Until it sleeps
「はー、引き受けたはいいけど、どうしよーかなあ」
私は馬小屋で星を眺めながら、困り果てていた。泊めてもらった恩もあるが、そうでなくても村の人々を見ると、はいさよならなんて言えやしない。ただ、どうしたって力が足りないのだ。
やっぱり朝になったら謝って、イングウェイさんを探してこよう。バツは悪いけど、仕方ない。
意地で突っ込んで死ぬことの愚かさは、イングウェイさんから何度も言われている。彼は特にそのへんのことで、サムライに対して良いイメージが無いらしい。
聞いた話によると、昔、雪原で一人のサムライが追われているのに出くわしたそうだ。彼は当然助けようとしたのだが、そのサムライは防御力が紙のくせに敵に切りかかりにいってやられてしまう。何度やっても死んでしまうので、とうとう諦めて見殺しにしたらしい。
彼が剣聖と呼ばれていることは、ずいぶん後になって知ったそうだが、そんな間抜けな剣聖っているのだろうか? というか、何度やっても死んでしまうって、ゾンビか何かだろうか? イングウェイさんはロードすれば生き返るって言ってたけど、よく意味がわからなかった。
そんなことを考えているうちに、夜は更けていく。
くぴー、すぴー。ぐー。
いつの間にか、私は眠っていたようだ。
朝。さわやかな朝だが、目覚めは最悪だった。かすかな希望にすがる村人たちに、許しを請わなければならないのだ。
そして、もう一つサイアクなことができてしまった。
ぐぎゃー、ぎゃおーす
トカゲのやかましい鳴き声は、馬小屋で寝ている私の耳にもばっちりと聞こえた。
ちくちくとうっとおしい藁を払いながら外に出ると、そこにいたのはチビ・ドラゴン。
しめた、これなら勝てる! と呑気に思ったのだが、一瞬で脊椎が凍り付く。
「ままー、たすけてー、いたいよー」
チビ・ドラゴンは、小さな女の子をその鋭いかぎ爪で握りしめていたのだ。
昨夜、私に泣きついてきたあの女の子だ。
やばい、助けなきゃ!
寝ぼけた頭に活を入れ、モモフクを抜く。殺気に反応したのか、チビ・ドラゴンは一瞬こちらをじろりとにらむと、……なんと、翼をひろげ、飛び去ってしまったのだ。
「しまった!」
「サリア! 誰か、サリアを助けてくれ!」
老人の声が響く。あの女の子の名前はサリアというらしい。
もはや一刻の猶予もなかった。イングウェイさんを呼んでくるひまなど、あるはずもない。
私が、行くしかないのだ。私だけが。
脳みその血がすべて逆流していくようだ。強い酒を飲まされたときのようだ。自分がまっすぐ立てている自信すらない。
怖い。怖い、いやだ、逃げたい。
でも、私は知っている。私が逃げないだろうことを。
村人が集まって、すがるように私を見る。
「チュ、チュルージョ様、娘が……」
わかってる、見てたもん。
「助けて、どうか、お助け下さい」
むりだよ、だって相手はドラゴンなんだよ。
あいつだけならまだ勝てるかもしれない、けど、親ドラゴンに見つかったら……。
それでも、私は言ってしまった。
「大丈夫、必ず助ける。みんなは、村で待ってて」
やっぱり、言ってしまった。
そうだ、私はこういう性格なのだ。困っている人がいれば、助けたい人がいれば、じっとしていられない。
自分の力じゃどうしようもないとしても、それは変わらなかった。




