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殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。  作者: 夢・風魔
バーション1.01【始まり】
82/268

82:マジ、運命を導く者。

 称号効果でピチョンと同系統のモンスターと仲良くなれる俺。

 護衛クエの時にも、ポッポが懐いてたっけ。

 今度は数十羽のピッピに懐かれ、ぎゅうぎゅうに密着されていた。

 我もわれもと言わんばかりにくっついてはもふもふ。


 そんな可愛いピッピ達を、俺は絶対に倒させやしない!


《ピピィ》

《ピルルゥ》


 コスライムのようにぷるぷる震えたピッピ達が、一列になって俺の後ろへと逃げ隠れる。

 うおぉ、なんて可愛いんだ!


「レアモンスターだろうがなんだろうが、こいつらを倒させやしないぞ!」


 左手で握る杖に力を込め仁王立ちする。

 言ってはみたものの、PK未実装のこのゲームでどうやって守る?

 サンダーフレアで驚かせて逃げるか?

 そうしよう。時間を稼げばいいんだ。そうすりゃあピッピタイムも終了する。


 あぁ、そうなるともふもふタイムも終了するのか。


 と、とにかく――


「唸れ! 俺の鉄槌!! 『サンダー――』」

「ちょ、ちょっと待って!」


 右手拳を突き上げたとき、一人の女プレイヤーが制止の声を上げた。

 諦める気になったのか?


「あ、あの。もしかしてふんどし王子様ですか?」

「その呼び方は止めてください、マジホント」


 開き直ろうと決意しても、やっぱりチキンだからフィールドに逃げてきたってのに。まさかのここで特定されるとか!


「私はピッピを倒しに来たんじゃないんです! 一緒にピッピを守りましょうっ」


 そう言って何故か俺の横に立ち、他の面々からピッピを守るようにファイティングポーズを取る。

 え? 味方になった!?


「ふ、ふんどし王子様って、掲示板の? ロビー改造のPVに出てた?」

「そういえば……超絶イケメンダークエルフじゃん」

「え? 放電の?」

「そういや、頭に鳥の巣……」


 なんか他の連中がざわざわし始めたぞ。

 おぅおぅ、公式での晒し者は伊達じゃねえぞっ。


「わ、私だって! こんな可愛い子達を倒すなんて、出来る訳ないじゃないっ」


 と、もう一人女の子のプレイヤーがこちらにやってくる。

 おお、おおおおぉっ?


「俺だって!」


 え……


「オ、オレはモンスターエッグに封印してペットにしようと……」


 なんだって……


「もちろん私も――」

「俺も――」

「へ? お、俺もなんだけど」


 一人、また一人とこちらにやってくる。

 そして最後には――


「つまり全員がピッピを倒しに来たんじゃなく……」

「「ペットモンスターにするのが目的です」」


 俺たちと対峙するプレイヤーが一人も居ませんでした。






「はぁ〜ん。ぷぅちゃん可愛いぃ〜」


 誤解が解けたことで、俺達は和んでいた。

 女の子のプレイヤーはぷぅに一目惚れだが、当の本人は――


《ぶっ!》

「やんっ。痛いぃ〜」

《ぶっ。ぶっ!》

「あー、気安く触るんじゃないわよ。と言っておられます」

「おおぉ! ペットの言葉分かるんですか!?」

「いや、その、なんとなく?」

「「おおおおぉぉぉっ」」


 男プレイヤーからは尊敬の眼差しで見られる。

 悪くない。うん。


「ぷぅちゃんって、どうして女だけ突くんですか?」

「あぁ、そいつね、どうやら一人前の女だと思ってるんだよ。んで、なんか俺に近づく女が嫌い、みたいな?」

「「いやぁ〜ん。嫉妬可愛い〜」」


 と女の子達が黄色い歓声を上げる。

 嫉妬が可愛いのか?


「けど放電さん、ぷぅちゃんはピッピとは違うような?」


 放電さん? なんだそりゃ。

 まぁサンダー使ってるときはそんな風に見えるか。


「こいつはピチョンと言って、まぁ実際はよく分からないんだ。親鳥から強引に押し付けられたからさ」

「おお! じゃあやっぱりオープンベータでゲットしたレアペットなのか」

「たぶん? でも今のところただのボールだぞ。餌代も馬鹿にならないし」


 合成してやってる分、若干金が掛かってるからなぁ。


 彼等は全員、劇的大改造の紹介映像を見て、どうしてもピッピをゲットしたくなったらしい。

 メンテ後のサーバーが開いて、今が最初の夜明けだ。

 一分一秒でも早くとやってきたところ、他のプレイヤーがピッピ討伐にやって来た思って焦探していたらしい。可愛いピッピが倒されるのが可哀相だからと。

 まさかその他のプレイヤーも、ピッピをペットにと考えているなんて思いもしなかったようだ。


「丸くてぷっくぷくなのも可愛いよね〜」

「「ねぇ〜」」


 何故か同意する声に、野太い男の声も混じっている。

 ボールに魅了された連中か……。


「なぁお前ら」


 俺の後ろで成り行きを見守っているピッピ達に声を掛ける。

 ぷぅは俺の言葉を理解しているけど、こいつらはどうなのかな?


「ぷぅ、通訳してくれよ」

《ぷ!》


 任せてよ! ――か。頼りになるぜ、ぷぅ。


「この人達はさ、お前らのその愛くるしいフォルムに魅了されてやってきた人達なんだ。倒そうとしに来たわけじゃない」


 俺がそう説明すると、ここにいるプレイヤー全員が頷く。

 息ピッタリだな。


「お前らと仲良くなりたくて来たんだよ」

「そうよ! 一緒にこの世界を旅しましょう?」

「そうとも! 俺はペット――いや、相棒としてピッピを選んだんだ!」


 なんか暑苦しいな……。

 まぁとにかく全員がピッピと仲良くなりたいってのは嘘ではない。

 皆が熱い思いの丈をぶちまけ終えると、最後に俺は、


「もしこの人達と友達になってもいいよって奴がいたらさ、モンスターエッグの中に入ってやってくれないか?」


 と尋ねた。


《ピッピ?》

《ピピピピピ?》

《ピーピピピィ》


 なんか会議が始まったぞ。モンスターも会議するのか。

 その輪の中にはぷぅも混じっている。

 何やらピッピ達に話をしているようだが。

 えーっと?


《ぷぷぷ、ぷぷぅーぷぷ》――冒険者と一緒にいるとね、美味しいご飯が食べられるわよ。

《ピ!?》

《ぷぷぅ。ぷぷ、ぷぷぷぅ〜ぷぷ》――そうよ。でもね、そのご飯を作れるのはうちのダーリンだけなの。


 ピッピが一斉に俺を見つめる。その目は、なんとなくギラギラしているように見えた。

 そう、まるで得物を見つめるような……蘇るホラー映画のワンシーン。

 やがて結論が出たのか、一羽のピッピがプレイヤーの前にピョンピョン跳ねながら進み出る。

 もしかして、こいつは封印されてもいいって事なのか!?


《ピッピ、ピピピ、ピッピピピイ》

《ぷっぷ、ぷぷぷ、ぷっぷぷぷぅ》

「あー、ぷぅが言うには、俺からペットフードを購入する事を条件に、相棒になってやってもいい。はぁ? なんだそりゃ」


 さぁ封印しやがれ。とでも言いたげな顔のピッピは、色めき立つプレイヤーの前で羽を広げた。


「俺があぁぁぁっ!」

「え? ちょ、ずるい!!」

「抜け駆けかよっ」

「えぇ〜。こんなチャンス、絶対もう訪れないってのにぃ」

「ピッピ封印完了! うおぉぉぉっ、嬉しい! 名前何にしようかな。どんな子になるのかな」


 い、今の一瞬の出来事はなんだったんだ?

 物凄い速さで一人の男がモンスターエッグを投げつけてたけど……。

 反応が遅れた連中が抗議しまくってるが、卵をゲットできて顔の緩んだ男を見て諦めたようだ。

 自分も抜け駆けしようと思ったから――と。

 そして、ゲットできたのが自分だったら、間違いなく周囲の事なんか考えず、大喜びするだろう――と。

 更に、これだけの反応を見せた彼なら、きっとピッピを幸せに出来るに違いない――と。


 凄いなこいつらのピッピ愛。

 ゲット出来なかったのに、相手を許し、ピッピの幸せを願うとか。

 ちょっと泣けてきた。


 そして冷静さを取り戻した抜け駆け君が、モンスターエッグを抱えたまま突然土下座をし始める。


「ご、ごめん! お、俺、自分のことしか頭になくって……本当にごめん!!」


 地面に額を擦り付けるぐらいの勢いで土下座する抜け駆け君。

 誰一人、彼を咎める者はいない。


 なんだろうな。

 青春って美しいな。


 ふとピッピのほうを見ると――


《ピ》

《ピッピ》

《ピッピピィ》


 一羽、また一羽とプレイヤー達のほうへ跳ねていく。

 ま、まさか!?


「え? わ、私の卵に入ってくれるの?」

《ピ》


 最初に俺の方へ来た女の子の所に一羽のピッピが跳ね寄る。彼女がモンスターエッグを取り出すと、ピッピは自ら卵を突いて割った。

 白煙が立ち昇り、それが消えるとピッピの姿は無く、真っ青な卵が一つ転がっていた。


《ピィ》

「お、俺?」

《ピピピ》

「私の所に来てくれるの!?」

《ピッピピィ》

「おう! お前に決めたぜ!」

 ・

 ・

 ・

 そして、無事に全員がピッピをゲットした。


「集まったプレイヤーの人数と、ピッピの数が同じだったとか、凄い偶然だな」

「ううん。これは運命だったの! 王子様、あなたが導いた運命よ!!」

「ありがとう、ふんどし王子!」

「マジありがとう、ふんどし王子!!」

「あ、ああ。うん……ふんどしは、止めてね」

「「分かったよふんどし王子!」」


 俺のライフが残り1です。

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