#30 マグナの罠
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†領域展開†
「――ケケッ! 領域展開、ってやつだぜェ……ッ!!」
そう言いながら、マグナは姉さんの周りを縦横無尽に駆け回る。
時々、奴が地面や木の上の方に向けて手をかざしているのが見えたが、あれは――
「そんなに無邪気に走り回っちゃって。もっとお姉さんと遊びたいのかな?」
「ケケ! 言ってろクソ女ァ!」
きっと姉さんなら気が付いているだろう。
アイツは、何かを『仕掛けている』って。
「どうした人間のクソ女! 俺様にビビってんのか? アア!?」
「ビビってるのはどっちなんだろうねぇ~? ん?」
「……いちいち癇に障る人間だな……ムカつくぜ」
姉さんめ、また挑発して……。
なんて思ったけど、あれは違う。挑発は挑発でも、姉さんの方もマグナの挑発に乗って怒ってるんじゃ……。
心なしか姉さんの背中に鬼が映って見えるもん。
「だが……ケケケッ。オメーがおとなしく俺様のことを見ている間に、俺様の準備は全て整ったぜ……」
「じゃあ、来なよ。――全力で捻りつぶしてあげるからさ」
「ほざけ……クソアマァッ!!」
再び戦闘が再開された。
先に仕掛けたのはやはりマグナだ。姉さんは自分から仕掛けるようなことは一切しない戦い方をする。
それは、「相手の出方をうかがうため」とか「相手の癖や特徴を観察するため」なんて言っていたけど。
実際のところ、先に仕掛けた方が有利な気はしていた。
しかし姉さんは、いつも戦いでは後手に回っているのに、必ず最後には勝つのだ。
だから俺は、そんな姉さんを尊敬していた――
「チッ! やっぱ強えな、オメー」
「……?」
少しの肉弾戦の後、マグナはわざとらしく一歩引いて姉さんの様子をうかがっていた。
あれは……誘っているのか?
「……なに? それであたしを誘い出せるとでも思ってるの? 魔王軍の四天王って、馬鹿でもなれるんだね」
「…………チッ」
マグナは悔しそうに舌打ちをした。
そりゃそうだろう。俺でも分かるほどのその挙動で、明らかに罠があるって分かるのに、姉さんがそれにわざわざ引っ掛かりに行くようなこと……するわけが――
「ふっ。いいよ、乗ってあげる。せいぜいあたしを楽しませてね……っ!!」
そう言って姉さんは駆け出した。
嘘だろ!? わざわざ自分から罠にかかりに行くようなこと……姉さんがするわけが無いのに!
「ケケッ! 罠があるってわかってンのに、わざわざそっちから来てくれるとはなァ!」
「ちょっとした余興みたいなものだよっ!」
「――余興、だと……?」
「そう、余興……っ!!」
「――ふざけんな。ふざけんじゃ、ねェぞ……クソがッ!!!」
「おっと、落とし穴か……!」
姉さんの挑発にマグナが再び乗ると、マグナは仕掛けていた罠を次々と発動させていった。
始めは足元に仕掛けていた落とし穴だ。
その落とし穴は的確に姉さんの通るルートに、いくつも仕掛けられていたが……。
「ンでかかんねェんだよ……!」
「――ちゃんと、見てたから」
「クソがッ!」
姉さんは、その悉くを避けてマグナへと詰め寄っていく。
対するマグナも、引きながら新たな罠を発動させていった。
「木の陰から……かなっ!」
それは、木の陰から矢や石などが降ってくる罠だった。
しかしそれも、姉さんは全て躱してしまう。
「クソッ! なんで……なんでなんでなんでッ!!!」
あれは……あの感じは。
なんだか、俺と似ている気がする。
どうしようもなく大きな壁が目の前にあって。
それを超えようとしても、『現実』が心をだんだんと破壊していって。
……奴にとって――マグナにとって、姉さんは『絶対に超えられない壁』なんだと、悟った。
「罠の精度、対象を狙った正確な位置取り……全部完璧だよ」
「でも、俺様の罠でも、オメーには……ッ!」
「そう。――ごめんなさいね。どうやらあたし、この世界じゃ相当強いらしくて」
「……は? なんだよ、それ……」
「――貴方じゃ、絶対にあたしには敵わない。だから諦めて……」
「……る、せェ……」
……。
俺はただ、黙って見ていることしかできなかった。
「――うるせェうるせェうるせェうるせェェェッ!!!!!」
マグナの瞳は、先程よりもさらに赤く染まっていた。
身体の皮膚からは血管が浮き出ていて、かなり怒っているのだとすぐに見て取れた。
「――あァ、どうやら俺様がオメーには敵わないってことはよーくわかったぜ」
「そ。それならとっととあたしに――」
「だから、俺様はもうオメーとは戦わねェ。まずは周りの邪魔な奴から――」
――なんで、奴はこっちを向いているんだ?
いや……俺、じゃない。
俺の後ろにいる、メルを見て――
――それが分かった瞬間。俺はメルに向かって全力で駆け出していた。
ここで、戦闘能力のあるメルが狙われるなんて。いや……違う。戦いの有利不利なんて関係ない。
メルが傷つくなんてこと、あってはならないんだ。
俺が、守るって約束したから――。
「――ブチ殺してやるッ!!!」
戦いでは、活躍できない俺でも。
せめて、誰かを守る盾くらいには、ならなきゃ――
「――あがッ……………………」
刹那。俺の意識は、フッと途切れた。
このパターンは自分がよくやる手法です。なんならこれ一回きりじゃないかも……?
次回は明日更新です。
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