表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢の我儘  作者: 澪亜
EP5.我儘の影響
22/37

お嬢様は、懸念する(4)

彼女の部屋を去ったアルバートは、屋敷の離れへと向かった。


『全員、集まれ』


伝令魔法が瞬時に五人のもとへと届けられた。

そして瞬く間に、その五人の男女がその部屋に集まる。


「リーダー。何がありましたか?」


一人が先陣を切って声を上げる。

彼の名前は、ロナルド。

黒髪で長い髪を一つに括っている細身の男性だ。


「新しい仕事っすか?」


そう言ったのは、先日の毒薬事件で働いたトーマス。


「楽しい仕事だと良いなぁ」


そう言って微笑むのは、アルマ。

薄桃色の髪色がよく似合う、小さくて可愛らしい女性だ。


「お前は血みどろになりゃ満足なんだろ」


そう言って大きな笑い声をあげたのは、ブラッドリー。焦茶色の髪を短く揃えた、ガタイの良い男だ。


「あら、貴方は違うの?ブラッドリー」


最後に口を開いたのは、ベサニー。アルマとは対照的に長身な女性であり、この場ではロナルド、アルバートに次いで高い。


「勿論、違わねーな。ただ、ほとほど強くてたくさんか、めちゃくちゃ強い単騎か、どっちの敵が良いかは悩ましいなー」


「えぇ……そんなの、とっても強いたくさんが良いに決まっているよぉ」


アルマが言うと、五人全員が笑った。


「先ほど、クリスティーナ様より私に命令があった。クレイグを追え、と」


「あら、姫様からの……それはボスも気合が入るわね」


ふふふ、と笑みを漏らしながらベサニーが言った。


「クレイグを?一体、あんなおっさんに何の用があるってんだ?」


ブラッドリーの問いに共感するように、横にいたトーマスが頷く。


「どうやら用があるのは、クレイグの方らしい」


そこから、アルバートは先ほどのクリスティーナとの話を簡潔に五人に伝えた。


「身の程を弁えない愚か者の集まりですね。……国を巻き込んでのオイタもさる事ながら、まさか、一番喧嘩を売ってはならないところに喧嘩を売るなんて」


ロナルドはそう言って、笑った。

平坦なその声色を聞く限り、彼は冷静だと感じる。けれども、この場にいる誰もが見逃さない。瞳に微かに灯る、仄暗い色を。


「リーダーのお願いなら、頑張っちゃう!でもでもぉ……そんなおっさん一人じゃ、簡単過ぎるかな」


「要するに、早いもの勝ちってことか!」


「アルマ、ブラッドリー、落ち着きなさいな。まさか全員で一斉にその男を探せなんて雑な命令を、ボスがする筈がないでしょ?」


ベサニーの言葉に、アルバートが頷く。


「ベサニーは引き続き俺が留守中、クリスティーナ様の警護を」


「分かったわ」


「先ほど、アルマはクレイグ一人……と言っていたが、そうとも限らん。クレイグは、かつて盗賊団を率いていた。そしてその当時の部下は、捕まっていない者も多数いると言われている。もしかしたら、そいつらがクレイグと合流する可能性がある」


「へぇ……それは面白そうじゃんか」


「索敵はアルマに一任する。この領地全体を、お前の魔法で覆え」


「はぁい」


「ブラッドリーが殲滅してくれ。但し、クレイグ本人のみ生きたまま捕縛しろ。それから行動に移すのは、この領地に一歩でも入った後だ」


「あー楽しみだぜ!」


ブラッドリーが気合を入れていた。


「ロナルドは万が一、別働隊がいた時の為に待機。余裕があればアルマも参加して良いぞ。但し、索敵漏れがないようにだけは注意してくれ」


「まっかせて!勿論、撃ち漏らしなんかしないよぉ」


「異論ありません……が、王都のタウンハウスと学園都市は良いのですか?」


「クリスティーナ様のご家族は、ブランジュが守りを固める。先ほど、ブランジュとも情報共有をして、そのように取り決めた」


「分かりました」


「トーマスは、ブローゼル王国との交渉状況を探っておいてくれ。ブランジュとの連携は忘れるなよ」


「給料分、キッチリと働くっすよ」


「ボスはどうするのかしら?」


「もう少し、ドブソン子爵家とレルフ侯爵家を探る」


「ふーん、分かったわ」


「話し合いは終わり?」


「そうだな。伝えたいことは、これ以上ない。全員、気合を入れてやってくれ」


「……それじゃ、アルマが魔法を使う前に行ってくるっす」


「私も、クリスティーナ様のところに行ってくるわ」


アルバートの返答に、トーマスとベサニーがさっさとその場から去って行った。


「もー二人とも、私の可愛い友達を見て行かないなんて、信じられなぁい」


出遅れたアルマが頬を膨らませている。


「……ま、良いか。それじゃ、私の可愛い可愛い鼠ちゃんたち。おじさんを探して来て頂戴」


瞬間、彼女の魔力が幾多もの鼠の形を取り、方々に散らばって行った。

魔力で形を作ったそれを自在に操り、任意で視覚と聴力を共有することが可能な魔法。

索敵にうってつけなそれだった。


彼女の魔法の師であるアルバートも、その魔法を使うことはできない。

何故ならそれは、彼女のオリジナルの魔法だからだ。

それができたのは、趣味と偶然の産物。

アルバートから魔法の基礎を教えられた後、『何か可愛いモノを作れないかな』という思いつきで試した結果だった。


「なーにが、可愛いだ。あんだけの数がいれば、むしろゾッとするわ!あの二人、先にこの場からいなくなる口実があって羨ましいぜ」


魔力鼠が消えた後、ブラッドリーが吠えた。


「そんなこと言ってると、おじさんが見つかっても、ブラッドリーには教えてあげないよぉ?私が戦えるし、一石二鳥だよね」


「はあ?」


「……アルマ。リーダーの命令に逆らうのですか?」


一触即発の二人の間に割って入ったのは、ロナルドだ。

彼の問いに、彼女はピクリと体を反応させた。


「ロナルドったら。冗談だよ、冗談」


「そうでしたか。それなら、一向に構いません。見つけたら、教えてください」


彼女に向かってニコリと笑いかけた後、彼は目を瞑りその場で待機する。


「ちっ」


ブラッドリーもまた、大人しくロナルドの隣に座って待ちの姿勢になった。


「それじゃ、俺も行ってくる」


アルバートもそこまで見届けた後、その場を去って行った。


次回は明日21時更新です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ