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3/10

後輩の様子がおかしい


 次の日。起きてからしばらくして、悠介は違和感を感じていた。


(今日は唯奈、迎えに来ないんだな)


 高校に入学してからというもの、毎朝唯奈が迎えに来ることが日課となっていた。

 先に行こうものなら、あとから「どうして待っていなかったのか」と問い詰められるため、悠介は諦めて、大人しく唯奈が来るのを待つようにしていたのだが、今日はなぜか、時間を過ぎてもやってくる気配がない。

 ……仕方ない。今日は先に行くか。

 これ以上待てば、遅刻してしまう。そう判断し、学校へ向かうのであった。



 そういうわけで、珍しく一人で学校へ向かっていると。


「せーんぱいっ。おはよーございます!」


 突然、後ろから肩を叩かれる。

 悠介が振り向くと、そこには部活の後輩──雨宮灯里あまみやあかりが立っていた。

 よく笑う、元気な子。それが、彼女に対する悠介の印象。


 悠介は一年生の頃から、『校内ボランティア部』という部活に所属していた。活動内容はと言えば、学校内で困ったことが発生した時に、ボランティアで助けに行くというもの。

 部活の助っ人に入ったり、教師の手伝いをしたり。内容は幅広い。

 ただしボランティアと名がついてるとはいえ、見返りは発生する。当然、お金のやり取りは発生しないが……学食の食券だったり、学校内のストアで使える割引券だったり、そう言うものをもらえるのだ。

 とはいえ、この部に入る人間はなかなかの物好きと言われている。

 故に、部員は悠介と……それから、もう一人の物好き、灯里の二人だけ。

 初め、灯里が入部したいと言った時、悠介はずいぶん驚いたものだ。

 まさかこの部に、興味を示す人がいるなんて、と。

 人助けが好きな悠介にとって、この部活はまさにうってつけなのだが……自分と同じような人が、他にいるとは思っても見なかったのである。


「おお、雨宮。おはよう」

「はいっ! ……ところで、今日はあの女……じゃなくて!」


 なにか言いかけて、灯里は慌ててごまかす。

 悠介には聞こえていなかったようだ。


「いつも一緒に学校へ行ってる先輩は、一緒じゃないんですね」

「まあ、たまにはな」

「なら、今日は一緒に学校へ行ってもいいですか?」

「別にいいよ。そんな楽しいもんじゃないと思うけど」

「わーい。センパイと一緒~♪」


 浮かれ気分で、隣を歩く灯里。

 こういう風に懐いてくれるのは、先輩としては嬉しいものだな……と、悠介は思う。

 数少ない部活仲間だ、大切にしたい。


「そういえばセンパイ、今日の部活はどうします?」

「あー、そうだな。依頼箱を確認して、何も無かったら解散って感じかな」

「了解でーす! あ、それと、もう一つ聞きたいんですけどー」


 と、灯里は突然。


「昨日、屋上でお話してた女性の人って-、誰ですか?」


 やや低い声で尋ねる灯里。

 表情こそ笑っているが、目は全く笑っていない。

 それに気づいた悠介は、慌てつつ。


「な、なんでそれを」

「たまたま見かけたんです。……たまたま」

「そ、そうか……」


 少し怖いなと感じつつ、たまに灯里はこういうところもあるからなと、冷静さを取り戻す。


「あの子はクラスメイトだよ」

「ふうん。……まさか、彼女だとか言いませんよね?」


 ドキッとしつつ、唯奈同様、ごまかすのも悪いなと感じ。


「彼女といえば、彼女だよ」


 と、昨日と同じように、中途半端な答えをしてしまう。

 すると──。


「──は?」


 一気に目つきが変わった。


「ど、どうした雨宮?」


 そんな豹変っぷりに慌てる悠介。すると、すぐにいつも通りの笑顔を取り戻し。


「あ、何でもないですよー! 全然、ほんと!」

「そ、そうか……ならいいんだけど」

「そうだ、今日は日直だったんだ! それじゃ、センパイ、また放課後にー!」


 そう言って、灯里は去って行ってしまった。

 ……な、何だったんだ。

面白いと思っていただけましたら、

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