汝、ゾンビを裁くことなかれ
レイチェルは、俺を森の中にある小さな洞窟に案内してくれた。
「キャシー、いるのか!?」
俺は洞窟の入り口で、暗闇に向かい声をかける。
「あうあうあー」
洞窟の中から戻ってきたのは、唸るような低い声。
しばらく待つと、ゆっくりと女性のゾンビが出てきた。
なんということだろう、キャスリーは確かにゾンビになっていた。
肉は腐り、脳みそはゼラチンだ。彼女は両腕を前に突き出し、頭を振りながらのろのろと歩き回る。
マリアとは全く違う、知性のない蠢く亡者だった。
「あうあー、うっぷ、おげええええ。き、きぼちわるいでずわあぁぁぁ」
ああ、なんということだ。
俺は嘆いた。彼女はひどい二日酔いで、戦うどころではなかった。
「レイチェル、水を多めに飲ませてやっているか?」
「ええ、もちろん。マリアさんもよく二日酔いにはなりますから、同じようにしましたよ。ただ、やっぱりちゃんぽんで飲んだのがよくなかったんじゃないかと……」
レイチェルはキャスリーの痴態から目をそらしつつ答えた。
「そういえば、彼女は、ビールのあとワイン、さらにはウイスキーまで飲んでいたな」
「すみません、私がビールを進めたばっかりに」
「自分を責めるな。ワインはエドワードが、ウイスキーは俺が進めたのだ。そして飲んだのはキャスリー自身。みんなの責任さ」
そうだ、俺たちはパーティーだ。すべて一人が背負いこむことはない。
「イングウェイさん、きゅんっ。 ……って、どうしましょう、ときめいている場合じゃないですよ。さすがに看病しながら戦う余裕はありませんよ!」
「エドワードに預けるしかないだろう。おぶって連れていくか」
「ごべんばさい、いんぐぃー。うえっ、おえええええ」
「しゃべるな、無理せず横になっていろ」
「でも、横になったら、吐きそうになりまずばあああ」
うああー、ばっちい……
レイチェルの憐みの声。
医者として、医学の限力さを痛感しているのだろう。
「そうと決まれば、急いでエドワードさんに声をかけにいきましょう。夜襲で軍はボロボロですし、早くしないと預けるタイミングを失っちゃいますよ」
ん?
俺はその言葉に何か引っかかるものを感じた。
「レイチェル、ちょっと待ってくれ。今、軍がボロボロだと言ったか?」
「え? はい、言いましたよ。空からドラゴンや魔族が次々現れて、ブレスは吐くわ、爆裂呪文は連打されるわ。大騒ぎでしたが」
「いや、それはおかしいだろう」
こんどはレイチェルのほうが首をかしげる番だった。
「先ほど君は、”襲撃の様子を誰も覚えていない”と言っていた。朝に情報を集めた時の話だな。君は襲撃の様子を覚えているのか? 覚えているなら、どの程度?」
「あれ? そうですね、確かにおかしいな。 どうしたんだろう、私……」
レイチェルは頭を抱えて考え込む。
かなり混乱しているようだ。
「ゆっくりだ。無理せず、一つずつでいい。ゆっくり思い出していこう」
経験談ですが、複数の種類の酒を同時に飲むと、悪い酔い方になることが多いです。注意してください。
焼酎は度数の割に翌日に残ることが少ないので、私は好きです。




