10話
帰り道は特に何事もなく、ギルドに着いた。
「よし、まずはこの爪のことを聞こう」
ギルドには加工所も併設されているので、そこにググンドの爪を持って行った。
加工所の受付には、人が好さそうなお兄さんが座っている。
「あの、武器の加工ができるかお尋ねしたいんですが……」
「はい。こちらで確認をしますので、素材を見せて頂けますか?」
「これです」
そう言って、ググンドの爪を、とりあえず全部置いた。
「…………えっ!?」
それを見た瞬間、お兄さんは明らかに動揺した。
「し、失礼ですがこれはどこで……?」
「さっき街の外で倒しました」
そう言うと、更にお兄さんは動揺する。
「しょしょ少々お待ち下さい!」
お兄さんはばたばたと慌てて奥に行ってしまった。
「どうしたんだろうね?」
「さあ?」
アルと二人で首を傾げていると、奥からお兄さんが戻ってきた。
「お待たせしました!その爪―――ググンドの爪なんですが、申し訳ありませんがこちらで加工することはできません」
あれ、ステータスに嘘つかれた?
そう思ったのも束の間、お兄さんが言葉を続ける。
「長い爪は剣、短い爪は短剣に加工することができますが。長い爪の方はこちらに加工できるほどの技術を持つ職人がいません。ですので、カルロさんをお尋ね下さい」
「カルロさん?」
誰、その人。
「あっ、ご存知なかったんですね、失礼しました!カルロさんはこの街一番の武器加工職人です。経験もありますし、誰しもが認める方ですから、きっと素晴らしい武器に加工して頂けるかと。……あ、加工所の地図書きますね」
お兄さんはさらさらと小さな紙に地図を書いて、渡してくれる。歩いてだいたい15分ぐらいとのことだ。意外と近いので、ここはあとで行こう。
「あと、一番大事なことなんですが……」
あ、まだ何かあるんだ。
「ググンドは現在、こちらで指定している危険級の魔物となりますので、討伐報酬が出ます」
「あれ、そんなシステムありましたか?」
「えっ?知らないんですか?」
お姉さんの質問には無かったと思い、思わず質問で返してしまった。すると、お兄さんが驚いて聞き返してくる。
「Bランク以上になると、ギルドが指定する危険な魔物を討伐した場合に報酬が出ることが必ず説明されるはずなんですが……」
「あー」
なるほど。それは私が知ってるはずないか。
「すみません。私まだFランクなので」
「はい!?」
お兄さん、さっきから動揺したり驚いたり忙しそう。
余計に詮索されるのも困るので、この件は報告しないで良いだろうか。そう思ったものの、お兄さんがまた慌ててどこかへ行ってしまった。
ただ、今度はすぐに戻ってきた。お兄さんの先輩らしき人も連れて。
「はぁ?Fランクの冒険者がググンド討伐できるはずがないだろ」
無精ひげを生やした、おじさんと言うにはまだ若そうな人は、私たちに遠慮することなく失礼なことを言っている。すみませんね、Fランクの冒険者がググンド討伐できて。
「っと、悪いがライセンスとググンドのコアを見せて貰って良いか?」
「はぁ……」
日本人のサービス精神が染みついてるので、馴れ馴れしく話しかけられてすこしむっとしてしまったのは仕方ない。じきに慣れるだろう。
ライセンスとコアを机の上に置いた。ついでにアルのも。
……さっきからアルは黙ってばかりだが、どうやらこういう話は私に一任してくれるようで、何も口出しはしないという風に私の横に立っている。
「これは……マジだな」
あ、信用してもらえましたか。
「偶然討伐できただけですけど。そんなに危険な魔物だとは知らなかったので」
怪しまれると困るので、白を切る。
「それにしても、Fランクがなあ……?」
それでもなお、じろじろこちらを品定めするといぶかしげな視線に、急に居心地が悪くなった。私が女だというのも不信感を募らせる理由になっているのだろう。
―――あまりこういう言い方はしたくないけど、仕方ない。
「この人が倒したので私は特になにもやってません」
そう言って横のアルを指さした。
トドメを刺したのはアルなので、嘘は言っていない。嘘は。
そこでようやく、視線がアルに移った。
「なるほど、随分と手練れのようだな」
「それはどうも」
アルはそっけなく答える。
「冒険者登録をしたのが今朝ですが、元々彼は戦闘に長けていますので。だから結果とランクが合わないんです。試しにと思って街の外に出たんですけどね」
性格が悪い女のよう、ににこりと笑ってそう言ってやった。
すると、二人とも黙り込む。
ちらりとアルの腕輪を見ていたので、どういう意味か分かったのだろう。それ以上追及されることは無かった。
「……奴隷扱いしてごめん」
報酬を受け取るためにギルド内を移動する際、ぼそりと謝った。
手っ取り早い回避方法とは言え、アルには失礼なことをしてしまったと思う。
「いや、気にしてない。さっきのは仕方ないだろ。
これに懲りて、しばらくは危険な魔物には近づかないことだな」
「身に沁みました」
本当にお前は変な女だな、とアルは笑った。




