6話
宿に帰ったところで、問題が起こった。もう部屋が一杯で、アルは私の部屋に泊まるしかなくなったのだ。ご飯分だけ追加料金をひとまず払ったけど、困った。だって男女一緒の部屋だよ?しかも、出会った初日に。
ひとまずご飯を貰い、そのまま部屋に持って帰る。ご飯を食べ終わってから、謝罪をした。
「悪いんだけど、部屋もう一つ取れなかったから今晩は私の一緒の部屋ね」
「……普通、奴隷って主人の部屋の床とかで寝るもんじゃないのか?」
「え、そうなの?」
そんな、奴隷扱いは酷くない?と思ったけど、そういえばそのままの意味で奴隷だった。やはり日本人感覚が抜けない。
「アルは構わない?こんな小娘と一緒の部屋って普通に嫌じゃない?」
「俺はお前に買われたから文句は言わない」
いや、別にそこまで私に忠誠求めてないけど……。
「まあ嫌でも部屋はここしかいないからいいや。
で、本題だけど。これから言うことは他言無用ね。これは命令。」
そう付け加え、さっそく本題の自分のことを切り出した。
「私は、遠い遠い場所から此処にきたの。ここの常識を一切知らない、無知なんだよね。だから、貴方には知識面でも私をサポートしてほしい……簡単に言うと、私が分からないことを教えてくれたり、それとなくフォローしてほしいんだよね。私は冒険者ギルドに登録して、これから生計を立てていくつもりだから、勿論戦闘面でも頼りにしてる。たくさんお願いして申し訳ないけど、奴隷みたいに貴方をこき使いたいわけじゃないから、普通に仲間として、よろしくお願いします」
仲間と言っても私がアルを縛っているのだから、対等な関係ではないけど。でも、私を裏切らない人間というのは必要だし、一人だと不安が多いから、これはもう生きていく上で仕方のないことだと割り切ることにした。それでも我ながらずるい言い方だとは思う。
「……じゃあ、思ったことを言っていいってことか?」
「うん。というより、できるだけ意見してほしい。何も知らないし」
なるほど、とアルは頷いていた。これで少しは警戒が解けただろうか。
「というわけで、ひとまず明日はアルの冒険者登録もして適当な依頼をこなすか、もしくは魔物討伐に出かけようとおもうんだけど―――今手持ちのお金があと10万ルチルス弱あるんだけど、これであとどれだけ生きていけるの?」
「はぁ!?10万!?」
「だって、ここの宿安いし、アルが40万ルチルスだったから、元は50万あって、それであとはほぼ10万だよ」
「それだけあったら割と浪費しても一か月は安泰だ」
「えっ、そうなの!?」
そんなに価値があるのか。ということは、アルは4カ月分以上の生活費なのか……なるほど。小娘がぽんと出す金額ではないのがよく分かった。
「お前、何者だ……?まさか、金盗んだりしてないだろうな?」
「してない。魔物狩ったときに落ちてたのを売ったら50万になったの。……私、何狩ったんだと思う?きっと価値のあるものが混ざってたと思うんだよね」
何者と言われても日本人だし、小心者の日本人は盗みなんて大胆な事できません。
「何を倒したか覚えてるか?」
「えっと、おっきい銀色の狼と、兎みたいなのと、植物みたいなのとか―――……」
道中に出会った魔物の特徴を挙げていく。
「それ、全部上級の魔物だ。あと、銀色の狼は何か牙みたいなの落とさなかったか?」
「あ、落としたよ」
「恐らくあその狼自体が珍しいシルバーウルフで、それでその牙は超高級品だ」
「な、なるほど……」
すごい魔物と初めてエンカウントしていたようだ。というか、もしかしなくても……
「街の外って、危なかったりする?」
「当然だろう。だからこの街のギルドはここまで大きいんだ」
何を言っているんだこいつという目で見られてしまった。女神様、そんな危険地帯からスタートって、おかしくないですか?そう思ったのと同時に、自分のスキルは想像以上に強いのだということを知った。
それからアルに一通りの情報を教えてもらった。この世界には動物のほかに魔物と呼ばれる種族がいること。そして、魔物は倒すと灰になり、何かしらのアイテム―素材―と宝石のような心臓―コア―をドロップすること。そのアイテムは加工をして装備品にできたり、売ってお金にしたりすることができること。この街は特に危険な魔物が多く生息する、上級者向けの場所だということ。その分お金儲けもでき、たくさんの人が来るので、ギルドが大きいこと等々……。大体の事情と言うのは分かったと思う。これからは随時教えてもらうことになった。
そうして話し込んでいるうちに日付が変わろうとしていたので、シャワーを浴びて、寝ようとした。ただ、ベッドは当然ながら一つしかない。一人部屋なので。
「……私の不手際だし、私がソファー使うから。アルはベッド使って」
「いや待て。奴隷云々以前に女をソファーに寝かせてベッド使えるか」
「大丈夫、よくソファーで寝落ちてたから慣れてるし」
「そういう問題じゃないだろ」
気遣いはうれしいけど、出会って一日目の人をソファーで寝かせるのは気が引ける。
ベッドに目をやると、セミダブルぐらいの大きさはある。…………別に減るものじゃないし、そういうのではないし、いいかな。
「じゃあ、私こっちの端で寝るから、アルはそっちの端ね」
いざ言ったらやはり少しは羞恥があるので、さっさとベッドに入る。入って壁際ぎりぎりまで身を寄せる。
「私寝るから、おやすみ」
そう言いつつ目を閉じたら、後ろでごそごそという気配がしたので、アルもベッドに入ったのだろう。これは私の不手際であり不可抗力なので、致し方ない。断じて男女が一緒のベッドで寝るとかそういうのではない。断じて。
それからしばらくしても、緊張のあまり寝ることができず、少しだけアルの方に目をやったら気持ちよさそうに寝ていた。……だよね、こんなちんちくりん気にしないよね。分かっていたけど。
あ、そうだ。今のうちにステータスを見ておこう。そう思い、ステータスを開ける。
名前:アルベルト Lv50
種族:亜人(火龍)
HP[7000/7000] MP[5000/50000] 詳細
固有スキル
半龍化【使用不可】
……待ってほしい。確かに能力が高いのは間違いないみたいだけれど、待ってほしい。亜人、火龍、なんてワードが今見えているのですが。
これ、普通なら何かのイベントが起こってバレてしまうような、ネタバレ要素ってやつじゃない……?というか、人間じゃなかったのかという驚きも―――…
―――見てはいけないものを見てしまった気分になり、私は、今のものは見なかったことにした。
よし、寝よう。異世界生活初日、長い一日だった。着いたのは夕方前だけど。
明日から、また頑張らないと、ね。




