世界と現実
~アントニーその4~
僕が転生する前の世界も、転生後のこの世界にも、レベルやステータスというものが変わらず存在していた。
例えば、僕の公式なレベルは45。
僕のパーティーの平均レベルは、40前後だ。
レベルは10も違えば、戦いにならないと言われる。
実際には相性や戦いかたもあるので、そこまで単純な話ではないけれど、その感覚はおおむね間違いではないだろう。
――そして、僕の真のレベルは、65だ。
この世界において、僕よりもレベルが高い相手は、いない。
僕は、聖剣バルバレスコに魔力を込めた。
バルバレスコは、素晴らしい剣だ。これほどの神道具は、前の世界でも見たことがない。
浄化の力が込められているが、それはこの剣の力の一端に過ぎない。
魔力を吸い、切れ味に変える。ある程度以上の魔法剣なら大抵持っている能力だ。
だが、バルバレスコはその倍率がずば抜けている。クセもなく、投入魔力の上限もない。
以前レベル60で本気で魔力を込めたことがあるが、バルバレスコの刃は静かに光り輝くだけで、拒否反応も、限界を知らせる共振も怒らなかった。
単純で使いやすく、強力。だから、対応する方法も少ない。
光り輝く白銀の刃を見て、魔王は手を止め、黒剣コロンビーヌを構え直した。
僕は聞いてみた。
「僕は勇者アントニー。アントニー・ブランドだ。貴様は、伝説の魔王なのか?」
「くくくっ、ありがてえなあ。最近転生したばっかりなのに、もう伝説になってんのかよ。そうだぜ、魔王だ、魔王ロック。貴様は勇者なんだって? じゃあ、魔王である俺様と戦うのが当然だよなあ?」
「ふん、戦闘狂め。話し合う気は無しか」
最近転生? 少し気になる点はあるが、やはり話し合うような雰囲気ではない。諦めて覚悟を決める。
にやつく魔王ロックの左腕が、黒い魔力を帯びているのに気づいた。
戦慄。先ほど平らげた料理が4日前のものだと気づいたときのような寒気が、全身を駆け抜ける。
魔王が低い声で唱える。
「≪濃霧≫」
黒い霧が僕の眼前を覆う。まずい!
すぐに横に飛ぶが、霧は意志を持つように僕を追いかけてくる。
魔法。やはり魔王は転生者なのだ。だが、そんなことを考えている暇はなかった。
「オラオラ、どこ見てんだよっ!」
霧の向こうから、黒い刃が襲う。避けきれない。いや、避けるだけではじり貧だ。
「バルバレスコ!」
剣を振るうと、魔力を吸った白刃が黒い霧を切り裂いていく。
きんきんきん、かんかんかん
剣同士がぶつかる激しい音が響く。
完全に霧を晴らしたと思った次の瞬間、魔王はすぐに次の魔法を繰り出した。
「≪独房の雨≫!」
当然のように無詠唱だ。唱えながらも、魔王の攻撃はやまない。
今度の魔法はおそらく、精神系の妨害呪文だ。
バルバレスコの浄化の力により、幸い呪いの効果は大幅に軽減されている。
それでも、一人雨の中バスを待っているような孤独感が、僕の心を責めてくる。
「くっそお、寂しい!」
「ふはははっ、楽しいなあ、弱い者いじめは!!」
くそう、弱い者いじめだと! こんな、剣術の基本も知らないような、めちゃくちゃな奴に……!
そのとき、僕は気づいた。気づいてしまった。
魔王ロックの剣術は、でたらめだ。
ある程度の基本はできているが、我流もいいところ。
が、それで僕の剣をすべて受け切っている。
それも、魔力を乗せた聖剣バルバレスコの一撃を。
魔王自体は、今のところ攻撃呪文は使っていない。使えないのかどうかは知らないが。
彼の使ってきた魔法は、今のところ祝福と呪いのみ。
しかし、いくら補助魔法で強化しても、戦闘技術の強化はできない。
つまり――
僕は、この敵に勝てるのか?
現実が残酷に、僕を押しつぶそうとしていた。




