40 lucky!
私がランス様と結婚してちょうど一年。
丘の上の城のあった場所に、こじんまりした領主館(もう城とは呼べない)が建った。
私とランス様の夫婦の部屋と将来の子供部屋、リビングダイニング、書斎、会議室、事務室、宿直室、スタン執事長室、客間二部屋。スタンさん以外の、住み込みだったニルスタルサ夫妻やダグラス様たちは、この建て替えの間、住んでいた街中の部屋が気に入って、そのままそこに住む。通いで来てくれる。ただし週に2回は交代で泊まりの当直に誰か来てくれるので寂しくない。
それに、私の大好きなお三方も、きっともうすぐ家族を持つ。彼らの子供たちが私たちの子供とここで遊ぶ日も、遠くない。
箱が出来たら、カーテンやキッチン周りなど、街の女性たちが大活躍してこの家を完成させてくれた。バラバラの趣味の掛け合わせで、全く統一感のないインテリアだけど、優しく温かい。
私はランス様にお願いして、領主館の壁に前世の真似をして『定礎 ◯年△月◇日 』、そして携わってくれた全ての領民の名前を彫り込んだ銅板を貼り付けてもらった。大工の棟梁の名前から、そのお父さんにお弁当を届けてくれる、可愛い子供たちの名前まで。この子たちが将来のキアラリーを背負うのだから。
その銅板の前にはガゼボを作り、椅子やテーブルを置き、領民出入り自由の誰もがくつろげる空間に。まあそのすぐ脇で兵士たちが血みどろで訓練しているわけだけれども。一部の女子に、この観覧スペースウケている。時代は汗とマッチョだ!
◇◇◇
領主館の御披露目に、アラバスター公爵閣下とケインお兄様、そして私の両親とキースが遠路はるばる来てくれた。
アラバスター公爵閣下のたっての希望で、挨拶もそこそこに何故かリビングダイニングで、ご飯を振舞っている私。メニューはウサギのグラタン。タコと白身魚のカルパッチョ、イカと貝のアヒージョ、野菜と採りたてキノコタップリピザ……突然リクエストしたってたいそうなもの作れません。
「姉さん、いつの間に料理覚えたの?これ作ってくれたのなら俺も頻繁に寮から帰ったのに……」
久々に会ったキースは若い頃の父そっくりのいい男になっていた。
「あー、ここに来て唐突に料理への探究心が沸々と……」
「むー、まあね、気持ちはわかる。薄味すぎたよねー!あの王家のレシピ。兄上様、僕学校卒業したら、ここで領主見習いの修行していいですか?」
「……ああ、キースはいつでも、どんな理由であれ大歓迎だ」
真っ直ぐな瞳で恐れることなくランス様を慕うキース。そんなキースに苦笑しながらも彼の頭を優しく撫でるランス様。
「ご姉弟揃って食いしん坊さんですね。ランス様、人に教えるよりご自分の成長が先ですぞ」
スタンさんがクスクスと笑う。私と弟は顔だけでなく性格もよく似ているらしい。
「いやー、エム!新しい!高価な材料は何もないのに美味いぞ!実に普通!庶民的だ!なあバルト伯!」
老いてなお矍鑠としてらっしゃる公爵閣下がバシバシと父の背を叩く。地味に痛そうだ。
普通だ庶民的だって……褒められてると受け取っていいもの???
「は、はあ……エメリーン、一体どうした……」
父が唖然としている。実家ではペーパーナイフすら持たせてもらえなかった。
「りょ、領民の皆様が親切にも御指導下さいまして……」
「エム、ランスロット様に自由にさせていただいてるのね」
母が涙を浮かべてにっこり微笑んだ。
「はい、お母様」
ランスロット様の自由を遮るものなどもはやこの世にいない。死神だから!
「うん、私の妹姫は最高だ。エメリーン、愛する愚弟を幸せにしてくれて、そしてこの国の害虫駆除に貢献してくれて、ありがとうね」
キラキラ眩しすぎて直視できない?ありえない美しさのケインお兄様がピザを頬張りながら裏のない笑顔で優しく笑ってくれたけど……意味不明。私を認めてくれたらしい。でも妹姫?害虫駆除???
◇◇◇
お義父様と両親とキースは城下を散策に行った。
書斎の、ランス様の新しい素朴な領主の椅子に座るのはケインお兄様。
その前にランス様と私が立ち、私の後ろにダグラス様、ロニー様、ワイアット様が控える。スタンさんがお茶をケイン様に出す。
「さて、エメリーン、君の人生はこれまで苦難続きだっただろうね。目の前でうちの弟の同様の様子を見てきたから、想像に余りある」
「もったいないお言葉です」
「うちの曽祖父、つまり二代前の王の書き付けにね、『〈祝福〉とは優しき応援、奢るにあらず。振り回されるにあらず』とある。せっかく先達が警告してくれたというのに王を筆頭に馬鹿みたいに踊らされやがって!」
「ば、馬鹿?」
ワイアットがボソっと呟く。
け、ケイン様、王家に対して何て不遜な……カッコいいけど!さすがランス様のお兄様!
「エメリーン、君の〈祝福〉を承諾もないのに私が知っているのは、不公平だと思うんだ。私の〈祝福〉はね、〈王〉だ」
「「「「「ひっ!」」」」」
ランス様を見上げる。ランス様も目を見開き首をブンブンと振る。
「そんな私が生まれて現王は焦ってね。すぐに私の二ヵ月前に生まれた自分の息子オリバーを異例の幼さで王太子にし、その後生まれたコンラッドに君を与えた。私にも父にも玉座を奪う野望などなかったというのに。最近まで父の王位継承権は五位、私は六位、王位などどう間違ってもやってくる予定はなかった。あ、ちなみにランスロットは継承権はない。養子だからね。ディルガーが七位。ディルガーに会わせる機会、そのうち私の代参って形で作るよ。新婚旅行にちょうどいい。あそこは温暖な国だからね」
「はあ」
ディルガー様はランス様のすぐ上のお兄様、南の国の王女様と結婚し、公爵となって両国の友好親善に努めているとお聞きしている。
「しかし、弟への使い捨ての駒のような仕打ち、愚かなコンラッド、そしてオリバーの凶行。目に余る。腹わた煮え繰り返る思いで沈黙を貫いてきたが、もう我慢ならない!と思った矢先、王位が転がり込んできた。ちょうどいい。〈祝福〉なんぞ関係ない。私がこの国を徹底的に叩き直してやる!!!」
「「「「「は?」」」」」
「私は第12代ガルバン王国国王となった。ランス、エム、〈祝福〉してくれるかい?」
「「「「「…………」」」」」
はっ!と正気に戻った私は肘でランス様をつつく。
「あ、兄上?もうちょっと丁寧に、説明してくださいますか?」
「オリバーとコンラッドは勝手に転がり落ちた。孫王子は前王太子妃と失意のうちに隣国に帰った。もう戻る気は無いと継承権を放棄した。王弟は神殿に追いやられ浮世離れしすぎてて還俗は現実的に不可能。我が父は高齢だしその意思がない。故に私の順番だ。王にオリバーたちの責任を取れと凄んだら、すぐに譲位を選んだよ。さすが賢王。子育ては最悪だったけれど引き際をわきまえている」
「な、なるほど、確かに兄上の順番……お、おめでとうございます!」
「「「「おめでとうございます!!!」」」」
王位の方がケイン様のところにやってきたんだ……。
「ありがと。国民への発表は再来月だ。キアラリーはじめ国の隅々まで自分の目で見ておきたくてね。王城に入ると自由がきかないだろう?ああ、手続き上は即位済みだ」
「はあ……あの、父上はなんと?」
「勝手にしろってさ」
「ケイン様が……国王……まじか……」
「くくっ、ダグラス、これからもよろしくね!ああ、ロニー、後で見せてほしい帳簿がある……」
他人の〈祝福〉を利用しようとするものと、〈祝福〉をバネにジャンプして戦う人。どちらを守護精霊たちが贔屓するか。明白だ。ケインお兄様はあっさりと〈祝福〉を超えている。だからこその〈王〉。
自他共に厳しい方のようだけれど、ランス様もお兄様も愛し合っているのが一目でわかる。孤独なランス様を支えてきた恩人。私も微力ながらケイン様に尽くして生きていこう。
「ということで、エメリーン、いや、我が妹エメリーン姫!」
さっきのエメリーン姫!聞き間違いじゃなかった……王弟の嫁って妃扱いなのかしら?
「はいっ!」
「この新しく温もりある領主館で、新王である私に永遠の忠誠と、王弟ランスロットに永遠の愛を誓ってもらうよ」
「はいっ?」
「これは命令だ。スタン!」
「はい」
スタンさんがパンパンと手を叩くと、ドヤドヤドヤっとマダムアリアを筆頭に女性陣がなだれ込んで来た。タルサさん、クレア、イブおばあさん、そして何故か母までも!
「え、エム⁉︎」
「ランスさまー!?」
私はあっという間に拉致られ、二階の夫婦の部屋に連れて行かれた。




