65話 体調。
65話 体調。
「酒神! 何言ってんだ、てめぇ! 事実、ジャイと先生の勝率はぴったり五分じゃねぇか!」
「そんなもん関係ないでちゅ。オイちゃんのお師匠たんは、ジャイロキューブより強いでちゅ。絶対でちゅ」
「理由を聞いてんだよ!」
「理由とかじゃないでちゅ。これはただの事実でちゅ。お師匠たんは最強なんでちゅ」
「根拠も理屈もない意見を、どうどうと胸張って言うんじゃねぇよ! 相変わらずバカでガキだな、おい!」
そこで、クロートが、
「まあ、しかし、事実、師匠の方が、力量的には『ジャイよりも遥か上』のように思えた。なぜ勝率が五分なのか不思議だった」
「ムラっ気はありましたよね。お師匠様は、体調に左右されやすいイメージがあります」
「酷い時なんて、相手の体力半分以上残った状態で負けたりするもんな! まあ、めっちゃ体調いいなって時は一撃も受けずに勝つけどよぉ!」
「とにかく、お師匠たんは、あの仙女ちゃんより強いでちゅ! お師匠たんの地の強さは完璧なんでちゅ! 一緒にしちゃダメでちゅ! 絶対でちゅ!」
「じゃあ、仮に先生の体調が最悪中の最悪でも、あの仙女に勝てるってのか?」
「百パーセント負けまちゅ」
「なんなんだ、お前は!」
「調子悪い時のお師匠たんは確かに――ぁ、もういいでちゅ。喋るの疲れちゃいまちた」
「酒神さぁ、その、途中で喋り飽きるクセ、マジでやめろし」
★
「体調……最悪だ……あぁ……しんどい……つらい……くるしい……はぁ」
いつものように包丁を研ぎながら、ゴードは、疲れ切った顔で溜息をつく。
(風邪ひいてるっぽい……単純に疲れもたまっている……なんか目がかすむ。全身のいろんな箇所から、なんかミリミリとかピリピリとかって音がする。指、めっちゃ痛ぇ。なんか、胃のあたりがシクシクする……つぅか、とりあえず、すげぇ座りたい。あと、水飲みたい……なんか食欲ない……めっちゃ頭痛ぇ。あれ? 俺、これ、もしかして死ぬ?)
時折セキが出そうになるが、しかし我慢しているのは、ゴホゴホ言っていると、先輩だけではなく同輩からも、キっと、睨まれるからだ。
それに対して文句を言うつもりはない。
自分だって、隣でセキをしているヤツがいたら、『うるせぇんだよ。てか、うつすんじゃねぇぞ』という目で睨むから。
「おい、ゴード!」
「あ、はい。すいません、大丈夫です!」
「は? 大丈夫だぁ? アホか、お前の状態になんか興味ない」
「ぁ、そうすか……えと、じゃあ、なんすか、大将」
「変な客がいるから追っ払ってこい」
「変な客?」
「十歳くらいのガキだ。自分は無双仙女だからタダで食わせろ、などとラリった事を言い張っている。完全に頭がおかしい。つまみだしてこい」
「……なんで、その役目、俺なんでしょう?」
「ほかにヒマなヤツがいないから」
「……現在進行形で、めっちゃ包丁研いでいるのですが……」
「なんでまだ研ぎ終わってねぇんだよ。グズが。普通ならヒマになっているところなんだよ。いいから、さっさと行ってこい」
「……はい」
溜息をつきながら、ゴードは店頭に出る。
確かに、そこには、十歳くらいの少女がいて、
「だから! この『神をも超越した無双仙女』が『最後の晩餐』に選んだとなれば、この店の評判はうなぎのぼりになるわけで――」
「まったく、聞きわけのないガキだなぁ……あのねぇ、そもそも御伽話に出てくる無双仙女っていう超人は、千歳を超えている老婆で――」
「だから! それも何度も言っているでしょ! 私は、不老長寿の秘術を使い、肉体を十歳で止めてい――」
「あ、ゴード! きたか! この子だ! さっさと店の外につまみだしてこい! グダグダ言うようだったら、番兵の所につれていってもかまわん!」
「……はぁい」
ダルそうに返事をしながら、
「さあ、おいで」
ゴードは無双仙女の首根っこをつかんで店の外に出る。
「き、貴様! なんと、無礼な! 私を誰だと思って――」
「はいはい」
テキトーにあしらいながら、ゴードは裏口から店の外に出ると、彼女を放り投げて、
「あのねぇ、君がやっているのは、完全に営業妨害だ。ガキだから何でも許されるなんて思うなよ。俺だって忙しいんだ。おまけに、体調が非常に悪くて、機嫌もすこぶる悪いんだ。これ以上騒ぐようなら、最悪、俺のファイナルナックルが火を噴くということだけ言っておく」




