第11話 セシリア登場
カン、カン……!
中庭に金属を打つ音が響いていた。
ユリウスは袖をまくり、精錬炉の土台にレンガを積んでいた。ミリは粘土を練って継ぎ目を埋める。
二人は無言のまま息を合わせ、砦の中に新たな「始まり」を築いていた。
その時――
ギィ……と、砦の外門が鈍く軋む音を立てて開いた。
「……兄貴、今、音……」
「ああ、誰か来たな」
警戒して顔を上げたユリウスの視線の先に、一人の少女が立っていた。
銀色の髪を風になびかせた、細身な旅装の女性。年齢はユリウスより少し上だろうか。地味な顔立ちに、どこか場違いなほど整った所作。
「……あれ……?」
彼女――セシリアは砦の中を見回し、ぽつりとつぶやいた。
「朽ちた廃墟のはずだったのに……人がいる……? しかも……建築中……?」
完全に予想外の光景だったらしい。
彼女はフードを下ろし、迷いながらも真っ直ぐに中庭へと進んでくる。
「誰だ、お前」
ユリウスが工具を置いて立ち上がると、セシリアは少しだけ肩をすくめた。
「……私はセシリア。旅の研究者よ。遺跡を調べるつもりで来たの。まさか、誰かがここに住んでるなんて思わなかった」
「ほぉん? 遺跡調査ねぇ……」
ミリがじろりと見てくる。
「見ろよ兄貴。この砦、廃墟って話だったろ? 誰もいないと思ってノコノコ来たってわけだ」
「……確かに、そう言われていたわ」
セシリアは落ち着いた声で言った。
「でも、実際に人がいたってことは、それだけでも大発見よ。あなたたちは……この砦で何を?」
「今は……炉を作ってるところだ」
ユリウスは精錬炉の未完成の壁を軽く叩く。
「君こそ、ひとりでここまで来るなんて、物好きだな」
「……まあ、ちょっと事情があって。ひとりで来たほうが都合がよかったの」
銀髪の少女は、はにかむように笑った。
地味な顔立ちに似合わぬその微笑みは、妙に印象に残った。
もちろん、ユリウスもミリもまだ知らない。
彼女が、かの大国グランツァール帝国の皇女だということを。




