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47話 聖剣の乙女と魔王

 その存在を認識した瞬間、イリスは腕を振り抜いていた。


 手の中には既に聖剣がある。

 無意識に集めていた魔力が極光となり、解き放たれたそれが魔王へと叩き込まれた。


 直線状となる位置にハイデマリーが倒れたままであったが、気にしていられる余裕はなかった。

 巻き込まれれば確実に塵の一つも残さず消滅するだろうが……ああ、あるいは、気にしなかった理由は単純だったのかもしれない。


 轟音と共に土煙が舞い上がり――


「ふんっ……温いな。目覚まし代わりにするにしても、もう少しマシなものがあろうに。小娘、我を舐めているのか?」


 そこから現れたその姿には、傷一つ負っている様子もなかった。


 しかしイリスはその光景を前にしても、動揺の一つもすることはない。

 つまるところ、この程度ではどうしようもないということが、最初から分かっていたからだ。


「……っ、やっぱり、これじゃ届かない」


 あれは魔王の本体ではない。


 ハイデマリーが埋め込んだと言っていたのは、おそらく魔王の一部のみを封印した宝玉だ。

 その封印を、公爵家の血とイリスという存在そのものを媒介にして解放した。

 その結果が、あれだ。


 要するに、あれは未だ魔王の一部でしかないのである。

 だというのに明らかに意識を持っているのは、現状封印されていないのはアレしかないからだろう。

 封印出来たのは身体のみなはずなので、封印を逃れた意識が宿ったのだ。


 だがつまりは、その上で聖剣の一撃が通用しないということである。

 とはいえそんなことは分かりきっていた。


 そもそも聖剣とは、魔王を倒すための武器ではないのだから。


「さて……ところで、いまいち現状を把握しておらぬのだが……貴様の手にしているそれは、聖剣だな? ということは……貴様は我の敵ということでいいのか?」


「……っ」


 向けられた目に、明確な死を感じた。

 一瞬の逡巡もすることなく、聖剣に意識と力を向ける。


「――真名解放。目覚めよ聖剣」


 言霊を紡いだ瞬間、爆発的な力が聖剣を中心にして広がった。

 剣身を包み込んでいる光は、視認出来るほどにまで濃縮された魔力だ。

 先ほどまでこの場に漂っていた瘴気と同質……否、それ以上のものである。


 ほぅ、と感心したような声が魔王から漏れた。


「聖剣を手にしているだけの小娘かと思えば、使い手であったか。それにしては随分未熟だが……まあ、いい。それよりも……いいのか、『それ』を使ってしまって? くくっ……それは本来、我の本体を封印するためのものであろう?」


「……っ」


 さすがと言うべきか、こちら……というか、聖剣のことはよく分かっているらしい。


 だが構わなかった。

 ここで殺されてしまえば、どの道全てが無意味と化してしまう。


 ならば、ここで一か八かの手に出た方がマシであった。


「……全魔力展開。封印から殲滅へ」


 剣身を包み込み光がさらに輝きを増し、そのまま身体を引き絞るようにして振り被る。


 魔王が特に行動を起こす様子を見せないのは、その必要性を感じていないからだろう。

 しかし、馬鹿にしているとは思わない。

 それが当然だからだ。


 魔王とこちらとの間にはそれほどの差があり、だからこそ、ここで決めなければならなかった。


「――焼き尽くせ、クラウ・ソラス……!」


 聖剣を手にしてから今の今まで溜めてきた魔力が解放され、炎雷となって走る。


 直後に魔王の身体へと直撃し、轟音が響いた。

 全ての力を使い果たしたかのような虚脱感が身体を襲い、その場に膝をついてしまうが、何とかそのまま堪える。


 さすがに今ので倒せたとは思わないが、無傷というわけでもないはずだ。

 何とか再封印……とまではいかなくとも、一時的に封じ直すことさえ出来れば、あとは――


「ふむ……てっきり舐められているのかと思ったが、よもや今のが全力ではあるまいな? 今が全力だとするなら、さすがに落胆が隠せんぞ?」


「……なっ」


 土煙の向こう側から現れた魔王は、無傷であった。


 確かにあの身体は実体ではなく、その大半を瘴気によって補っているはずだが、だからこそ解放した聖剣の一撃は有効なはずである。

 あれはそもそも、瘴気を抑えることに特化した力だ。

 それを殲滅の方向に転換したのだから、瘴気を元にしているあの身体には絶大な効果があるはずで……そんなことを考えているイリスへと、魔王は馬鹿にするように鼻を鳴らした。


「我が無傷なのが信じられん、といった顔だな。確かに、先ほどの一撃が直撃すればこの身体も無事では済まなかっただろう。だが、ならば単純な話であろう? 貴様の一撃は、我の魔力による障壁を超えることが出来なかった、というだけのことよ」


「……っ、そんな……魔法を使ったわけでもなく、ただの魔力の障壁で……?」


「別に驚くほどのことでもあるまい。それとも、我が寝ている間に貴様らと我との間にどれほどの力の差があるのかということも忘れたのか? そういうことならば――どれ、少し思い出させてやろうではないか」


「――っ!?」


 瞬間、魔王の姿が消えたかと思えば、背後を取られていた。

 慌てて振り向こうとするが、解放した聖剣を放ったせいで身体の言うことが利かない。


 いや……果たして十全な状態でも、抵抗出来たかどうか。

 そのまま右手を握られたかと思えば、呆気なく握り潰された。


「――っ、ぁっっっっっっっっ!?」


「ふんっ……相変わらず脆いな、人間は。そら――死ぬなよ?」


「――がっ!?」


 直後に右手を離されたかと思えば、まるでボールのように蹴り飛ばされた。


 腹部に衝撃と共に痛みが走り、物凄い勢いで吹き飛ばされる。

 何度も地面に叩きつけられるが、まったく止まる様子を見せず、壁に激突したことでようやく止まった。


「――かはっ……!?」


「何とか死にはしなかったようだが……既に虫の息か。相変わらず脆いが、昔よりもさらに脆くなったのではないか? 昔はもう少し歯ごたえがあったように思うが……まあ、いい。最早アレは何の抵抗も出来まい。さて、では……」


 もう興味はないとばかりにイリスから視線を外すと、魔王は地面に倒れたままのハイデマリーへと視線を向けた。


 一体何をするつもりかと思うが、魔王の言う通りイリスはもう何も出来ない。

 全身に痛みが走り、指一本動かせない中で、魔王がハイデマリーへと近寄っていくのをただ見ていることしか出来なかった。


「貴様が我を復活させた者、ということでいいのか?」


「……そうですね。ワタシだけの成果ってわけじゃねえですが、これでも一番働いた自覚がありますから、ワタシがそうだって言って構わねえと思います」


「ふんっ、中々正直なやつだ……色々な意味で。まあ、いい。少なくともこの場にいるのは貴様だけなのだからな。貴様の成果ということにしておいてやろう」


「それはありがてえことですね。で、わざわざんなことを聞いてくるってことは、褒美でもくれたりするんですかね?」


「その通りだ。我は上に立つ存在だからな。我のために働いた者へと褒美をくれてやるのは義務だろう」


「そうですか……それは本当にありがてえですね。正直それを望んでこんなことをしたとこもありますしね」


 その言葉に、驚きはなかった。


 様々な危険を顧みず、一部とはいえ魔王を復活させるようなことをしたのだ。

 何か魔王に望むことがあるのだろうと予測のは自然なことだろう。


 そして、おそらくその内容もろくなものではなく――


「ふむ……不敬と言いたいところではあるが、確かに貴様はそれだけのことを成したのだ。望みを言ってみよ。我の名にかけて、どのようなものであろうと叶えてやろう」


「……本当に、何でもいいんですか?」


「我に二言はない。何だ、我に永劫仕えたいとかか? それも特別に許そう。さすがに魔族にするには多少の時間が必要であろうがな」


「……いえ、確かに魔王様に仕えるって部分は合ってるですが、その対象はワタシじゃねえです。――あそこで虫の息になってやがるお姉様を、そうして欲しいんです」


「……え?」


 ハイデマリーの告げた言葉に、思わず声が漏れる。

 だがハイデマリーが何を言ったのか理解出来なかったのは、当然と言うべきかイリスだけではなかった。


 魔王もまた、訝しげな目でハイデマリーのことを見つめていたのだ。


「……貴様、どういうつもりだ? 貴様は何か望むところがあるがゆえに、我の封印を解いたのであろう?」


「ええ、ですから、その全てはお姉様のためですから。何の問題もねえですよ?」


「……嘘はないようだな。では、何ゆえそんなことを望む?」


「何故と言われても正直困るんですが……まあ、敢えて言うなら、この世界が間違ってやがるから、ですかね」


「ほぅ……?」


 興味深げな声を上げると、魔王はハイデマリーのことを改めて見つめた。

 そのままどことなく楽しげに、問いかける。


「間違っているとは、どういう意味だ?」


「そのままの意味ですよ。まあ、魔王様は知ってるかは知らねえですが……今の世の中って、力が全てとかって感じなんですよね。ほら、もうこの時点でおかしいじゃねえですか。だってそれが正しいなら、魔王様こそ上に立つべきなんですから」


「ふむ……人の世の理がどうなっていようとも、我が上に立つのは当然のことではあるが……中々興味深くはあるな。それで、だからこそ貴様は世界がおかしいというわけか?」


「いえ、別にそういうわけじゃねえですよ? そんな魔王様が封印されるってことは、魔王様より何らかの手段で上に立ったやつがいたってことなわけですし。まさか魔王様も、そこは否定しやがらねえでしょう?」


「……道理であるな。よい、続けよ」


「ですから、それ自体はいいんですよ。問題は……その封印を、不相応なくせに維持しやがってるってことの方です。――聖剣の乙女の命を使ってまで」


「……っ」


 瞬間、何故それを、と思った。

 そのことを知っているのは極一部も一部……公爵家の当主にすら知らされないこともある情報だ。


 彼女が知っているわけがないものであった。


「そのことは、魔王様が一番よく知ってると思うですが?」


「ふむ……確かにその通りよ。だが、貴様の方こそよく知っていたな。我も詳しいことは知らぬが、隠蔽される類の話であろうに」


「ええ、確かに徹底的に隠される情報ですよ……本来は。公爵家の当主の中でも二十年以上務めたようなやつにだけ教えられることな上に、もし喋ったらその時点で死ぬような呪いまでかけられるですからね。普通は外に漏れるようなことじゃねえです」


「では何故貴様は知っている? 探り当てた、というわけか?」


「ワタシも知りたくて知ったわけじゃねえですよ。うちの爺がそのことを知ってた元公爵家の当主だったんですが……その死の間際にですね、ワタシにそのことを伝えてきやがったんですよ。もう死ぬから、どうせなら、とか言って」


 それは確かに、そうすれば理論上は伝えることは可能だ。


 だがまさか、そんなことをしてまで伝える者がいるというのは、予想外である。


「本当に、いい迷惑って話ですよ。ワタシその頃、八歳のガキですよ? んなこと聞かされてどうしろってんですよ」


「なるほど、それは確かにどうしようもあるまいな……して? 貴様はそれからどうした?」


「ですから、どうしようもねえです……って、思ってたんですがね。見ちまったんですよ。知っちまったんですよ。ワタシよりも二歳も年下のやつが、ワタシと同じように重いもんを背負わされちまって……それでも、凜と立って、真っ直ぐに前を向いてる姿を。そしたらもう無理でした。ワタシだけが無様に逃げてるわけにはいかねえじゃねえですか」


 名前は出てこなかったが、それはきっとユーリアのことなのだろうと思った。

 同時に、なるほどとも思う。

 だからこそ、彼女のことをあれほど慕っていたのか、と。


「で、それからよくよく見てみれば、お姉様もお姉様で同じようなもん……いえ、それ以上だったわけですしね。眩しすぎて、直視出来なかったですよ。少なくともワタシにはどう考えても無理です。二十五を迎えたら、その命と引き換えに魔王の封印の強化を行わなけりゃならねえって分かってんのに、世の為人の為とか言って魔獣と戦い続けるなんて」


 ハイデマリーの言っていることは、事実である。

 そしてだからこそ、聖剣とは魔王を倒すための武器ではないのだ。


 聖剣に溜められた魔力は魔王を倒すためだと言われているが、あんなものは嘘である。

 そもそも聖剣には今までの聖剣の乙女が込めてきた魔力など残ってはいない。

 全て魔王の本体を封印するのに使ってしまっているからだ。


 聖剣の乙女は、そうと認められた瞬間から聖剣に魔力を溜め続ける。

 これは事実である。


 だが、それも二十五までだ。

 全盛期を迎えたその時に、今まで込めた続けた魔力と、命を引き換えにして得た膨大な魔力を用いて、魔王の本体の封印を強化するのである。


 そうしなければ、封印がもたないからだ。

 魔王にかけた封印は年々綻び始め、補強し続けなければ百年ほどで解けてしまうのである。


 つまり本当は、魔王を倒すことはおろか、封印することすら満足に出来てはいなかったのだ。


 それが、魔王と聖剣の乙女にまつわる真相。

 聖剣の乙女は、生まれたその時からそのことを知っている。

 そのためだけに、生き続けるのだ。


 でも、だからこそ、ハイデマリーの言っていることは間違ってもいる。

 世の為人の為なんて、そんな綺麗なものではないのだ。


 ただイリスは、それしか知らないだけであった。

 それしか知らないから、それしかすることが出来ない。

 それだけのことなのだ。


 ……人並みの幸せを求めたことがないと言ってしまえば、嘘になるだろう。

 しかしそれは、とうの昔に諦めたのである。


 聖剣の乙女として正式に認められて……その場で、プロポーズ紛いの告白をされて。

 その相手が、最初から存在しなかったことにされてしまった時に。

 自分が幸せなんてものを求めるのはやっぱり間違っているのだと、そう思ったのだ。


 彼が言ってくれた言葉は、本当に嬉しかった。

 そんなことを言ってくれた人は、今まで一人もいなかったから。


 無理だろうということは分かっていたけれど、それでも嬉しかったことは確かで……その報いだと、言われたような気がした。

 多分それは傲慢な考えで、本当は関係なんかないんだろうけど……そう思ってしまった以上は、もう無理だった。


 だから、諦めたのだ。

 学院で再会してしまった時も、必死で何も感じないようにしたし、一緒のベッドで眠った時はどきどきして中々眠れなかったけれど、何とか誤魔化した。


 それは今まで上手くいっていたはずなのに……何故か今日は二人きりで外出することになって。

 ちょっと心が弾んでいたことは、きっと気付かれていないはずで……ああ、でも結局は、そのせいなのかもしれない。


 別れ際の言葉も、ちょっと嬉しくて……だから、こんなことになってしまったのだろうか。


「ま、てーわけでお姉様達はすげえとは思うんですが……だからこそ余計に、この世界は間違ってると思うんですよ。で、魔王様ならいい感じに何とかしてくれんじゃねえかって思ったってのも、まあ封印解いた理由っちゃあ理由ですかね。魔王様なんですから、くだらねえことなんか考えられなくなるぐらいには暴れんでしょう?」


「ふんっ、我は我の思うがままに生きるだけが……まあ、よかろう。功労者の言葉だ。心の片隅ぐらいには置いてやろう。それで、貴様の願いは分かったが……貴様の思う通りになるとは限らぬぞ? いや、ほぼ確実に思う通りにはなるまい。アレは我の言うことを大人しく聞く相手ではなかろうからな。身も心も犯し穢し続け、その果てにようやく、といったところであろうよ。その時には既に貴様の知っているアレとは別物になっている可能性が高いが?」


「別に構わねえです。ワタシはお姉様が生きてられるんなら、それでいいですから。何が幸せかなんて、んなもんはそれこそ生きてなくちゃ分かんねえわけですしね。その結果としてワタシが恨まれるってんなら、大人しく受け入れるですよ」


「ふんっ、そうか。ところで、貴様はこれからどうするつもりだ? 我は見ての通り心が広い。貴様が望むならば、共に歩むことを許してやらんでもないが?」


「そうですね……もし許されるってんなら、ワタシのことは殺してくれねえですかね?」


「ほぅ……? 我の作り出す世界の行く末を見届けたくはない、と?」


「ワタシはこれでも小心者ですからね。さっきはああ言いましたが、正直お姉様に恨みを向けられたら生きてける自信がねえです。……それにぶっちゃけ、もう疲れたんですよ。ちと色々やりすぎたです。それに、ワタシのせいで乱れる世の中を見てたら耐えられる気もしねえですしね。我ながら勝手なことだとは思うですが」


 その声からは、本当に疲れが感じられた。

 まるで一気に歳を取り、老成してしまったかのようだ。


 だが、彼女がどんなことを思っていようと、どんな事情があろうと、彼女がやってしまったことは許されることではあるまい。

 その果てに待っているのは、間違いなく死だ。

 魔王を解き放ってしまうということは、それほどまでに重い。


「ふむ……まあ、よかろう。忠臣の望みを叶えてやるのは、王の責務であるからな」


 だから、このまま魔王に殺されようと、それは誰に殺されるかの違いでしかないのだ。

 結局は何も変わらず――


「大儀であった。貴様の成したことを誇りに思いながら、永久の安らぎの中に堕ちるがよい。では――」


「……っ」


 そう、思うというのに、何故か身体が勝手に動いていた。

 正直なところ全身は痛いし、右手は聖剣と一体化してしまっているような状況だし、まともに歩けるとも思えない。


 しかしそれでも、壁と聖剣を支えにしながら、立ち上がっていた。

 腕を振り上げ、ハイデマリーへと振り下ろそうとしていた魔王を、睨みつけるように見つめる。

 言葉もまた、勝手に口から出ていた。


「……駄目」


「っ……お姉、様?」


「ふんっ……無粋ぞ、小娘。すぐに我自ら相手をしてやるから、引っ込んでおるがよい。こやつの望み通り、その命を奪ってからな」


「……だから、駄目」


 自分でも何故こんなことをして、そんなことを言っているのか、よく分からない。


 彼女に騙されて、陥れられて。

 彼女はやってはいけないことをやってしまって。

 彼女を助ける理由なんて、ないはずなのに。


 ……ああ、でも。

 ふと、思う。


 去年はあまり話しかけてくれはしなかったけれど、ずっと見ていたことは知っていた。

 今年になって、同じクラスに入ってきてからは、よく話しかけてきてくれて……お姉様なんて呼ばれていたけれど。


 それは、きっと――


「……友達、だから」


「……っ」


「ふんっ……くだらぬな。そして、我には何の関係もないことだ。まあ、よいがな。どうせ貴様には何も出来まい。ならば、そこで自らの無力さを噛み締めているがよい。それが我から貴様へと行う、最初の調教よ。さて、そして、改めて告げよう。大儀であったな」


「……っ、だ――」


「では、さらばだ」


 魔王の言う通り、イリスは何も出来なかった。


 伸ばした手は届かない。

 振り下ろされる魔王の腕を眺めながら、自分の無力さを感じることしか出来ず。


 そして。

 轟音が響いた。


 魔王の身体が、吹き飛ばされたのだ。


「がっ……!?」


 そうしてその代わりとばかりに、その場に降り立つ、一つの影。

 それは、少年だ。


「うーん、なんか最近僕こんな登場の仕方ばっかしてる気がするんだけど……ま、いいかな。何か美味しい感じだしね」


 見知った、少年であった。


「さて、ところで、実は僕さすがに今回は事情をよく把握できてはいないんだけど……とりあえずアレが悪者ってことでいいんだよね?」


 そんな少年――レオンの姿を、イリスは何故か視界がぼやけるのを感じながら、見つめていたのであった。

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