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後輩からの呼び出し

「ゆ、唯奈。もう一回、言ってくれるか?」

「うん。──悠介、私とも付き合って。七沢さんと同じ、お試しでいいからさ」


 唯奈はきっぱりと、そう口にし、続ける。


「だって、このまま黙ってみてるわけにはいかないから。悠介を好きだって気持ちは、七沢さんにだって負けてないのに……」


 ただ、思いを伝えるタイミングが早かっただけ。

 言葉にこそしなかったが、唯奈の恵美を見つめる目は、そう語っていた。

 そして、すぅと一息つき。


「放課後、ちゃんと話をしよう。悠介も、七沢さんも。それじゃ」


 その場を後にしてしまった。そこで気づいたが、ずいぶんと話し込んでしまい、すっかり時間も経ってしまっていた。


「……と、とりあえず学校行きましょうか。遅刻しちゃいますし」

「……うん、そうだね」


 続きは放課後。お互い、ひとまずは学校へ登校する。

 その道中……ふたりの間には、何も言葉はなかった。



 教室についてからも、悠介、恵美、そして唯奈の三人は、互いに喋ることをしなかった。

 もうすぐ、お昼の時間。悠介は、昨日恵美と交わした約束を思い出す。

 ──そういえば、今日から一緒にお昼を食べるんだっけ。

 別に、恵美と喧嘩をしたわけではない。が、今朝の一件があり、何となく気まずい空気が生まれているのは確かだ。

 それは、恵美も自覚していることであり。


「あの、悠介君。お昼なんですけど……一緒に食べるのは、明日からにしませんか?」


 と、提案せざるを得ないのであった。

 教室には、唯奈も残っている。そんな彼女の前で、仲睦まじく食事をするなど難しいというのが、恵美の下した判断。

 それを、悠介も感じており。


「そうだね。とりあえず、放課後に話をしてからじゃないと……」


 と、答えるしかなかった。

 悠介にとって、仮とはいえ彼女の関係である恵美のことは、第一に優先しなければいけないというのは分かっていた。

 が、唯奈も唯奈で、悠介にとっては大切な存在なのだ。

 何しろ、十年以上の時間を、一緒に過ごしてきた幼馴染。

 そう簡単に、彼女を蔑ろにすることは出来ない。


 ──まずは、放課後にちゃんと話し合おう。


 そう、決意を固めたところで。


「……あれ、着信だ」


 ポケットにしまっていたスマホから、バイブを感じる。

 ディスプレイには、雨宮灯里と表示されていた。


『あ、センパイ。今、ちょっとだけ時間いいですか?』

「ああ、構わないけど……どうした?」

『ん-、電話だと言いにくいことなんで、私のところに来てほしいんですけど……』

「そうか、分かった。どこに行けばいい?」

『えっと、校舎裏の体育倉庫まで来てください!』

「倉庫? 変なところにいるんだな。分かった、ちょっと待ってて」


 指定された場所が少しだけ気になったが、悠介はひとまず灯里の待っている体育館倉庫へと向かった。

 


 昼休みではあったが、基本的に体育館倉庫には誰も近づこうとはしない。

 元々、校舎裏で人気がないというのもあるが、基本的に食事をする場としてはふさわしくない場所だからだ。

 こんなところに呼び出すくらいだ。何か、とても重要な話があるんじゃないか……と、悠介は倉庫への道すがら思う。

 やがて、倉庫の扉に手を掛ける。すると、丁寧に畳んで積まれていたマットの上に、呼びだした本人──灯里が、座っていたのだ。


「あ、センパイ! もう、遅いですよ~!」

「すまん、これでも急いできたんだが……」

「……ふふっ、冗談です。額の汗をみれば、それくらい分かりますって!」


 ふう、と一息。そして、倉庫に足を踏み入れる。


「で、話って?」

「あ、その前に……これ、よかったらどうぞ。センパイ、のど渇いてますよね?」


 そう言って、灯里が差し出したのは、ペットボトルのお茶だった。

 ここまで急いで来たこともあり、確かに喉は渇いている。

 気がきくな、と、悠介は遠慮することなくそのお茶を貰い、一気に飲み干した。


「ふう……ありがとう、助かった」

「いえ。こちらこそ……ありがとうございます」

「ん? ありがとうって……ああ、ここまで来たことが? それなら別に、気にしなくても……」

「いえ、それだけじゃないですよ」


 灯里がそう言うと、急に体の力が抜けるような感覚に陥った。

 少し、意識が朦朧としている。ひょっとして、暑さでやられてしまったのだろうか。


「あ、大丈夫ですか、センパイ! 何だかふらふらしてますけど」

「ああ、すまん……なんか、急に体に力が入らなくなって」

「それは大変ですね! ……とりあえず、このマットで休憩してください」

「あ、ああ。悪い……」


 灯里に手を引かれ、マットへと誘われる。

 すると、更に体の力が抜け……意識こそ何とか保っていたが、寝っ転がったまま、起き上がることが出来なくなり……。

 それを見た灯里は、一言。


「──それじゃセンパイ、始めましょうか」


 と、着ている服に、手を掛けるのであった。

面白いと思っていただけましたら、


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― 新着の感想 ―
[良い点] まじでこういう作品好きだけど、こういう作品って大抵エタるから完結してくれ。頼んます。
2020/12/22 23:33 退会済み
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