだったのに……人がいる……? しかも……建築中……?」


 完全に予想外の光景だったらしい。

 彼女はフードを下ろし、迷いながらも真っ直ぐに中庭へと進んでくる。


「誰だ、お前」


 ユリウスが工具を置いて立ち上がると、セシリアは少しだけ肩をすくめた。


「……私はセシリア。旅の研究者よ。遺跡を調べるつもりで来たの。まさか、誰かがここに住んでるなんて思わなかった」


「ほぉん? 遺跡調査ねぇ……」


 ミリがじろりと見てくる。


「見ろよ兄貴。この砦、廃墟って話だったろ? 誰もいないと思ってノコノコ来たってわけだ」


「……確かに、そう言われていたわ」


 セシリアは落ち着いた声で言った。


「でも、実際に人がいたってことは、それだけでも大発見よ。あなたたちは……この砦で何を?」


「今は……炉を作ってるところだ」


 ユリウスは精錬炉の未完成の壁を軽く叩く。


「君こそ、ひとりでここまで来るなんて、物好きだな」


「……まあ、ちょっと事情があって。ひとりで来たほうが都合がよかったの」


 銀髪の少女は、はにかむように笑った。

 地味な顔立ちに似合わぬその微笑みは、妙に印象に残った。

 もちろん、ユリウスもミリもまだ知らない。

 彼女が、かの大国グランツァール帝国の皇女だということを。


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