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2-1

「いつもいつもすまない。本当に助かるよ」


 薄暗い迷宮の中、しきりにぺこぺこと頭を下げ続ける一人の女性の姿がある。

 本当に申し訳なさそうな表情。拝むように合わせられた両手。そして、真摯な口調。何度も何度も繰り返し謝罪の言葉を口にしている彼女。

 真紅の色に染められ、黄金の刺繍で縁取られた見事な造詣の革鎧を身に纏い、腰にはすらりと長い刺突剣(エストック)

 如何にも男装の麗人が好んで身につけそうな派手な服装であるが、本人の容姿はある意味その服装以上に目立つものである。

 まず何よりも目につくのは、その体型。

 大きい。とにかく横に大きい。そして、前にも後ろにも大きい。

 そこで縦にも大きければそれなりにバランスがとれたのかもしれないが、残念なことに、縦はそれほどでもないため余計にその丸々とした大きな身体が目立つことになってしまっている。

 そして、身体だけではなく、顔も大きい。肩よりも若干長く伸びた亜麻色のストレートヘアなのだが、顔が大きいせいかショートヘアに見えてしまう。潰れたように低い鼻に、はっきり見えるそばかす。

 年齢は二十代前後といったところだろうか。種族は特徴的な先端がとがった長い耳と雪のように白い肌から彼女が妖精(エルフ)族であることがかろうじてわかる。

 というか、尖った耳と白すぎる肌がなかったら、オークかドワーフに誤解されてもおかしくない姿であった。


 彼女の名前はマリアガルド・ヴェレスティ。


 見るからに運動が苦手そうなその容姿からは到底信じられないが、これでも彼女は【ダイバー】である。

 しかも、ただの【ダイバー】ではない。

 『水』属性の術を自由自在に使いこなす一流の術師であり、また、【ダイバーギルド】に登録しているあまたの迷宮攻略集団の中でも屈指と名高い強豪チーム【アンサー】の名参謀でもあるのだ。


 【アンサー】


 初心者を卒業した【ダイバー】達の中で、その名を知らぬ者はいない、超有名チーム。

 恐るべき槍の使い手である団長ヴァイスローズ・デスミゼルコリデを筆頭に、名の知れた勇将猛将が群れ集うこのチームは、なんと総勢六十五人という大所帯。一般的なチームの構成は、だいたい六人から十二人で、多くとも十八人までであり、現在ギルドに登録されているチームの中で五十人を越えているのは、【アンサー】を含めても十もないのが現状だ。

 こう記載しただけでは、単純に『人数が多いこと』、イコール、『人気が高い』、『人数分の破壊力を持つ』となるから強いという意味になりそうだが、そうではない。

 確かに迷宮内でモンスターを倒して得られる報酬は、かなり破格なものがある。【ダイバー】達が一攫千金を狙うのもそういう現状があるからで、それに間違いはない。人数が多ければ多いほど、手強い敵を倒すのも容易になるしいいことづくめ。

 ・・・と、なりそうだがそうではない。

 人数が多くなれば、それと反比例して一人が得られる報酬は当然のごとく少なくなっていく。例えば、一匹あたり一千万からなる強敵モンスターを苦労して倒したとしよう。しかし、五十人がかりでそれを成したとなれば、報酬は五十分の一、つまり二十万ほどにしかならない。

 実際には序列や仕事内容によって勿論報酬にいくらかの差はでるであろうが、それでも、一人だけ半分の五百万をもらえるなんてことはまずありえない。多かれ少なかれみな命がけでモンスターと戦っているのだから、多少の差は我慢できても百万も二百万も差がつくようなら、団のなかでたちまち暴動が勃発してしまうことになるのは火を見るよりも明らか。

 そんなことなら少人数で、そこそこのモンスターを相手にしたほうが効率がいいことになる。実際、大半の【ダイバー】達はそう思って、少人数のチームで迷宮の中を探索しているのだ。

 だが、【アンサー】は少しばかり事情が違う。

 彼らを高名にしているその真の理由は、大人数であっても、かなりの稼ぎを毎日のように叩きだしていることにある。

 普通のチームは、迷宮内で狩りをするにあたり、まず、迷宮に入りその目的の階層に辿りついてからようやく標的となる獲物を探し始める。

 なので、目的となる高額賞金モンスターに一回も出会うことなく一日が終わるということもざらで、その稼ぎは本当に運に左右されてしまう。

 しかし、【アンサー】は違う。

 彼らは、その日、迷宮に入る前に、すでに相手となる高額モンスターの居場所を大体把握しているのである。


 何故、そんなことができるのか?


 ごく限定された範囲内だけではあるが、迷宮内をうろつくモンスターを探知する能力を持った異能の【ダイバー】がチームの中に存在しているからだ。


 それは誰か?


 それこそがチームの参謀マリアガルド・ヴェレスティである。


 『水』属性の術の中でも、特に使うことが難しいといわれる究極奥義『水溜り万華鏡』。

 彼女は、この街でその奥義を使うことができる唯一の人物なのである。




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