#105 聖盾
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『――やっと、来てくれたんだな。ずっと、君を待っていたよ。少年』
俺が【聖盾】に触れると、そんな言葉が聞こえてきた。
声は、桜花やルリ達とは違って、初めての男性の声だった。
「……貴方は?」
『私は……わた、しは……』
この人も、桜花と同じ『聖武具』と呼ばれている。
だから、きっと過去に何かがあって、それでこうして今は盾に封印されているのだろう。
そして、今まで俺が出会った『十大武具』に共通して言えるのは、全員『記憶が無い』という事だ。
時間が経ったり、何かのきっかけで思い出すことがあるようだが、はじめは皆共通して何も思い出せない様子だった。
それは、過去にあった出来事だけじゃなく、その名前までも……。
「もしかして、名前……」
『……何も、思い出せないんだ。名前も、思い出も……。断片的な感情と、光景しか頭には……』
「無理に、思い出す必要はありませんよ。辛いことを強要するつもりはありませんから……」
『申し訳ない……。――君の名前は……?』
俺は彼に名を聞かれ、素直に名乗った。
榊原さんやダイスさんは、この様子を静かに見守っているようだった。
「――俺の名前は、紅蓮。緋神、紅蓮といいます」
『紅蓮か。良い名だ』
「ありがとうございます」
俺は、【聖盾】を手に取ると、身体に何も異常が起きないことを伝えるために榊原さんの方を振り返った。
「……成功、ですか?」
「ええ、恐らく」
……もうここまで来たら、何も疑う余地など無いだろう。
俺は、『十大武具』を扱える力がある。普通の人には出来ないことが、できるのだ。
「……彼、でいいのかな。そのまま、話を続けてみてくれませんか?」
「……分かりました」
彼女に言われて、俺は再び【聖盾】の方を向いた。
……正直、今後も関わっていくことになるならもっと彼のことを知りたいと思っていたから、この時間はとてもありがたい。
早速、俺は彼に問いかけてみた。
「……貴方のことを、教えてくれませんか? さっき、断片的な感情と、光景しか……って言ってましたけど……」
『ああ、いいだろう……』
そう言って、【聖盾】は低いトーンで重たい口を開いたかのようにゆっくりと話し始めた。
『――覚えているのは、三つの感情だった』
「三つの、感情?」
『一つは、とてつもない達成感。そして、もう一つはそれと同じくらいの嫉妬だった』
達成感と、嫉妬心?
『……そして、もう一つは。腹が煮えたぎるような、激しい怒りや憎悪……そう言った感情が私の頭の中を渦巻いていたんだ』
達成感に嫉妬心、そして怒り、か。
桜花からはそういう話を聞いたことなかったが、彼女の言動や過去の会話の記憶から考えると同じような感情は持っていないと思うんだよな。
どちらかと言えば、桜花は怒りや憎しみというよりも『疑念』の方が強いような気がする。
『あと、覚えていたのは私がどうしようもなく不器用な男だったという事と、親や仲間に見捨てられて生きてきたという事だ』
「…………」
なんて声をかければいいのだろうか。こういう時に、俺はどういう顔をしていたらいいのだろうか。
今の俺には、彼の不安を解消できるような力など何一つない。
だから、どうすればいいか戸惑っていた。
すると、俺の隣で話を聞いていた桜花が口を開いたのだ。
「……覚えて、いるのだ。お前は、お前の言うようにどうしようもなく不器用な奴だった……。だけど、誰よりも仲間思いで……努力家だった」
『……お前――――いや、貴女は……』
「すまないのだ。私にも、ほとんど記憶は無くて……だけど、お前の声を聞いていたら、少しだけ思い出せて……」
『私も、貴女のその声色……昔よく聞いていた記憶があります……。ですが、何も、思い出せない……』
二人は、知り合いだった……?
いや、そうか。モネ達の里の書庫で見つけた本には『聖武具』はかつて勇者と共に戦った五人の仲間たちがそれぞれ封印された物だって書いてあったんだったな。
という事は、生前……というか封印される以前は二人は勇者と共に戦っていた仲間だったって事か。
しかし記憶が無い為、はっきりとはお互いのことを思い出せないのか……。
「――なあ、ぐれん」
「どうかしたのか?」
「……こいつに、新しい名前を授けてやってくれないか?」
「……名前を?」
「ああ。なんだか、こいつのことを救ってやりたいと思ってしまったのだ……」
俺だってそうだ。
しかし、いきなり名前と言われてもルリやルナに名付けたばかりだし、すぐには思いつかなそうな感じだが……。
『私からも、お願いしたい……。紅蓮殿、どうか私に……今の、新たな名前を……与えてください』
……そう、だな……ううむ。
桜花やルリ、ルナにはその時に輝いてきた彼女たちの刀身の色にちなんだ名前を付けていたが……。
彼も、同じように照らしたら輝くだろうか?
「明かりは……」
「あ、明かりならここに!」
そう言って、すぐに榊原さんが手元から白いライトを照らしてくれた。
「貴方の、色は――」
白い光で照らした【聖盾】は、徐々に自身の輝きを放ち始めた。
淡い、オレンジ色。そして、それに混じるように入った赤色。桜花が春を連想させるなら、彼は秋をイメージさせるような色合いだった。
「綺麗……」
「こりゃあなかなかどうして……」
榊原さんやダイスさんは、その輝きに見惚れているようだった。
「オレンジ……赤……」
そうだな……。どうせなら、桜花と統一性がある方がいいよな。
それでいて、彼らしさのある名前は――――
「そうだ……! これならちょうどいいと思うな」
『……では、私にその名を――――』
「ああ。分かったよ。それじゃあ……今日からお前は――」
―――彼岸。そう呼ばせてくれ。
次回は明日更新です!
いや課題終わってないのやばすぎわろた
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