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赤ずきんが真実を語ったのかどうか誰も知らない  作者: 相木ナナ
「姫よ、竹から生まれて何故月に帰るのか理由だけ教えてくれ」(かぐや姫)
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「ブルームーン」

「Mon Dieu, je te demande de la sagesse pour comprendre mon chef, de l’amour pour le pardonner, de la patience pour comprendre ses actes, mais Dieu... je te demande pas la force car si tu me donne de la force... Je lui explose la gueule.」


神様、私にボスを理解する知恵をおあたえください、彼を許す愛をおあたえください、彼の行為を理解する忍耐力をおあたえください、でも神様、私は力を望んだりはしません、さもないと、もしあなたが力をおあたえになると、私は彼をぶん殴ってしまうでしょうから。


フランス、名前不祥

 


 かぐやの仕事部屋は、色んなもので溢れていた。


 古い置き時計は解体されており、重火器も見える。


 堀こたつになった対面テーブルに気やすく腰掛けて、かぐやは首をかしげた。



「ほんで、今回は何が足らへんの?」


「俺らの武器じゃねぇんだ、この少年になんか見繕ってやってくれ。本来はコードネーム出てから貰うのが筋だけどな、その辺はしょりてぇのよ。”オズの魔法使い”はケツが重たいし、”人魚マーメイド”はドジくせぇし」


「ほんま?それなら早くてあと2年後くらに来るかと思っとったんやけど」



 着物の袖に気をつけながら、かぐやが後ろの電気ポットから三人にインスタントコーヒーを出す。


 そして眉を顰めながら狼に灰皿を差し出した。


 話せば話すほどかぐやのなまりが京都弁なのか大阪弁なのかよく分からない。



「それってどういうことです?2年も待ったら僕は消し炭になってますけど!?」


「かぐやよぉ、なんでインスタントコーヒーなんだよ。せめてドリップくらいしろよな、時計ウォッチババア」


「自分は合法ロリを相棒にしてんのやろ、ガサツジジイ」



 不穏なやり取りに雛阪は居心地が悪そうだが、会うたびのことなので天使たちは言葉ほど気にしていない。


 赤ずきんが出されたコーヒーに黙って口をつけたので、来客はとりあえず右にならう。



「あんなぁ、雛阪くんやったっけ。あんたさん、人間に召喚されたんやったよね」


「え?はい。1938年。昭和だと13年生まれです」


「呼び出した人は誰なんか聞いてもええ?」


「ジョンのことですか?」



 雛阪が今更のように怪訝な顔をした。


 かぐやはその間に、なにやらゴソゴソとまた後ろを探り、京都名物の八つ橋を二人分並べる。



「コーヒーに八つ橋だと?ほんとてめぇのセンスは死んでやがるな。緑茶グリーンティーにするか、クッキーにするかどちらかにーー」


「ジョンっていう人間やったんね?名字はなんていうか覚えてるん?」



 狼の不満を平気でかぐやが遮った。


 そして自然に八つ橋に手を出した雛阪はかぐやに手を叩かれて、しょげる。


 さきほどあれだけ食べておいて、未だ食べられるらしい。



「ジョンの名字ファミリーネームなら、フーヴァーです。ジョン・エドガー・フーヴァー」



 雛阪の言葉に、赤ずきんがコーヒーに咽て、狼は畳に吹き出した。



「なっ、まさかあの初代FBI長官になったJ・フーヴァーか!?確かに人の秘密を握って脅迫するようなやつだったが、悪魔召喚してやがったのか!?」


「……子供が遊びで呼び出しただけかと思ってた、意外すぎるわ」


「え?何がおかしいんです?」


「ええから、なるほどねぇ。ちょっと興味あったから聞いてみただけや、赤ずきんも狼も、せっかく出したんやから八つ橋お食べ」



 どうも云うことを聞かない限り、本題のほうに取り組むつもりがないようだ。


 未だ雛阪召喚秘話の衝撃が冷めないまま、赤ずきんと狼が仕方なく出された八つ橋を口にいれる。


 雛阪はそれを羨ましそうに眺めていた。



「このおふたりさん、こう見えて自分の秘密情報共有者は作らへんの。人間をスカウトしたことはあっても、悪魔を選ぶなんて初めてなんね」


「何をおっぱじめようってーー」



 またしても批難の声をあげた狼の声が不自然に途切れる。


 赤ずきんも珍しく白い頬を染めて何か抗議しようとして、口に手を当てた。



「特製八つ橋、効果ありやね。しばらく黙っときや。ええ実験体だったわぁ。しばらく喋れんから諦めるんやね」



 何か仕組みが入っていたらしい。


 それで雛阪に食べさせなかったのだ。


 赤ずきんが必殺の蹴りを出す前に、かぐやが机の下にあったボタンを押すと、何もないはずの畳からロープのようなものが赤ずきんと狼を拘束した。


 狼は眼光だけで殺意を発し、赤ずきんも悔しそうにもがくが、二人の力をもってしても破れないようだ。



「うちは攻撃しない支援特化やけど、暇なときにこういうものも作っとるんよ。特に狼はうるそうてな、来るって聞いて準備しといてよかったわー」



 手が離せないというのは、どうやらこういうものを仕込んでいた下準備なのだ。


 雛阪は呆れてコーヒーを飲みながら、和装天使をただ眺める。



「あのな、雛阪クン。悪魔っていう生き物は、小狡いし、卑怯なこともようする生き物なのはウチらは千年以上相手にしてるからわかってるんよ。いい顔してもすぐ裏切るし、裏切ることを楽しみにしている邪悪な存在。罪を勧めて甘美とし、痛みと血と争いを至高とする厄災」


「はい……それは80年生きてても見てきました……」


「だから、人間にはコードネームはわりと早く執行されるんやけどね。契約の羽の加護も、悪魔には滅多に渡されへん。過去にそれを悪用されたこともあったから余計やね。特に赤ずきんも狼も他の殺戮の天使とは別の最優先事項フロント・バーナーも兼ねてるから、慎重なんよ。ガサツやけど」



 雛阪は口の中いっぱいのコーヒーをゴクリと飲んだ。


 おそらく赤ずきんや狼の口から話しにくいことを暴露チクろうとしている。



「二人の特殊任務は、”始まりと終わりの最悪の悪魔”ルシファーの捕獲なんよ。最大難易度のミッションやね。他にもシンデレラたちみたいに高位悪魔の憑依担当っちゅう特殊な担当もあるんやけど」


「第9圏の悪魔の王、ルシファー……」



 雛阪は身震いした。


 悪魔の中でも極悪の、悪魔の鏡を作られたそもそもの封印目的の主。


 別名”天使喰いの悪魔”



 狼が言ったーー仲間が死ぬたびにコードネームは変わるのだと。


 それは恐らくその特殊任務についていた天使たちの末路なのだ。



「まあ、だからというわけやないけど、悪魔嫌いは筋金入り。そもそも悪魔に戦闘に参加させる必要がないんよ。それは雛阪くんが第2圏だからとかいうわけやなくてね。前に”長靴を履いたネコ”と仕事した時も悪魔GPSとしてとしか仕事してへんやろ?」


「ええ、まあ。それはてっきり僕の階級が低いからだとばっかり。実際、人喰いする悪魔はより凶悪になるし僕みたいに人間と同じご飯しか食べないやつより強いですから。僕の戦力なんてたかがしれてますし」


「今は3枚の羽の加護があるから第2圏以上やと思うけどな。力の有無より、相手が悪魔やゆうこと。でも一番審査にうるさい輩がこーんな早くに雛阪クンの武器申請にきたっちゅうことは、イレギュラー以上の事態なんよ。簡単にいうと信頼されてるってこと。もう心ん中読まれてるんやろ。それは”絆”。付き合いの長さ関係なく、信じられると判断したっちゅうことやね」



 信じがたいことを聞いた顔で雛阪は二人の天使を見たが、どちらもあらぬ方向を見ている。


 二重にびっくりなことに、否定の色よりふてくされているように見えた。



 ーーもしかして、照れてる、とか!?


 思って、雛阪は無意味に口を塞いだ。


 思考がダダ漏れなのを既にして忘れていたことを思い出したのだ。


 無論、口を閉じても意味などない。



 ーーうるさいわね、つけあがるんじゃないわよポンコツ。


「へ?」


 頭に響いたのは赤ずきんの声だ。


 二人のほうが力が強く、契約した側として雛阪の心は読み放題なのだろうが、加護の力で雛阪も意識をしぼれば聞こえるということ。



 ーーへい、このクソみてぇな告白大会はあと何百年続けるんだよ、クソ時計ポンチアマ。少年ガキ、このビッチを黙らせろ。


 狼の声も最高にイラついていたが殺気はない。



「だからウチも一応色々聞いてもうたけど、気ィ悪くせんでね。ただ、今すぐ渡せる武器はこんなものしかないんやけど、どないやろ」



 かぐやがケースに入った細いケースを置く。


 優しい手つきだが、赤ずきんと狼を見る目はいらずらっぽく笑っている。


 雛阪が開けるとそれはアーミーナイフだった。



「重量級の武器はどうしてもオーラがそれだけ必要なんよ、だから今はこれで勘弁したって。悪魔に武器をあげるっちゅうことが相当に過去に例が少ないし、大型武器は負担も大きいから嫌がらせとちゃうよ?」


「はい!!ありがとうございます!あと、色々聞かせてもらって」



 優艶な着物の天使は、刹那に輝く。


 その和装に似つかわしくないが紛れもなく4枚羽根の翼から、無造作にかぐやは一枚の羽をとった。


 すると、翼はすぐに消える。



「そんでウチも雛阪クンのことは気にいったわ、だからウチの加護も使ってええよ。”支援”の加護やけど、使いこなせれば武器に詳しくなれるから」


「支援の加護……加護に種類があるんですか?」



 おそるおそる受け取って、律儀に「ありがとうございます」とひとまずお礼を言うと、かぐやは袖をヒラヒラさせて笑う。


 かぐやの羽は雛阪の手の中で、透き通ると体に沁み込んだ。



「いややわぁ、3枚も持っとって加護の種類を聞いてへんの?この人らぁもほんと意地が悪いわぁ。赤ずきんと狼の羽は”戦闘力強化”暴力的な性格通りの加護やね。あとのはシンデレラ……、あの子もほんま意外やと思ってたけど、その加護は”生命力”やんな。人間の姿保ってられたのはそのお陰やと思うわ」


「勉強になります!!」



 何しろただ寝場所と世話をしてればいいと思っていただけの雛阪には、かぐやの情報は相当の謎を解いてくれた。


 罵倒とへらず口しか聞いていない雛阪にとってはかなりの親切な天使といえる。



「これで、デイライトのアプリからウチに直通するようになるから、二人がおイタしたらウチに告げ口してええよ」


「それはそれで怖いんで!!僕からはそこは黙秘でいいですか。でも何かわからないことがあったら頼りにさせてもらいます!」


「おい!!!いいッ加減にしろ!!かぐや!!しゃべれないことをいいことに、ペラペラと好き勝手言いやがって!このギーク女!!NASAナサで月までマジでかっ飛ばしてもらったらどうだ!」


「あら、もう効果きれてもうたん?つまらへんわぁ」



 ケラケラと笑うかぐやは狼の剣幕にも全く動じない。


 赤ずきんは無言で立ち上がると、スカートの裾を払った。


 拘束していたロープも、時間が切れたのだ。



「お邪魔さま、できればしばらく300年ほどは会わないことを祈るわ」


「あら、つれないこと言うんやね。お二人さんにもプレゼントはあるんよ」


 かぐやの視線の先には、大きな箱がある。


 赤ずきんが開けて覗くと、機関銃と38口径のスミス&ウェッソンがぎらりと銃身を光らせて横たわっていた。



「二人の好みにあっとるやろ?機関銃は人間なら三脚がいるサイズやけど、赤ずきんなら平気やね?」


「そうね、すくなくとも手ぶらで帰ることがなくてなによりだわ」


「おおきに、その言葉『ありがとう』だと思っておくわ」


「けっ、悪辣なてめぇの趣味に付き合わされて散々じゃねえかよ。お陰で最高にご機嫌だぜ、アイスクリームでもあったら喜んで投げつけてやる」


「あら、なんかウチやったっけ?説明嫌いな二人の代わりにセールストークしてあげたやないの」



 狼は肩をすくめて”付き合ってられねぇ”という態度で武器を掴んでさっさと玄関にいく。


 バックパックに機関銃をしまいこんだ赤ずきんは、雛阪の襟を掴んで畳を引きずった。


 重火器と青年一人分をおよそ引っ張れるように見えないが、戦闘特化の天使の外見に惑わされるだけ無意味だ。



「お世話になりました~ぁ。ぐぁ、喉がーーー」



 襟で首がしまって苦しむ雛阪の足が廊下まで消えると、赤ずきんが音をたてて襖をしめた。


 かぐやは見送らず、袂を持ち上げて笑い転げている。


 どうにも永い付き合いの仲間の、不器用な性格がかぐやには可笑しい。


 次に来たらどういう仕掛けを用意しようかーー着物に襷をかけるとかぐやは怪しげなコード類をかき回し始めた。


 .

雛阪が唯一平和な回(?)次回アクション、ちょっとだけホラーです。

かぐやさまが暴走して、半分でそっちの回にいきたかったんですけど。いやーもうー、ムリでした。

雛阪の召喚相手は80年まえというとこでいろんな候補があったんですが、まあ、何も影響しないですw妖精を信じてたシャーロック・ホームズの作者でも良かったんですが、いかんせん時代が・・・。

ツンデレた二人を封印させてしまったので(というか、こうしないとゼッタイかぐやの邪魔になるから)

雛阪は無事です。次回はその分、不幸が舞い降りますので、安心してください(どういうこと

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