後輩の様子がおかしい
次の日。起きてからしばらくして、悠介は違和感を感じていた。
(今日は唯奈、迎えに来ないんだな)
高校に入学してからというもの、毎朝唯奈が迎えに来ることが日課となっていた。
先に行こうものなら、あとから「どうして待っていなかったのか」と問い詰められるため、悠介は諦めて、大人しく唯奈が来るのを待つようにしていたのだが、今日はなぜか、時間を過ぎてもやってくる気配がない。
……仕方ない。今日は先に行くか。
これ以上待てば、遅刻してしまう。そう判断し、学校へ向かうのであった。
◇
そういうわけで、珍しく一人で学校へ向かっていると。
「せーんぱいっ。おはよーございます!」
突然、後ろから肩を叩かれる。
悠介が振り向くと、そこには部活の後輩──雨宮灯里が立っていた。
よく笑う、元気な子。それが、彼女に対する悠介の印象。
悠介は一年生の頃から、『校内ボランティア部』という部活に所属していた。活動内容はと言えば、学校内で困ったことが発生した時に、ボランティアで助けに行くというもの。
部活の助っ人に入ったり、教師の手伝いをしたり。内容は幅広い。
ただしボランティアと名がついてるとはいえ、見返りは発生する。当然、お金のやり取りは発生しないが……学食の食券だったり、学校内のストアで使える割引券だったり、そう言うものをもらえるのだ。
とはいえ、この部に入る人間はなかなかの物好きと言われている。
故に、部員は悠介と……それから、もう一人の物好き、灯里の二人だけ。
初め、灯里が入部したいと言った時、悠介はずいぶん驚いたものだ。
まさかこの部に、興味を示す人がいるなんて、と。
人助けが好きな悠介にとって、この部活はまさにうってつけなのだが……自分と同じような人が、他にいるとは思っても見なかったのである。
「おお、雨宮。おはよう」
「はいっ! ……ところで、今日はあの女……じゃなくて!」
なにか言いかけて、灯里は慌ててごまかす。
悠介には聞こえていなかったようだ。
「いつも一緒に学校へ行ってる先輩は、一緒じゃないんですね」
「まあ、たまにはな」
「なら、今日は一緒に学校へ行ってもいいですか?」
「別にいいよ。そんな楽しいもんじゃないと思うけど」
「わーい。センパイと一緒~♪」
浮かれ気分で、隣を歩く灯里。
こういう風に懐いてくれるのは、先輩としては嬉しいものだな……と、悠介は思う。
数少ない部活仲間だ、大切にしたい。
「そういえばセンパイ、今日の部活はどうします?」
「あー、そうだな。依頼箱を確認して、何も無かったら解散って感じかな」
「了解でーす! あ、それと、もう一つ聞きたいんですけどー」
と、灯里は突然。
「昨日、屋上でお話してた女性の人って-、誰ですか?」
やや低い声で尋ねる灯里。
表情こそ笑っているが、目は全く笑っていない。
それに気づいた悠介は、慌てつつ。
「な、なんでそれを」
「たまたま見かけたんです。……たまたま」
「そ、そうか……」
少し怖いなと感じつつ、たまに灯里はこういうところもあるからなと、冷静さを取り戻す。
「あの子はクラスメイトだよ」
「ふうん。……まさか、彼女だとか言いませんよね?」
ドキッとしつつ、唯奈同様、ごまかすのも悪いなと感じ。
「彼女といえば、彼女だよ」
と、昨日と同じように、中途半端な答えをしてしまう。
すると──。
「──は?」
一気に目つきが変わった。
「ど、どうした雨宮?」
そんな豹変っぷりに慌てる悠介。すると、すぐにいつも通りの笑顔を取り戻し。
「あ、何でもないですよー! 全然、ほんと!」
「そ、そうか……ならいいんだけど」
「そうだ、今日は日直だったんだ! それじゃ、センパイ、また放課後にー!」
そう言って、灯里は去って行ってしまった。
……な、何だったんだ。
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