幼馴染のカミングアウト
「ただいま」
そして、いつも通り家に帰ると、そこには……。
「おかえり、悠介」
「唯奈。来てたんだ」
昨日、なぜか怒って帰ったっきりになっていた幼馴染の唯奈が立っていた。
しかも、相変わらずの機嫌の悪さ。今朝同様、近寄りがたい雰囲気を感じる。
……一体、なぜ唯奈は怒っているんだろう。
悠介には、全くと言っていいほど心当たりがなかった。しかし、間違いなく怒りの対象は自分であり、きちんと話をしない限り、これは解決しないだろう。長年の付き合いから、そう分析した悠介は、唯奈と話をするため、部屋に上がってもらうことにした。
帰宅後。一旦着替えを済ませ、唯奈と相対する位置に座る悠介。
これから二人で話す話題は……もちろん、唯奈の態度に関してだ。
「なあ、唯奈。なんで昨日から機嫌が悪いんだ?」
「は? 別に機嫌なんて悪くないけど」
「いや、なんか怒ってるだろ。俺に対して」
「……なんでそこまで分かって、理由には気づかないのよ」
「え?」
「この馬鹿、鈍感って言ったのよ!」
「ど、鈍感……?」
具体的にどこが……と尋ねようとすると。
「あんた、七沢さんと付き合ってるの?」
「え、ああ……今朝の見てたのか」
「見てたわよ。デレデレして、楽しそうに喋ってるあんたの顔をね」
「ひ、酷い言われようだな……」
「……それで、どうなの?」
「まあ、唯奈の言う通りだ。昨日、七沢さんに告白されたんだよ。それで……」
「それで、喜んでオッケーの返事出したんだ。ろくに考えもせず、ほいほいと」
「なっ──そんなことはないぞ! 現に俺は、一生懸命考えて、一度は断ったんだからな!」
「断ったって……けど、結局付き合ってるんじゃない」
しまった。勢いで本当のことを言ってしまった……と、悠介は自信の発言を振り返り、若干の後悔を覚える。
仮の関係だということを内緒にしておいてほしいと、恵美に頼まれたわけではないが……何となく、言わない方がいいのかなと思っていたからだ。
しかし、昨日も中途半端な答えをしてしまったし、それに一か月後に、まだ付き合いが続いているかは分からない。そうなると、今度はなぜ別れたのか……という話にもなるだろうと考え、結局悩んだ末に、悠介は正直に答えることを決めた。
「……実はその後、お試しで付き合ってほしいって言われたんだ」
「……え? お試しって……どういうこと?」
「一か月、お試しで付き合ってみる。それで、気持ちが変わらなかったら、フッてくれいいって条件なんだ。自分でも、決していいことをしているとは思わないけど……七沢さんからお願いされて、それで」
「……ふ、ふーん。てことはあんた、七沢さんと付き合ってはいるけど、恋人仮みたいな状態ってことなの?」
「まあ、そう言うことになるな」
そう答えると恵美は、何故かそれまで感じていた棘のようなものが取れ、少しずつ機嫌が戻ってきていた。
そして。
「……てことは、まだ私にもチャンスが……」
何やら独り言を口にする。
悠介には、声が小さすぎて聞こえなかったようだが。
「あの、唯奈? どうしたんだ……」
「な、何でもないわ。それより、明日は一緒に学校行くから、寝坊するんじゃないわよ?」
「え、ああ……それは別に構わないけど」
悠介にとって、それはもはや日課であり、改まって断る理由もない。
こうして改めて言われるのは、なんだか違和感を感じるが。
結局その後、唯奈は特に何を言うでもなく、家に帰ってしまった。
……何だったんだ、今日の態度。
長年付き合いの長い幼馴染同士とはいえ、昨日、そして今日の不思議な態度には、首をかしげるしかない悠介であった。
◇
翌日。
いつも通り、悠介は唯奈と共に登校していた。
昨日、一昨日と怒っていた姿はすっかり鳴りを潜め、いつも通りの唯奈である。
いや、むしろ少し優しい気も……と、悠介は考えていた。
いつもなら、起きてから登校までに、何かしらお叱りの言葉が飛んでくるような……。
今朝は、やけに優しく起こしてくれ、朝ご飯もいつもより豪華で、着替えの制服まで用意してくれる周到っぷり。
そこまでしてくれなくても……と思いつつ、今度は逆に優しくなった唯奈に、それはそれで違和感と若干の恐怖を覚えていた。
なんてことを考えながら、学校の最寄り駅を降り、歩いていると。
「──悠介君!」
後ろから、声をかけられた。
この声は……間違いない、恵美だ。
「あ、おはよう。恵美」
「はい、おはようございます! ……あ、あの。それより、聞きたいんですけど……悠介君って、羽瀬川さんとどういう関係なんですか?」
「え?」
恵美は、悠介と唯奈が幼馴染であることを知らない。
また、二人が一緒に登校していることも知らなかったため、なぜ一緒にいるのかが分からないのだ。
そのことに気づいた悠介は、事情を説明すべく口を開く。
「ああ実は、唯奈とは──」
しかし、その言葉を遮るように。
「──私、悠介のことが好きなの」
と、唯奈が言うのであった。
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