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Hide and Seek

 イングウェイは聞いた。

「なぜお前らは俺の前に現れる? なぜ俺を殺そうとする?」


 リーインベッツィは言った。

「わしらのことを、狭間の存在じゃと思っとるんじゃろう?」


 答えになっていなかった。少なくとも、イングウェイの求める答えではない。

 (ジャック)からウイルスに感染したんだ。そう言われた方がまだ理解できる。けれど現実とは理解できないものだし、きっとリーインベッツィの方が正しいのだろう。

 まともな答えなどない。そもそも最初から狂っていたのだから。


「クソ野郎だ、お前もサクラも。俺の死骸にエビのように群がって食いつくす。払っても払ってもまとわりついてきやがる」


「助けてやったというのに、ずいぶんな言い草じゃのう」

 けたけたと楽しそうな笑い声が、夜の闇に響いた。

 イングウェイは、唾を吐くことで必死に正気にしがみつく。

「幻影だ、お前らは脳みそに入り込んだ(ワーム)だ、頭痛も全部お前らのせいだ」

「それじゃそれ、わしらを幻影(ファントム)だと思っとるんじゃろう? それがそもそもの間違いじゃろうに」


 何をバカな。

 息を整えて、はっきりと口にする。

「……幻影は幻影らしく、消えるべきだ」


 リーインベッツィはイングウェイの瞳の奥を一瞬だけのぞき込むと、悲しそうにうつむいた。

「おぬしらにとっては息抜きのダイヴだろうが、わしらにとっては冷酷な現実じゃ」

「ああそうさ、だからお前たちは――」

「だからこそ、じゃ。わしらは一度きりの現実を生きておる。危なくなっても逃げればいい、そんなことを考えているおぬしらが、わしらと競うつもりか? それが、そもそもの間違いじゃろ」


 イングウェイは何も言い返せなかった。


「中途半端なのは、ぬしらのほうじゃ」



 崩れ落ちそうになるのを必死で耐え、イングウェイは考えた。どうすればいいかを。

 何をすればいい? どうすれば抜け出せる?


「探すんじゃの、嬢ちゃんを」

「誰だよ、巨乳の女か?」

「違うわ、アホ。サクラ・チュルージョとかいう女じゃ」


 ぞくりと脊椎が震える。

「あいつが? しかしあれは……」

「そっちじゃない、本物のサクラをじゃ。お前の知っとる嬢ちゃんは、最初からあんな女なのか?」

 即答はできなかった。迷っていたからではない、頭の中の靄がまだ邪魔をしているのだ。

 俺は、サクラを知っているのだろうか。サクラを見付けられるのか。自信はない。


「かくれんぼみたいなもんじゃ、気軽にやるがいいさ。――さて、ここまでくればもういいじゃろ?」


 イングウェイが顔を上げると、デイヴの店が遠くに見えた。

 リーインベッツィはばさりと漆黒の翼を広げると、大きく羽ばたきながら飛び上がる。


 じゃあの。


 それだけ言うと、さらに高く。

 東の空が白み始めていた。


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