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ちょいクズ三国志  作者: 油揚メテオ
第一章 桃園の契

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第六話 決起

 動かない骸になったかーちゃんの横で、俺はうなだれていた。

 恩を返そうと思ったときには、もう親はいないとはよく言ったものだ。

 俺は、かーちゃんにクズなところしか見せてこなかった。

 今更、後悔しても遅いのだ。

 そもそも、真面目に働く気なんてなかったし……。

 なんで俺は……。


「主様……」


 そんな俺のもとに関羽がやってくる。

 そっと俺の頭を抱きしめて、髪をかきわけて、唇をつけた。

 関羽は、温かくて、何もかもが柔らかかった。

 というか。

 え、何このカノジョみたいなくっつき方。


「生娘だった私にあんなことや、こんなことをしておいて何を今更……」


 そうだった……。

 そういえば、昨日関羽にあんなことやこんなことをしたんだった。

 かーちゃんのまえで思い出すのは気が引けるが。

 思えば、悪いことをしたものである。

 とはいえ、気になることがある。


「……黄巾賊について教えろよ」


 その言葉に、関羽が息を飲む音が聞こえた。


「性格には黄巾党と言うらしい。張角とかいう男が教祖をやっている太平道とかって宗教の信者たちで、朝廷を倒すのが目的だとか」


「あぶない宗教団体じゃねえか……」


 さっき見た黄巾賊からは、宗教の臭いは全くしなかった。

 ただのゴロツキだったような。


「……ほとんどは張角の思想なんて理解していないゴロツキどもだ。でも、数が多い。その数は数十万にもなるとか。手を焼いた朝廷が義勇軍を募集している」


「なんだよそりゃ。俺達から税を巻き上げといて、お上は仕事しねえってか」


 税など払ったことないが。無職なので。


「そう言うな。あ、主様だって、皇室の一員なのだろう……?」


 関羽は頬を染めながら、チラチラとこっちを見ていた。

 照れた褐色美女とか大好物だが。

 かーちゃんが言ってたアレなー。

 どうも胡散臭いんだよな。

 皇族がこんな辺境の村で無職をやっているわけないし。

 なんだかなー。


 頭がこんがらがってきたので、関羽の温もりに浸る。

 そうして、どれくらい時が経っただろう。

 関羽がボソッと言った。


「主様、御母堂様を埋葬しなくては……」


「埋葬……」


「裏庭に綺麗な花を咲かせた桃の木があっただろう? あそこなんかいいんじゃないか」


「あそこか」


 確かにかーちゃんが好きな花だった。

 桃の木の下に埋葬したらかーちゃんも喜ぶだろう。


「……よくできた嫁だな」


「よ、嫁って! まあ、嫁だけれども」


 再び照れる関羽。

 その可愛さに、少し心が和らいだ。



 翌日、家の裏庭にある桃の木の下にかーちゃんを埋める穴を掘った。

 張飛と。


「……まあ、なんだ。少ししか見てないけどよ、良いおふくろさんだったよな。その、気の毒だったな」


「ああ……」


 張飛はトラ髭の筋肉達磨で、粗野な印象ではあったが、喋ってみると結構良いやつだった。

 今でも少し怖いが。


「翼徳。私の旦那様になんだその口の聞き方は。もっと丁寧に話しなさい」


「ええ!? あ、姉者!?」


 傍らで見ていた関羽が、無慈悲な事を言っていた。


「そうだぞ、翼徳。これから俺にタメ口禁止な」


「えええ!? おめえまで……」


 この辺でブイブイ言わせていた張飛翼徳が舎弟になった瞬間だった。




 母の埋葬を済ませて、線香を焚き、三人で祈りを捧げた。

 かーちゃん、どうかこれからの俺を見ていてくれ。


「よし、そんなわけで黄巾党をぶっ倒そうぜ。この三人で」


「はい、主様」


「は、はい……あ、兄者」


 翼徳は何か言いたそうだった。


「主様、三人で義勇軍に参加しますか?」


「うーん、まあそうなるかなあ。でも、三人っぽっちで入れてくれんのかねえ」


「見栄えは良くないかもしれませんね……」


 いくらこの辺の顔である関羽さんと張飛さんがいてもである。

 義勇()というからには軍で参加したいものである。

 軍なんてないが。


「ちょいと待ちな」


 そんな時だった。

 背後から、めちゃくちゃ酒焼けした渋い声が聞こえる。

 振り返ると、そこにいたのは。


「博打仲間のみんな!!」


 よく通っていた賭場で見知った連中だった。

 基本みんなガラが悪い。


「劉備、まだ負けが立て込んでんだぜ? それを放置して義勇軍? 面白そうな博打じゃねえか、俺達も混ぜろや」


 なんかガラの悪い仲間が増えた。


「おっと、俺達も忘れてもらっちゃ困るぜ?」


 そうして声をかけてきたのは。


「その日暮らしのみんな!」


 よく飲み屋でつるんでいた連中だった。

 基本飲んだくれて暮らして、金に困ったら適当に働く連中。

 こっちも酒焼けした声をしている上に、ガラが悪い。


「おいおい、劉ちゃん。アタシらも混ぜてくんなよ」


 そうして声をかけてきたのは。


「凛! と、遊女のみんなと穴兄弟たちじゃないか!」


 いつも通っていた娼館の娼婦たちと、客たちだった。

 客たちとは他人とは言えないアレで兄弟だった。


「俺達兄弟だろ? なんで誘わないんだよ水臭い」


「義勇軍に参加するんだって? あたしらも連れてっておくれよ。義勇軍相手に商売すんのさ」


 凛が商魂たくましい事を言っている。

 そんな凛の背後に、陰気な男が立っていた。


「凛の兄の麋竺びじくと申します……家でずっと引きこもって本ばかり読んでいました」


「この際だから、連れてきたのさ。兄ちゃんも良い機会だから外に出そうと思って」


「外は怖いです……」


「お、おう……」


 凛が変なのを連れてきていたが、お気にの嬢の兄ちゃんとか邪険にできないじゃんね。


「ちょっと待って、ならアタシも行く!!!」


 なぜかお隣の雍までついてくるとか言い出した。


「お前も義勇軍相手に身体売るのか?」


「違うわよ!! 玄ちゃんが頼りないからついて行ってあげんの!!」


 遠足に行くんじゃないんだが。

 ていうかお前ら、人んちの裏庭に集まり過ぎだろう。

 百人くらいはいる。


「よくもまあ、クズばかり集まったもんだな……」


「主様の人徳だな」


 呆れる翼徳と、ニコニコと上機嫌な関羽。

 まあもうこうなったらこの百人で義勇軍に参加するか。

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