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カワラナイ朝  作者: 白空
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第3話 少女と勉強

 「お前最近早く帰ってるけど、何かあったのか?」


 白石とゲーセンに行った翌朝、教室に入って自分の席に座るや否や龍太からそんな質問が飛んできた。


 「え、なんでそう思うんだ?」

 「なんでも何もお前いつも俺が部活終わる時間に合わせて一緒に帰ってたじゃん、それがここ数日は部活終わってもお前がいないんだもん。なんかあったんじゃねーかって心配してんだよ」


 どうやら龍太は俺の身を案じてくれているようだ。それ自体は素直にうれしいが真実を話すのも憚られる。そりゃやましいことをしているわけではないが、馬鹿正直に「白石と一緒に帰っている」、なんて教えたらどんな反応をされるか想像もつかない。こいつは俺と違ってクラスの中では割と人気者のグループに所属している。それにお喋りだ。ここは言葉を濁しておくのが吉だろう。


 「最近知り合った友人と一緒に帰ってるんだよ」

 「圭、恐喝してお金をむしり取った相手を知り合いとは言わないんだよ?」

 「お前俺を何だと思ってんだ、というかお前は俺の性格知ってんだろ。悪事を働くやつには死んでもなりたくない」

 「冗談だよ。お前は昔から正義感だけは人一倍強いもんな。けど、言っちゃ悪いがこの学校でのお前の評価最底辺だぞ。今更、お前とお近づきになりたい奴なんていないと思うが。いたとしたらお前の事件を知らない転校生ぐらいだぞ。この学校で転校生って言ったら……」


 ぎくっ。こいつ意外と勘が鋭い。このまま話に付き合うといずれ白石と俺の関係がばれて根掘り葉掘り聞かれかねない。ここは話を打ち切ることにしよう。


 「ほら、そろそろHRが始まるぞ。前向け」

 「なんか話をそらされた気がするんだが」

 「そんなことはないぞ。ほら、今日も天気がきれいだ」

 「今すぐにでも雨が降りそうなくらい雲がどんよりとしてますが」

 「龍太……、お前はいつからそんなに心が汚れてしまったんだ。こんな青々とした空を見てそんな感想を抱くなんてどうかしてるぞ」

 「オーケーお前の目が腐りかかってることだけは理解できた」


 よし、なんとか話を逸らすことには成功した。その代償として目は腐ってしまったがまあ安いものだろう。腐った目も存外いいかもしれない。腐った眼をしているからこそ世界はこんなにもまぶしく、綺麗に見えるんだ。きっとそうに違いない。



 そんなこんなで龍太の追撃を何とか凌いでるうちに放課後になった。午前中の間に空を覆ってた雲はもうすっかり彼方に去っていた。龍太もさすがに部活を放り出してまで俺の交友関係を詮索してはこないだろう。龍太がグラウンドに行くのを見送りながら、俺もかばんを持って教室を出る。俺もこのまま帰ろうかと思ったが、ふと思い立って図書室に行くことに決めた。白石がこの学校に来る前、俺は龍太の部活が終わる時間までの暇つぶしとしてよく図書室に足を運んでいた。勉強は好きじゃないけど、本は好きだ。本を読んでる時だけ現実の自分を忘れて好きなところに行ける。いつでも何度でもその本の中に入って、自分の知らないどこか遠くの風景を感じられる。



 図書室でいろんなジャンルの本を物色しながらピンときたものを持ってさっそく読もうと部屋に配置されている四人掛けのテーブルに座って本を広げようとしたところ、


 「あら、奇遇ね」


 という声が右斜め前の方向から聞こえてきた。顔を上げるとそこには俺と同じく本を読んでいる白石がいた。気づかなかったが、どうやら俺が座る前よりも先に席に座って本を読んでいたらしい。


 「なんだ、お前もいたのか」

 「あら、私を追いかけて図書室に来たわけではないの?ストーカーさん」

 「お前が声をかけなけりゃ気づくこともなかったんだけどな。それより何の本を読んでるんだ?」

 「『ストーカーから身を守る百の方法』よ」

 「ここの図書室にそんな本置いてんの!?」


 ここの図書室はどうやらバリエーションが豊富らしい。そんな本見たことも聞いたこともないよ……。誰に需要があるんだよ、誰に。


 「冗談よ、ちょっと調べ物をね」


 白石の手元にある本をみると、小難しいことがずらっと書かれてた。俺とはもっとも縁のなさそうな本だなあ。


 「そういうあなたこそ何の本を読んでるの?」

 「俺はよくある大衆小説だな。あんまり勉強は得意じゃねえからそういう本は読まないな」

 「でしょうね、貴方見るからに勉強できなさそうだわ」

 「自慢じゃないが、もう一回二年生になれる可能性もあるくらい勉強はできないぞ」

 「本当に自慢でも何でもないわね……」


 ぼくはべんきょうができません。最近は赤点もちょくちょくとるようになってきて、龍太が言ってた留年がいよいよ真実味を帯びてきたようだ。もうすぐ中間テストもあるし、いよいよもって遊んでいられない。


 「はあ、しょうがないから私が少し勉強を見てあげるわ」

 「おお、赤ペン先生……」

 「その呼び方だけは絶対にやめて頂戴」

 

 どうやらお気に召さなかったらしい。いいじゃんかっこいいじゃん、赤ペン先生。「ここ、真剣ゼミでやったところだ!」とかできるんだぜ。まあそれをやらなきゃいけないのは俺なんですけどね。


 「というかお前勉強できるの?」

 「自慢ではないけれど、前の学校では学年10位以内はキープしてたわよ」

 「そういう割には自信満々な顔してんだよなあ」


 どうやら顔に出やすいタイプらしい。わかりやすいなあ。


 「まあ今日はもう遅いし、やるなら明日からね」

 「やった!」

 「あなたは勉強する気があるのかないのかどっちなのよ……」


 進級できれば俺の勝ちである。とにかく赤点回避できる程度の点数がとれればいい。


 「やるからには徹底的にやりますからね、私は甘くないですから」

 「お手柔らかにお願いします……」


 今しがた胸に秘めた決意はさっそく果たされないようだ。勉強は嫌だ……。

 なにはともあれ、明日からは奇妙な勉強会が開かれるらしい。そもそも白石が俺に勉強を教えることに何のメリットがあるかはわからないが、俺は俺で切羽詰まっているのでそれについて考えている余裕はない。ここは白石の厚意に素直に甘えておこう。


 「それではまた明日」

 「おう、明日からよろしくな」


 それから白石はかばんを持って図書室を出て行った。俺はまだ図書室で借りた本を開いてすらいなかったので、本を読んでから帰るとしよう。


2、3日に一回のペースで投稿するのが目標です

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