幼馴染 VS 彼女(仮)
「──なっ、なに言ってんだ唯奈!?」
突然のカミングアウトに慌てる悠介。
しかし、そんな悠介のことはお構いなしに唯奈は、そのまま腕をギュッと組み、まるで目の前の少女──七沢恵美に、見せつけるような態度をとった。
「私、ずっと悠介のことが好きだったの。けど、今までそれをちゃんと伝えられなくて……」
「なっ、なっ──!」
恵美にとっては、よく知らないクラスメイトの女の子が、仮とはいえ自分の彼氏にくっ付いている状態。とても冷静ではいられなかった。
しかし、唯奈は続ける。
「でも、悠介が七沢さんと付き合い始めたっていうから、いてもたってもいられなくて……それで今日、告白しようって決めたのよ」
悠介は、ひどく混乱していた。
今まで、逆に嫌われているのでは……とすら思っていた幼馴染から告白されたことに加え、目の前には自分の彼女がいる状態。
しかも、先ほどから抱かれている右腕からは、何やら柔らかい感触を感じ取れたりと、とても冷静でいられる状態ではなかった。
故に、この場で次に言葉を発したのは、悠介ではなく恵美だった。
「は、羽瀬川さん! 私、悠介君と付き合ってるんです!」
「うん、知ってる。二人が『仮』の関係だってことも、悠介から聞いた」
そう言われて、思わず言葉が詰まる恵美。
それを言われてしまえば、こちらからはあまり強く出ることができないと思ったのだ。
確かに自分は悠介の彼女であるが、一度フラれた身。
それを、我儘で何とかつなぎとめている状態で……他の誰かが悠介に告白しようと、強く文句を言える立場ではないと気付いたのだ。
「正直、七沢さんには悪いことしてるって思ってる。けど……私もずっと、十年以上悠介のことが好きだったから。だから、こればっかりは譲れないの」
十年。それは、小学生になった頃からということを意味している。
唯奈と悠介の出会いは、悠介が小学校に上がる前、今の家に引っ越してきたことが最初であった。
当時の唯奈は、どちらかといえば引っ込み思案で、積極的に他人とコミュニケーションを取るタイプではなかった。そんな唯奈を変えたのが、悠介だった。
隣の家に住む、同年代の友達。
悠介にとって、唯奈はずっとそんな存在だったが……自分を変えてくれた悠介に、唯奈はいつしか好意を抱くようになっていた。
しかし、幼馴染という関係上、周りからからかわれることも多い。
唯奈の気持ちは変わらないままであったが、いつしかハッキリと好意を表に出すことが恥ずかしいと感じるようになり……結果的に、今のような性格になってしまったのだ。 自分でも、この性格を直さなければという自覚はあった。しかし、蓄積されたものは、なかなかきっかけがないと難しい。
そして、今。予想外の出来事……悠介に彼女ができるという事件を経て、ようやく決意を固め、唯奈は自分の気持ちに正直になることを決めたのである。
「……で、悠介。あんたはどうなの?」
「ど、どうって……」
「私のこと、好き?」
「そりゃ、好きだよ。好きじゃなきゃ、幼馴染なんてやってないし……」
悠介は、別に唯奈のことを嫌ってなどいない。
腐っても幼馴染。ひょっとすれば、家族の次に一緒の時間を過ごしている相手。
そんな相手のことを、嫌いになどなるはずがなかった。
……しかし、あくまで悠介の言う好きは『幼馴染』に向けられるもので、『女の子』に向けるそれとは違う。
「……ま、そういう反応になるのは分かってたわ。悠介が、別に私のことを女として見てないってことも」
「そ、そうなのか……?」
「そりゃそうよ。だってあんた、私がアプローチしても、全然気づかないもの。鈍感もここまで極まるといっそすがすがしいってね」
そう言われて、心当たりがないわけではない悠介。
確かにこれまでも、唯奈が自分に対して、やけに不自然な行動をとるな、というのは実感していた。
けど、それがまさか好意ゆえのものだとは思っておらず……。
「あ、あの……悠介君」
と、ここでようやく恵美が口をはさむ。
「羽瀬川さんと、付き合うんですか……?」
心配そうな表情で見つめる恵美。その瞳は、どこかうるんでいるようだった。
「い、いや、それは……流石に。第一、今は恵美が彼女なわけだし……」
その答えに、ホッとした表情の恵美。
しかしその一方で、唯奈はどこか不服そう。
「悠介はさ、七沢さんのことが好きなの?」
「そりゃ、嫌いじゃないよ。けど、女性として好き勝手言われると、まだ迷ってる状態で……」
「それって、私への想いと、何が違うの?」
「え?」
「だって、私のことも好きだけど、女性としては分からないってことでしょ?」
「……まあ、そうだけど」
「じゃあ、私にもチャンスが欲しい」
と、唯奈はきっぱり口にした。
「悠介、私とも付き合って。一か月、お試しでいいから」
「……なっ」
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