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後輩の告白

「……ちょ、雨宮……!」


 朦朧とする意識の中、なんとか声を絞り出し、灯里を静止させる。

 そこで、ようやく自分の置かれている立場を理解することが出来た。

 先ほどのお茶。あれに、何か意識を昏倒させる作用がある薬が混ぜてあったのだと。


「……ごめんなさい、センパイ。私だって、こんな無理やりみたいな形は嫌だったんですよ?」


 そう言いながら、悠介に覆いかぶさるように寝転がり、横腹を指でなぞり始める灯里。


「でも、センパイ全然私の気持ちに気づいてくれないし……いきなり彼女出来たとか言い始めるし……」


 そう言われ、悠介は昨日の出来事を思い出す。

 確かに、灯里と出会った時に彼女だと説明したのは間違いない。

 そして、それがきっかけでこの状態になり、今の台詞。流石の悠介も、ここまでくれば灯里の気持ちには気づく。


「……お前、俺のこと……・」

「そうです。私、センパイのことが好きなんです。ずっと、ずっと好きでした。でも、センパイは私のこと、ただの後輩としか見てないですよね?」


 悠介は何も言い返さない。無言、すなわち肯定を意味する。

 実際、悠介にとって灯里は、仲のいい部活の後輩でしかなかった。まさか自分に好意をもっているなど想像もしたことが無かったし、今でも、疑っているくらい。

 だが、実際の灯里は、悠介の想像をはるかに超えていた。まさか、自分に睡眠薬のようなものを飲ませてまで、強硬手段に出るとは……と、驚きを隠せない。


「だから、既成事実を作ります。そうすれば、センパイだって私だけを見てくれる……」

「……ま、待て。流石にそれは」


 しかし、灯里の手は止まらない。

 半分ほど脱がされてしまった制服に、再び手を掛ける。抵抗しようにも、力が入らない。もう、成すすべはないのか……と、悠介が考えていると。


「──いい加減にしなさい」


 と、倉庫のドアが開き、女性の声が聞こえてきたのだった。


「……なんで、ドアが開けられるんですか? 鍵はちゃんと閉めたはずなのに」

「愚問ね。私を誰だと思っているの? 生徒会長たるもの、スペアキーを借りる事くらいわけないわ」


 そこにいたのは、生徒会長──常盤鈴音であった。


「それより、あなたは一年の雨宮さんよね。そこで何をしているのかしら?」

「……何って、見ての通りですけど」

「なるほど。それじゃ、私の想像通りってことでいいのね」


 ジッと二人を見つめる鈴音。一方の灯里は、どこかバツの悪そうな表情を浮かべていた。


「はぁ。ゆう君が一人で体育倉庫に向かうから、何をしてるのかと心配して追いかけてみれば……まさか、こんなことになってるなんてね」


 呆れか、安堵か。ため息をつきつつ、そう口にする鈴音。

 だが、今の「ゆう君」という呼び方に、過剰に反応した灯里は。


「生徒会長さん、センパイのことをそんな呼び方してるんですか?」

「ええ。一緒に仕事をする中ですもの、当然でしょ?」

「……気に入らないです。部活って理由を付けて、いつもセンパイだけ呼び出すその態度とか。今の呼び方だって」

「偶然ね。私もあなたのこと、気に入らないわ。そうやって、私の大切な人を襲おうだなんて、言語道断よ」


 がるるると、相変わらず視線をぶつけ合う二人。

 そんなやり取りを聞きながら、悠介は少しずつ体に力が入るようになり、ひとりで座れるくらいには回復していた。


「ゆう君、大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫ですよ。ありがとうございます、常盤先輩」


 ほっと、安心した表情を浮かべる鈴音。

 一方、どこかバツの悪そうな表情を浮かべているのは灯里。こうなった以上、彼女の作戦は失敗と言わざるを得ない。


「……あの、センパイ。アタシ……」

「ああ、その前に。俺から先に言わせてくれ」


 そう言い、スッと灯里の方を見て。


「すまん、お前の気持ちに全く気付いてなかった。それなのに、彼女が出来たとか言っちゃって、悪かった」


 そう、謝罪をするのであった。

 灯里は、ひどく驚いた。この場合、自分は攻められて当然の立場。

 それなのに、悠介が謝るからだ。


「な、なんでセンパイが謝るんですか!?」

「いやだって、お前のことを知らない間に傷つけてたみたいだし……」

「でも、アタシはセンパイのことを無理やり……」

「まあ、その点に関しては謝ってほしいけど……でも、結局は何も無かったわけだし。別に、責めたりする気はないよ」

「……センパイ、ほんと優しいですよね。そういう所が好きなんですけど」


 小さく言葉を口にする悠介。一方、それを聞いていた鈴音は。


「ゆう君、本当にいいの?」

「はい、俺は大丈夫です。それより常盤先輩、ありがとうございました。おかげで、雨宮が取り返しのつかないことをせずに済みましたから」

「……まあ、ゆう君がいいなら、私はこれ以上何も言わないけど……」


 当の本人にそう言われてしまったら、これ以上は何も言えない。

 鈴音は、この場でこれ以上は何も言わまいと判断した。


「あの、センパイ。……ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」

「うん、いいよ。ただし、もう二度とこういう事はしないでくれると助かるな」

「……はい」


 流石に反省したのか、灯里もシュンとしている。

 しかし、話はこれで終わりではない。


「……あの、センパイ。それじゃ、さっきの話の続き、してもいいですか?」

「ん、話って……」

「アタシ、センパイのことが好きです。彼女がいるって言ってましたけど……それでも、ずっと好きだったんです。もしよかったら、アタシと付き合ってくれませんか?」

面白いと思っていただけましたら、


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