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表の生徒会長に就任しました――俺、立候補してないのに  作者:


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腹黒女子は、本物だった

 俺は緒方先輩と、今井先輩に救いを求めたが、目を逸らされてしまった。


「ユキのお許しが出るまで、部活は無しな。生徒会の会計に任命するから、まずはその仕事に慣れろ。それまでは、他のことに割く余裕はないだろう」

 会計。

 そういう細かい作業は、全く向いていない気がする。


 断ろうと口を開く前に、宣告された。

「お前に拒否権は無い。明日から毎日ここに来い」


 この人に付いてきたのは正しかったのだろうか。


 俺の口から、ポロリと言葉がこぼれた。

「彼女と一緒に下校する夢が……」


 すごく小声だったのに、里見先輩は聞き逃さなかった。


「私、一緒に帰ってあげる。方向一緒だし」


 嬉しそうに言う里見先輩を見て、気付かれないよう小さく溜息を付いた。


 里見先輩は美人だ。ちょっとかわいいとか、雰囲気美人などとは、レベルが違う。

 例えるなら、婦人雑誌の巻頭を飾る、絶対買えない金額のジュエリー。

「まあ、素敵、眼福です」と拝む対象なのだ。


 いや、実物が目の前にある分、おいしそうだけど食べられない食玩のほうが近いかもしれない。

 はなから買う気も食べる気もないところは同じ。つまりそういう存在だ。


 井上先輩が、背中を叩いた。


「何しょぼくれてるの。志高く、希望を持っていれば、願いは叶うものよ。頑張ろう」


 ……そうかな。


 まだ入学初日。今日のあれこれは忘れて、明日に希望をつなごう。



 次の日、クラスの委員決めが行われた。

 その時の担任の一言で、また俺とクラスメイトとの間に、溝が出来た気がする。


「田中ヒロシは、生徒会の会計に決まっていたな。クラスの役員と兼任するのは難しいだろう。彼は除外だね」

 教室内がザワッとした。

 あまりの手回しの良さに、中学一年の時の事を思い出した。


 そのノリで大学まで指定されたりしてな、と妄想した途端にゾワッとした。


「俺たち東大に行くから、お前も来い。大丈夫、手配しておくから」


 幻聴が聞こえる。

 むちゃくちゃリアル。しかもありそう。


 俺は一年のうちに志望校を決める事を、自分に誓った。

 さて、どこの大学の何科に進むのだろうな。

 ……駄目だ、何も浮かばない。


 すでに役が決まっている俺は、そのままぼんやりと、役員が決まっていくのを眺めていた。

 そんな俺を見て、「余裕だなあ」とか、「さすが」とか言っている奴。なんなら代わってあげるわよ、とオネエ言葉が脳内に湧く。


 授業が終り、やっと昼休みになった。 初日の今日は食堂を試そうと思っていたので、すぐに席を立った。

 この学校には購買と食堂がある。ついでに購買のラインナップもチェックしようといそいそと向かった。


 食堂の前に着くと、バッタリ昨日の腹黒女子と出くわした。もしかしたら待っていたのだろうか。

 怖いな。

 俺は軽く頭を下げて通り過ぎようとした。


「わあ、偶然ね。食堂に行くの?」


「あ、はい。学食って憧れていたので」


「そう。何にする? ここのAランチは結構ボリュームあるのよ。それとカレーはチキンカツカレーの方がお得なんだ。あまり値段が変わらなくてね……」


 横に並んですごく自然に話しかけてくるので、断る方が不自然だった。


 そのため何となく、「はい」とか、「そうですね」とか言っている内に、気付けば隣り合わせに座ることになってしまった。


 俺はお勧めのA定食をテーブルに置いてしげしげと眺めた。

 メインも小鉢もボリュームがある。見栄えもして気分が上がるけど値段も高い。

 これは小遣いの余裕がある時だけだな。


 バイトを探そう。でも生徒会とバイトは両立できるのだろうか。

 生徒会役員に給料が出ればいいのに。


 そんなことを考えていたら、腹黒女子に名前を呼ばれた。


 びっくりして彼女の方を振り向いた俺は、ストレートに聞いた。

「え、俺の名前、何で知っているんですか?」


「それは知っているわよ。あなたはあの緒方会長が、ずっと待っていた男って言われているのよ」


「はあ? 何ですか。それ」


「彼は今期の生徒会の運営を、四人のメンバーだけで回していて、追加要員をとっていないの。それがあなたのせいってこと」


「なんで……」


「私も立候補した大勢の内の一人なのだけど、全員門前払いされたわ。来年になったら仲間が一人入って来るから、それで間に合うって」


「去年の内からそんな話が出ていたってことですか? 入学できるかもわからないのに?」


「合格確実ってことでしょ。すごく優秀なんだね、ヒロシ君って。それに、あの謎多き緒方君が、そんなに執着するってすごいわ。あなたにもすごく興味がある」


 呆然とした。

 少し粘ついた話し方と、熱をおびた瞳。

 危険な匂いがそこはかとなく漂う。

 昨日の話を聞いて、腹黒女子なんて呼んでいたけど、考えていたより本物かもしれない。


 少し牽制しようと思って真面目に言った。


「中学の生徒会でご一緒しただけですから、そんなに親しいわけではありませんよ」


 食べていたカレーのスプーンを置いて、こっちを見た腹黒女子が、俺の後方に視線を移した。

 視線の先を辿ると、井上先輩のかわいい笑顔と、里見先輩の背筋が凍るような怖い顔があった。


「チョロシ君、探していたのよ。この後生徒会室に来て欲しいの。いいかな」


 井上先輩はにこやかに言ったが、目は笑っていない。

 横に座っている腹黒女子を チラっと一瞥し、完全に無視した。


「はい! 急いで食べます」


 俺は焦った。


 A定食を味わうのは、もう諦めているが、半分以上残すのは気が引けた。懇願の眼差しを井上先輩に向けると、大げさな感じでため息をつかれた。


「仕方がないわね。待っていてあげる。早く食べてね」


 そう言って、井上先輩は俺の隣に座り込んだ。里見先輩は向いに座って俺を睨み続けている。

 その視線がスッと横に動いた。


「小山さんは、この子に何の用なの?」


 里見先輩が腹黒女子に声を掛けた。小山というのか。

 そういえば俺は彼女の名前すら知らなかった。


「偶然、食堂前で会ったのよ。ヒロシ君が入学と同時に生徒会入りしたのって、すごいなって話をしていた所」


「そうねえ。以前も一緒にやっていたから、やりやすいのよ」


 小山さんは可愛らしく人差し指を頬に当て、軽く頭をかしげる。


「あまり親しくないって言ってたけど、皆さんの仲間って感じよね」


「そういうわけでもないわ。二コ年下だしね」


「そう? 私の生徒会入りを断った理由の一つじゃなかった? 思い違いかしら」

「きっと、そうね。そんなことを言った覚えはないわね」


 三人共にこやかに笑いながら話している。でも空気は刃が行き交うように、ひりついている。

 間に挟まれて食べる飯は、喉につまりそうだ。

 俺は最後の一口をお茶で流し込み、できるだけ急いで立ち上がった。


「お待たせしました。行きましょう」


 食器を返却して、二人の後を追う。その俺の腕を引っ張りながら井上先輩が言った。


「チョロシ君。現行犯逮捕」



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