お嬢様は、懸念する(6)
「皆、お疲れ様」
ブラッドリーが拠点に戻ると、クリスティーナがべサニーと共にいた。
既にロナルドとアルマもいて、この場にいないのは王都にいるアルバートとトーマスだけだ。
「正式にはアルバートからお礼があると思うけど、私からも心ばかりだけど幾つか品を見繕ってきたわ」
そう言って、彼女は直接三人に袋を渡していく。中身を見れば、ロナルドはワインとつまみ、ブラッドリーはビールとつまみ、それからアルマはお菓子だ。
勿論、それらは一平民が簡単に入手できるようなそれらではない。
そして、三人それぞれの好物でもあった。
「私の為ではないでしょうけど、それでも御礼を言わせて頂戴な。本当に、ありがとう」
それだけ言って、彼女はべサニーを伴って拠点から出る。
帰りがけ、彼女はブラッドリーの怪我を治癒して。
二人が出た後、三人は深く溜息を吐いた。
「何で貴族のお嬢様が、あんなに強い力を持っているんだろぉ」
アルマが一番に口を開く。
三人は常時、鑑定魔法を展開している。
鑑定魔法とは、相手の魔力やどれだけ魔法を使い慣れているかを測る魔法だ。
彼らは、相対する人物が魔法師としてどれぐらいの練度かを測る為に、常日頃からその魔法を使っている。
彼らを以てして、アルバートは化け物だ。
そして鑑定魔法を通して見れば、アルバートよりも更に上をいく化け物がクリスティーナなのだ。
厳密に言えば、彼女に魔力はない。
聖女は魔力を持たない代わりに、聖力を持ち、他者を癒すことができるからだ。
とは言え、今の時代に聖力の概念はない。鑑定魔法では魔力も聖力も、等しく人智の及ばぬ力として見える。
そして、彼らの鑑定魔法を通して見えた結果は、彼女が保有する聖力はアルバートの魔力以上。
それ故、アルバート以上の化け物、という言葉に繋がる訳だ。
「相変わらず、尊い……」
三人の中で、唯一アルバート以上にクリスティーナを崇拝するロナルドが、目を輝かせていた。
恐らく手の中にあるワインは、勿体無いと開かれることなく飾られるだろう。
「っていうかぁ、ブラッドリー、怪我をしていたんだねぇ。よっわ」
「かすり傷だよ、かすり傷。しかもお前、気づいてなかったじゃねえか」
「そうなんだよねぇ……。むしろ、何でクリスティーナ様、気がついたんだろう?」
この場にクリスティーナがいれば、真顔で『聖女の基礎スキルよ』と言い放っていたことだろう。
「まあでもさぁ、真面目な話、あの魔力量はやばいけどぉ……魔力の性質がぁ、リーダーとは全然違うのねぇ」
「だからこそ、二人の力の使い方が全然違うのかもなぁ」
「そうかもねぇ……ま、バランスが取れてて良いかもねぇ」
「さて、んなことより酒盛りだぁぁ!」
いそいそとブラッドリーは袋を開けて中身を取り出す。
「酒臭いのは勘弁ー。それじゃ、私は家に戻るねぇ」
そうして、アルマは拠点を出て行った。




