後輩の提案
「雨宮、それは……」
灯里からの改まった告白に、言葉を詰まらせる悠介。
こうして、自分に好意を持ってくれていること。それ自体は非常に嬉しいと思っているが、だからと言って、気軽に「分かった」とも言えない状況が自分にはあった。
しかし、だからと言って「無理だ」とハッキリ断るのも、それはそれで難しい。
例えば、恵美との関係が本当の彼氏彼女だったら。
唯奈から、自分とも仮でいいから付き合ってほしいと言われていなかったら。
悠介の答えは、違ったかもしれない。
しかし、それはたらればの話。悠介にとっては、恵美や唯奈と同じくらい、灯里のことも大切な存在だと思っている。そこに、優劣をつけることは出来ない。
だからこそ──ここは、本当のことを話さなければと、思ったのだった。
「実は、言いそびれていたことがあるんだ。……その、彼女が出来たってのは……」
……。
…………。
恵美との関係、そして唯奈からの告白。更に、放課後にキチンと話し合う予定であることを、すべて説明した悠介。
灯里、そして鈴音の二人は、その話にジッと耳を傾けていた。
「……てことは、センパイは彼女さんのこと、好きって訳じゃないんですか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……女性として好きなのかは分からないから、ひとまず一か月一緒にいて、気持ちに整理を付けるって感じで……」
自分で言っておきながら、責められても仕方ないよなと感じる悠介。
自分がちゃんと事情を説明していれば、こんなことにはならなかったと、多少の後悔もある。
しかし、それを聞いた灯里は。
「──てことは、まだアタシにもチャンスがあるってことでいいですか?」
と、口にするのであった。
「センパイ、アタシのこと嫌いですか?」
「い、いや。別に嫌いではないけど……」
「じゃあ、充分ですね。放課後の集まり、アタシも参加します。そこで、ちゃんとお話ししましょう」
「……え、雨宮も?」
「……駄目なんですか? センパイ、アタシのことは見捨てちゃうんですか?」
上目遣いでそう言われ、何も言い返せなくなる悠介。
確かに、灯里の言うことも分かる。優劣をつけているわけではない悠介にとって、恵美と唯奈には許可したことを、灯里にだけ駄目だとは言えなかった。
すると、その無言を肯定だと受け取った灯里は、スクッと立ち上がり。
「それじゃ、放課後にまた。……あと、改めて。さっきの、すみませんでした」
と、再度謝罪をし、体育倉庫を後にするのであった。
そして、体育倉庫に残ったのは、悠介と、ずっと話を聞いていた鈴音。
すっかり体も元の調子に戻った悠介は、灯里と同じようにスッと立ち上がり。
「常盤先輩、改めてありがとうございました」
「……えっ、ああ。それは構わないのだけれど……」
何やら、鈴音の調子がおかしいことに気づく悠介。
ちょうど、自分の状況を説明した時から、やけに静かだなとは思っていたが……。
「どうしました? 何だか元気が無いというか……」
「いえ、何でもないわ。……それより、ゆう君。私も、大事な話が──」
と、鈴音が切り出そうとした瞬間。
──キンコンカンコン。
予鈴のチャイムが鳴り響く。気づけば、五限の授業が五分前に迫っていた。
「あ、そろそろ戻らないとマズいですね。先輩、何か話そうとしてました?」
「……ううん、大丈夫。また後で聞いてもらうことにするわ」
「? 分かりました。それじゃ、戻りましょうか」
「ええ。……あの子、時間もちゃんと計算して……」
鈴音の独り言は、悠介には聞こえていなかった。
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