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端っこに住むチビ魔女さん。  作者: 夜凪
まだ見ぬ薬を求めて

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 ガタゴトと馬車は進む。

 馬車の中では先ほどのガラス瓶が乗客の中で回されていた。

 ところどころで「このクモ見たことがある」とか「こんな小さなクモが毒を持ってるとは」などの声が上がっている。

「見かけた時はどうすればいいのか?」「噛まれたらどんな薬がいいのか?」

 ときどき飛んでくる質問に、ミーシャは後ろを振り返り椅子の堅い背もたれにしがみつくようにしながら丁寧に答えていった。


 一番恐ろしいのは間違った知識を広められてしまう事だ。

 今回の場合は、重症化してしまった少年の様子を遠目にとはいえ見かけた人がいるため、ミーシャはより慎重に対応を余儀なくされた。


 アカゲグモは確かに毒グモではあるが、とても臆病なクモでこちらから手を出さない限り噛まれることはほとんどない。そして、やぶ蚊など食べるため別方向から見たら益虫でもあるのだ。

 過剰に反応されて撲滅しようという流れになるのは非常に困るし、生態系が壊れて別の問題が浮上する可能性もある。


 昔同じように、毒グモなら退治しちゃえばいいのにと軽い気持ちで口にして、レイアースから滾々と説明をされた事があったミーシャは、ほんの少しだけ気を付けてもらえれば問題ないのだと自分の経験を交えて何度も繰り返した。


『どんな生き物も命があり生きざまがある。一方的に排除するんじゃなくて、それを理解してできる限り共に生きていくの。すべてがどこかでつながっていて、支えあっているのだから』

 穏やかにほほ笑みながら教えてくれた母親の言葉を、ミーシャはしっかりと胸に刻んでいた。


「大事なのは、上手な付き合い方を覚える事なんです。このクモだって、人の役に立つ薬の原料になったりするんですから、一面だけを見て嫌わないであげてください」

 戻ってきたアカゲグモの入った瓶を大事そうに胸に抱えて訴えるミーシャに、乗客たちは戸惑いながらも頷いた。


 その顔に理解の色を見て、ミーシャはホッと胸を撫で下ろしながら前を向いて座りなおした。

「熱弁お疲れさん」

 少し呆れたような笑いを浮かべながら、ヒューゴが水筒を差し出してくる。

 無言でそれを受け取りながら、ミーシャはぐったりと背もたれに体を預けた。


 揺れる馬車の中で進行方向と逆の方を向き、膝立ちのような中途半端な姿勢で長い間話していたため、馬車酔いを起こして吐き気がこみ上げていた。

「……夜のご飯の時にでも話せばよかった」

 ムカムカする胸を押さえながら、ミーシャは力なくつぶやいた。

 タイミング悪く馬車が山道に入ったのも悪かったのだろう。

 スピードこそ落ちたものの、左右上下に振られることが増えていたのだ。


「眠れるようなら寝ておけよ」

 流石に青い顔で目を閉じるミーシャをからかう気は起きず、ヒューゴは自分の体にもたれるようにミーシャの小さな体を引き寄せた。

 本当に限界だったらしく、ミーシャもその手に逆らわず大人しく体を預ける。


「酔い止めの薬はないのか?」

「……今、切らしてるの」

 声を潜めて尋ねたヒューゴに、ミーシャが力なく首を横に振る。

 祭りの次の日、二日酔いで頼ってきた村人がマヤの予想よりも多く、ミーシャも薬を提供していた。

 二日酔いと乗り物酔いの薬は重複する生薬が多く、その時に手持ちを使い切っていたのだ。


「あ~、あの日か」

 ミーシャの様子から原因に思い当たったヒューゴは眉を寄せる。

 冬に入る前の祭り騒ぎが大きくなるのは例年の事だが、今回は悩みの種であった村唯一の薬師(マヤ)の目が改善した事で、若者だけでなく年寄りたちまで盛り上がっていた。

 そのため、予想より飲み過ぎで体調を崩したものが多かったのだから、マヤも怒るに怒れなかったのだ。


「ない物はしょうがないな。大人しくしとけ」

「……ん」

 コクリと頷くと動かなくなったミーシャから、しばらくすると小さな寝息が聞こえてきた。

 どうやら、無事に眠りの世界に逃げ込むことができたらしい。


「もうちょっとこっちにずれていいぜ、兄ちゃん」

 隣で様子を伺っていたクリシュが、囁きながら体を横にずらした。心得たようにその隣の乗客も体を動かし、ヒューゴとの間にわずかながら隙間が生まれた。


「……どうも」

 一瞬迷った後、ヒューゴは小さく頭を下げ体をずらすと、出来た余裕を利用してミーシャの頭を膝へと誘導した。

 体を横たえられたミーシャは、居心地の良い体勢を探してしばらくごそごそと身じろぎしていたがすぐに大人しくなった。

 

 少しだけ薄くなった眉間のしわに、それを覗き込んでいた男たちからほっと安堵の息がもれる。

「なぁ、そいつが薬の材料になるって本当かい?」

 ミーシャの手からそっと取り上げたガラス瓶の中には、今も小さなクモがカサカサと動いていた。

 何気なくそれを眺めていたヒューゴに、恐る恐るというように声がかけられる。


「さぁ。俺はミーシャと違って薬の知識はないから分からない。けど、ミーシャが言うからにはなんかの薬になるんだろ」

「毒と薬は紙一重とは言うが、本当なんだなぁ」

 感心したようにつぶやきながらも、少々顔が引きつっているクリシュに、ヒューゴは苦笑を浮かべる。

 命を脅かす危険がある毒を利用するという考えは、一般的には受け入れにくいと想像できたからだ。


(そういや昔ババ様が『人は自分が理解できないものを恐れる生き物なんだよ』って言ってたな)

 そういう意味では、ミーシャの持つ薬の知識も十分に意味の分からないものだった。それを老齢の薬師が使いこなすならともかく、まだ幼くすら見える少女が操って見せるのだ。


(こいつ単独だと、下手したら人ではないものに見られて排除される危険もあるって事か?)

 いやな想像に行きついてしまったヒューゴの眉間に皴が寄る。

(うん。こいつは大した知識もない見習いの薬師、てのは徹底させよう。後はこれ以上変なことに首突っ込まないように言い聞かせないと)

 改めて心に決めたヒューゴの脳裏に、止めようとする手を振りきって走り出した昨夜のミーシャの姿が思い浮かぶ。


(……止まるか?無理だな)

 一瞬の間もなく否定が戻ってきた自問自答に、ヒューゴは頭を抱えたくなるのをぐっとこらえた。

 考えるまでもない。同じような事があったら、ミーシャは何度でも止める手を振り切って飛び出していくはずだ。


(頼むからこれ以上厄介事が飛び込んできてくれるなよ)

 結局、ヒューゴは儚い望みを天に向ける事となるのだが、たいていの場合そういった願いは聞き届けられないのが世の常なのである。


 そして、ヒューゴはもう一つ思い違いをしていた。

 自分と違うものを恐れて排除しようとするのも人ならば、神秘的なものとして崇めようとするのもまた人なのである。

 最も、どちらがよりましかと問われれば、首を横に傾げるしかない。

 それを決めるのは、その思いを向けられた本人でしかないのだから。






 馬車はミーシャが眠っている間にも粛々と山道を登って下り、無事に麓の小さな村へと到着した。

 山間にあるその村は、もともとは野営地だった場所にできた宿場町である。

 馬車旅初日に宣言していた通り、ヒューゴは速やかに宿をとった。

 寝ぼけ眼のミーシャを引っ張っての鮮やかな撤退。

 むしろミーシャが余計なことを言い出す前に、他者から引き離したといってもいい。


 しかし、ミーシャから文句が出る事はないはずだ。

 なぜなら、今回の宿には温泉がついていたのである。

 山間の小さな野営地が宿場町にまで発展したのはそれが理由だった。


 数十年前のことだ。

 近くを流れていた小川が冬場でも温い事に気づいた者が上流まで辿り、天然温泉が湧き出ている場所を見つけたのだ。

 通常、お湯を沸かすには大量の薪を用意したり水を汲み上げたりとたくさんの労力が必要だが、手軽に湯を手にいれる事ができる。


 その事に有利性を見出した発見者は、体を清めるだけでなく疲労回復にぴったりな温泉と銘打って宿を始めた。

 苦労して一山超えてきた旅人が足を止めるのにちょうどいい場所だったこともあって、発見者の思惑以上に宿は流行り、自分もその幸運にあやかろうと続々と宿屋は増えていった。

 そうしてもと野営場は温泉を有した宿場町として、小さいながらもそこそこに栄える事となったのである。





「いいか、ミーシャ。おまえが薬師の仕事を誇りにい思っていることは分かった。だから、前回みたいなことがあっても止めるつもりはない。だけど、出来るだけ目立たないようにしてくれないか?」

 事前に情報を集めて出来る限り速やかに本日の宿を手配したヒューゴは、部屋に入り人目が無くなった途端に唐突に話し始めた。


「はい?」

 宿場町に着く直前に「温泉のあるいい部屋は争奪戦だから」とウトウトしていた所を叩き起こされて、本当に馬車が停まるなりダッシュさせられたミーシャは、状況の変化についていけずに思わず首を傾げた。


 何しろ、まだその背中には荷物が背負われたままという性急ぶりだ。

 さらに、ミーシャが馬車でのんきに惰眠をむさぼっている間、いろいろと考え込んでいたヒューゴにとっては考え抜かれたうえの宣言だとしても、ミーシャにとっては寝耳に水なのだ。


「……あ~、すまん。とりあえず荷物下すか」

 ミーシャのキョトンとした顔に自分でもいろいろと突然すぎたことに気づいたヒューゴが、少し気まずそうに頭を掻いてミーシャを部屋の中に促した。

 いまだ扉の前から動いていなかったミーシャは、呼ばれるままに素直に部屋の奥へと足を進める。

 

 ベッドが二つと小さなソファーセットがあるだけのシンプルな部屋だが、綺麗に整えられており居心地は良さそうだった。

 気になるのは、入ってきた扉以外にも複数の扉があるところだが、とりあえずミーシャはソファーへと腰を下ろした。


「で、突然どうしたの?昨日はあんなに止めてたのに」

 最初の衝撃が過ぎれば、言葉を吟味する余裕も出る。

 しかし、ヒューゴの突然の手のひら返しに言葉の意味は分かっても理解ができなくて、ミーシャはやっぱり首を傾げることになった。


「だって、それがミーシャのどうしても譲れないもの、なんだろう?」

 ヒューゴは、顔をしかめながらも向かいに腰を下ろした。

 その表情からも、本当はミーシャの行動を許容したくはないのだろうという事が伝わってくる。

「……そうね。私は、誰かを助けるために一生懸命学んできたし、薬師としての誇りを持ってる」

 昨日ヒューゴの手を振り払った時のミーシャの言葉は、心からのものだった。

 相手がだれであろうと、どんな状況だろうと、きっとミーシャが立ち止まることはないだろう。

 

 シッカリとこちらを見つめて頷くミーシャに、ヒューゴは深々とため息をつくと視線を自分の膝に落とした。そして、一瞬迷った後ゆっくりと口を開く。 

「俺は、妹が大事なんだよ」

「……知ってる、けど?」

 唐突な告白に、ミーシャは目を瞬いた。


 海巫女として家族から引き離され、いろいろなしがらみに囚われて社の中で暮らすヒューゴの妹。

 三つ下だというミルをヒューゴが大事にしているのは、付き合いの短いミーシャにもしっかりと伝わっていた。

 何なら、今この状況になっているのも、ミルの患っている病の薬を秘密裏に探すためである。

 そのために厳しい村の掟をかいくぐるようにしてヒューゴは村を離れ、ミーシャと旅をしているのだ。


「ミルは産まれた時から体が弱かったし、そのせいかちょっとどんくさい奴でさ。すぐ上が俺だったから、何かと世話を押し付けられて、ちょっと面倒だと思った事もある。けど、素直に後を追いかけ回されたらやっぱりかわいかったんだよ。はじめての妹だったしな」

 膝を上に握りしめた拳を睨みつけながらヒューゴはぽつぽつと語った。


 脳裏をよぎるのは、まだ幼い頃のミルの面影。

 同じ年ごろの子供達より一回り体が小さく、体力がないからか少し無理をするだけですぐに寝込んでしまった。高い熱で顔を赤く染め、苦しそうに喉を鳴らして息をするミルを見るのは辛かった。

 それなのに、苦しい息の下でもミルは良く笑う子供だったのだ。


「お熱さがったら、また一緒に遊んでね」そう言って握られた、小さな手のひらの熱をヒューゴは忘れられずにいた。

 最初は、なんてのんきなやつなんだと思っていたのだ。それでも、回数を重ねるごとに、それは周囲に心配かけないための、ミルの精いっぱいの強がりと優しさであることに気づいた。


 体は弱くても、心は強い。

 そうでなければ、自分が苦しい時に他者を思いやれる行動がとれるわけがない。

 幼い妹のその強さを見出してから、ヒューゴはミルをただ甘やかすのは駄目だと思った。

 真綿でくるむように大事にするのではなく、心にふさわしい体を手にいれる事ができるよう、手助けしてやりたいと思ったのだ。


 やりすぎだと親兄弟に眉をしかめられながらミルの体を鍛えるために連れ回し、少しずつ元気になってきたと思っていた頃、海巫女の印が体に浮かび上がった。なす術もなくミルを連れていかれてしまった日の絶望を、今でもヒューゴははっきりと思い出すことができる。

 あの日の悔しさをばねに、ヒューゴは今まで生きてきたのだ。


「今となっては、純粋に(ミル)の事が好きなのか、大切にしていたものを横から奪われて意地になってるのか、自分でも分からない。でも……」

 

 正面から「妹を返してほしい」と言っても当然受け入れられることはなく、名誉な事なのに非常識だと叱られ、反省しろと納屋に閉じ込められた。

 これではだめだと方向転換して、表向きは妹が海巫女になることを喜びながら、村で少しでも有利な立場を得るために補給部隊を目指すことにした。

 遊びたい盛りの子供が、死にそうな目に合いながら自己鍛錬を続けるのは辛かった。体だけ鍛えても届かないと知り、いろいろな人に教えを乞い頭も鍛えた。


 何度も心が折れそうになったけど続ける事ができたのは、ときどき妹と会う事ができたからだ。昔と変わらない笑顔が少しづつ曇っていく度に、絶対にこの穴倉から解放してやるんだと心に誓った。

 その穴倉暮らしにも意味があったのだとつい最近知ったけれど、やっぱり納得はできなかった。


「理不尽が過ぎると思うんだ。(ミル)の未来は(ミル)のものだ。他人が勝手に決めていいものだとは思えないし、病だというなら治してやりたい。少なくとも、あんな閉じ込められたまま人生を終わらせたくないんだ」


 自分たちを憐れに思ってこっそりと会わせてくれていた先代巫女(ノア)の姿を思い出して、ヒューゴは唇をかんだ。

 体調が悪いからと姿を現さない先代巫女を最初は誰もが心配していた。

 それなのに、ミルが跡継ぎとしてしっかりと務めている姿を見るたび、少しずつ村人たちの先代巫女(ノア)に対する関心が薄れて行っていることを、ヒューゴは不思議に思っていた。


 これまで数十年信頼して頼っていた海巫女に対する感情はそんな程度のものなのかと不満だったし、まるで思考を誘導されているかのように海巫女から意識をそらしていく村人たちが、正直不気味にも感じていた。


(あんな姿見せられるはずがない。何が愛し子の証だよ。まるで呪いのようじゃないか)

 体中の皮膚が変質して、自分で動くこともままならない。

 放っておけばそんな未来が、(ミル)に確実に降りかかるという現実にヒューゴは憤りを感じた。


 そんなヒューゴを、そこだけは昔と変わらない綺麗な瞳で悲しそうに見つめている先代巫女(ノア)だって、もっと怒ってもいいのだとヒューゴは思う。

 都合よく信仰の旗印にしていたくせに、救うための手立てを見つけようともしなかったのだから。


 マヤは真実を隠していたことも、救う手段を見つけられていない事も謝ってくれたけれど、謝られたところでなんだというのか。

 結局は過去の因習をなぞるだけで、ノアを犠牲にしたのだ。そして、このままいけばミルも同じ道を辿る。

 村長達はさらに悪質だ。日々、病状が悪化するノアを前に何を考えていたのかは分からないけれど、自由に外を行き来する補給部隊を擁していたのに、情報を集める事もしなかった。

 補給部隊の能力なら、有力な情報を集める事は可能だったはずだ。

 大陸の端にいたミーシャですら、病の手掛かりとなる情報を持っていたのだから。


 本来なら、今すぐミルをさらって逃げたかった。

 だけど、未知の病を抱えたミルを連れて逃げ出して、さらに症状が悪化しないとも限らない。

 少なくとも今のところは、ミルの症状は落ち着いており、村での地位を得ている薬師のマヤが見守ってくれている。皮肉なことにあの場所にいる限り安全は保障されているのだ。


 何よりも、ミル自身がノアの側にいる事を望んでいる。

 閉ざされた世界の中で寄り添うように生きてきた二人には、親子の情に似た縁ができていた。

 きっと、最後の時を看取るまでミルがノアの側を離れる事はないだろう。

 だからヒューゴは村のいびつさを知りながら、ミルをあの場に残し、自分だけが薬を探す旅に付き添う事を選んだ。

 

(ミル)のためなら、きっと俺はなんだってするし、誰が何と言ったって諦めたりしない。そんな俺が助力を求めているお前の信念を否定するのはおかしいだろう?」

 内心の葛藤が伺える絞り出すような声だった。

「……ヒューゴ」

 ミーシャは、うつむいたまま頑なに顔をあげないヒューゴになんと声をかけていいのか分からず口ごもった。


 ミルを襲った病の結果、ミルは外で過ごしていた年数と同じほどの時間を洞窟の中で過ごすことになった。

 それはとても悲しい事だし、不自由と理不尽を噛みしめる日々だったかもしれない。

 だけど同じだけ、外の世界にいたはずのヒューゴも捕らわれていたのだろう。

 妹を救わなければいけないという自分の作りだした檻の中に……。


 ヒューゴが自分で決めたことだ。

 それを哀れむのは間違っているような気がする。

 でも、ミルが連れていかれた時、ヒューゴだってまだ護られるべき小さな子供だったはずだ。

 だから……。


「ヒューゴはすごいね」

 ミーシャは小さなテーブル越しに手を伸ばし、うつむいたままのヒューゴの頭を撫でた。

「ひねくれもので意地っ張りで、だけど誰よりも努力してるヒューゴはすごい!」

 ミーシャは、この言葉が小さな頃のヒューゴに届くといいなと思いながら、サラサラの髪を撫でる。

 きっと一人で歯を食いしばって頑張っていた子供のヒューゴは、誰かにこうして褒めてもらいたかったはずだから。


 突然頭を撫でられてあっけにとられていたヒューゴは、次の瞬間我に返ってバッと後ろに体を引いてミーシャの手から逃げた。なぜ、自分は目の前の少女にまるで小さな子供のように慰撫されているのか、意味が分からない。


「いや、意味わからん!てか、お前それ、半分悪口じゃねぇか!」

「あれ?そうだっけ?褒めたつもりなんだけど」

「い~や、どう聞いても悪口だった!だいたい、どうしてああなるんだよ?そんな話してなかっただろ?」

「え~、なんでだろう?なんとなく?」

「なんとなくで人の頭撫でんな!」


 思わず叫んだヒューゴに、のんびり答えながらミーシャは笑った。

「まぁまぁ。ヒューゴが私の事を認めてくれた記念って事で」

「認めてねぇ。あきらめたんだよ!言っとくけど、本当に変な奴らおびき寄せる危険があるんだからな!?止めないけど、こっそり‼ほどほどにしてくれよな!」

 珍しく取り乱したように手を振り回して力説する動きにつられて、乱れた長い前髪の隙間から見えた頬は赤く染まっていた。


「はーい。あ、私温泉入りたい。入ってきていい?」

「真面目に聞けよ!大事な事なんだからな!」

 笑いながら立ち上がり、荷物をベッドの方へ移動するミーシャの背中にヒューゴの文句が飛んでくる。

 それに頷きながら、ミーシャはなんだかヒューゴとの距離が近くなったような気がしてほころんでしまう頬を押さえる事ができずにいた。


「ね!絶対ミルちゃんのお薬、見つけようね!私がんばる!」

「お……、おお」

 無邪気な笑顔で唐突に宣言されて虚を突かれたヒューゴは、まだまだ続きそうだった文句を思わず飲み込んでしまうのだった。

読んでくださり、ありがとうございます。


相互理解って難しいですよね。

言葉を尽くしたとしても、全ての施行を言語化するのは難しいし、同じ話を聞いても同じ感想になるかも分からない。

そう考えると、言葉って本当に難しいです。


というわけで、今回は本当に難産でした。

ヒューゴは基本ひねくれてて妹以外はどうでもいい思考の人だし、ミーシャは素直過ぎて言葉の裏はあんまりよまない直感の人だし。

あれ?分かりあえなくない?みたいな……。

書けば書くほど分からなくなり、これって話まとまってる?と疑心暗鬼の負のループにはまり。

子供二人旅はいかんですね。

大人……フォロー役の大人を下さい。

というわけで、早いところラインとの合流目指して頑張ります。

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