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 ギルドでもらった地図に従い、うす暗い下水道を進む。俺たちは地下迷宮を目指していた。


 足元の石は濡れており、設置されている魔力灯≪灯火(ライティング)≫の明かりは心もとない。ところどころにある落書きがやけに目立つ。

 ネズミと目が合う。俺は考える。

 この淀んだ地下にお似合いなのは、盗賊たちよりもむしろ俺の方ではないのかと。


「うええー、ばっちいですねえ。さっさと終わらせて戻りましょ」


 サクラは袴の裾を持ち上げ、ちょいちょいと跳ねるようについてくる。それでも滑りそうになる素振りすら見せないのは、さすがと言ったところか。

 フィッツもかなり身軽なほうだが、基本の動作や体幹、技などが安定しているのは、サクラのほうだ。


「ダンジョンに潜りたがっていたんじゃなかったのか? じっくり楽しんだらどうだ」

「え、私、そんなこと言いましたっけ? まあ、もういいんですよ、イングウェイさんのほうから誘ってくれましたし」

 変な奴だ。

 にやにやするサクラに首をかしげつつ、俺は先を急ぐ。

 確かにこんな陰気なダンジョンは、女の子向きではないのかもしれない。早く敵を見つけて、戦わせてやろう。



 いくつか階段を降り、さらに奥へと進む。ごうごうと水の音が大きくなる。

 これは、下水の音とは違うな。

 冷えた空気が流れてくる。


「うわあ、すっごい!」

「驚いたな、地下にこんな河が流れていたとは」


「イングウェイさーん、ちょっと寒いなー」

「ん? ああ、水場だからな、確かに冷えるかもしれない。くっついて歩くか」

 俺がサクラの肩を抱き寄せた。

「へへへー、嬉しいなー」


 下水道は、自然の大洞窟へとつながっていた。そしてそこを流れる、地底の大河。岩から岩の裂け目へと消えていく。先は真っ暗で見えはしない。

 付近の建築物の古さや下水道の広がり方からして、おそらくアサルセニア王都が作られたかなり初期のころから、すでにここは利用されてきたのだろう。

 先日の事件を思い出す。もしかしたら襲撃時の逃走経路にもなっているのかもしれないな。


「このへんなんですよね、地下迷宮の入り口って」

「ああ、河の対岸のようだな。もしかしてこのあたりは、ほぼ王城の真下じゃないか?」


 ダンジョンの真上に存在する王城。地脈を循環する魔力を取り込んで結界にするなど、魔法的な施設として似たようなものを見たことはあるが。

 まあいいか、今は関係ない。



 俺たちは≪飛行(フライ)≫の魔法で河を跳び越し、岩の裂け目へと足を踏み入れた。




 ビーッ、ビーッ、ビーッ。


 急にけたたましいサイレンが鳴り響く。侵入警報か? 盗賊のわりに上等なものを用意しているな。


「どうしますっ、イングウェイさんっ!」

 身を低くして、油断なく周囲を警戒するサクラ。

「決まっている、突っ込むぞ。ザコ盗賊ごときに時間はかけたくない」

「はいっ!」


 足音をほとんど立てずに俺のすぐ後ろをついてくるサクラ。

 最初のゴブリン戦のときのような頼りなさはいつの間にか消え、サクラは頼りになる戦士として成長していた。そういえば最近は一緒に依頼をこなすことはなかったので、気付かなかったけど。


 しゅっと風切り音が聞こえ、直後に俺の右方向で魔法陣が青い光を放った。


 俺が展開していた防御魔法に、暗闇から飛来した矢が阻まれたのだ。光の中、岩陰に一瞬見えたのは、白い顔。

 盗賊ではない。というか、人ではない。

 おそらく骸骨(スケルトン)だ。


 足元の土が崩れ落ちる。が、遅い。

「サクラ、飛べ!」

「もう飛んでまっすー!」


 落とし穴。だが、舐めてるのかこいつらは。魔法的な措置をほどこしているならまだしも、普通の落とし穴など、落ちる前に走り抜ければ問題ない。


 ついで前方から襲い掛かる、複数の火の玉。即座に≪反射魔法(リフレクト・マジック)≫と≪幻影体(ファントム・ボディ)≫を唱える。


「俺が援護する、サクラ、前に出て魔法使いどもをやれ」


 答えの代わりに、サクラはスピードを上げて俺の前に踊り出る。壁を蹴って火の玉をかわすと、その勢いのまま魔法使いの群れに切りかかる。

「やあぁーーっ!」


 気合とともにサクラは、名刀モモフクをふるう。

 魔法使いどもはほとんど棒立ちのままなぎ倒される。サクラが通り過ぎた後で、深緑のローブが黒く染まっていくのが見える。


 後続を警戒しつつサクラに追いつくと、倒れている魔法使いたちの生体反応と魔力反応を探る。

 思った通りだ、こいつら、最初から生きちゃいない。


「低レベルとはいえ、屍術師(リッチ)の群れか。珍しいな」

「リッチ?」

「ゾンビーウィザードのことだ」

「へー、ぞんびー。って、何で盗賊さんたちが死んでるんですか?」


 俺が知るか。

 盗賊のいるはずの迷宮は、不死者(アンデッド)どもに占拠されていた。


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