69:マジ、タンカーになる。
森を進む事数十分。
昆虫系やら植物系モンスターが目立つが、俺の火魔法が有効なのは変わりない。
「『ファイア』ソード!!」
ファイアを剣に見立てて形状変化させ、薙ぎ払うように薔薇頭のモンスターに攻撃する。
ふ。これぞ魔法剣士!!
「どう見ても調教用の鞭だね」
「儂には定規に見えるぞなもし」
……。
いいじゃないかっ。イメージだよイメージ!
現実的に見ればただの細長い棒でも、俺の脳内では真っ赤に燃える立派な剣なんだよ!
レベルがあがればいつかきっと……ぐすっ。
しかし、正式サービス開始後の技能レベル上昇は凄いな。
形状変化で遊んでいたつもりが、もうレベル3だしな。
ついでにカッチカチのお陰で神聖魔法のレベルも上がってる。
なかなか順調だぞ。
「ん? なんか向こうで戦闘をしているパーティーがいるね」
「どれど――あれはボスモンスターぞなもし!?」
ザグの言葉に驚いて先を見つめると、何やら大きな木を相手に奮闘している人達が。
あ、なんかあの木動いてるな。
まるで昨日見たウッドマンみたい……
「みたいじゃなくって、ウッドマンかよ!?」
「うわっ。なんか二体いるっ」
「新エリアの特定の道を通ると、ボスモンスターが道を塞ぐようにして登場すると聞いたぞなもし。この道がそうであるかもし!」
二体のウッドマンと戦うプレイヤーも、なんだか二つのパーティーに別れているようだ。
というか揉めている?
「こっちに来るなっ。もっと向こうで戦えよ!」
「お前らがさっさと倒さないからだろっ」
「先に到着してたのは私達なんだから、迷惑にならないよう移動するのがマナーってもんでしょっ」
つまり、通過するパーティー分、ボスが出てくるって事か。
昨日の護衛クエと同じだな。
「どうする? あいつらが倒し終えるの待つか?」
「というか、ボク達で倒せるの? 特定のルートに出るってうなら、別の道に行けばいいんじゃないかな」
「んむ。街道から少し逸れるであるが、迂回して進むぞなもし」
「そうだな」
乱戦になっているボスの戦場を横目に、俺達は森の中へと分け入る。
まぁ対して草が茂ってるわけでもなく、特に歩くのに不自由は無い。
そして一分ほど歩いた所で、前方に生えた木から何かがずずぅーんと出てきた。
《ぶぶぶぶぶぶぅ》
ぷぅが威嚇するかのように、ぶぶぶぶ鳴き出す。
うん、笑いがこみ上げてくるから止めろ。
ぷぅを巣に入れ、出てきたそいつをじっと見つめる。
《我はぁ〜、この森をぉ〜、守護するぅ〜、者なりぃ〜》
はぁ!? 喋った?
出てきたのはさっき見たウッドマン!?
うわぁ、こいつボスじゃんか。
『通せんぼのウッドマン』とかいう名前だぞ。レベルは16か。
《ここからぁ〜、先はぁ〜、強き者しかぁ〜、通れないだぁ〜。ここをぉ〜、通りたければぁ〜、我を〜、超えてゆけぇ〜》
「うわっ。迂回ルート無しってこと!」
「どうあっても倒さねばならんぞなもしぃ」
「っち、仕方がねぇ! 『カッチカチ』やぞ!」
バリアを自分に掛け、ウッドマンと対峙する。
どうせ二人ともDEXだのLUKだのしか上げてないから前衛にはなれない。
なら、同じVIT無しでもレベルが高い分、俺が一番HPも高い。実際、簡易パーティー欄見れば解る。
それに、全力で魔法ぶっぱすればどのみちダメージヘイト取るしな。
「全力で行くぜっ。『ファイア』ソード!」
ゼロ距離で火剣をぶっぱする。
一瞬、棒状に延びた炎は、そのままウッドマンに当たって爆ぜた。
「全力で芸を披露してるぞなもし!」
「あははははは。面白いね、マジックは」
「まだまだ行くぜぇ。『焔のマント!』」
これはイメージの練習をしていないので、普通に使う。
ぼぼぼぼぼぼと音を立てて、炎に包まれた俺と対峙していたウッドマンが燃える。
しかもその間ウッドマンの攻撃はキャンセルされやすくなっているようで、伸ばした手が火に触れるとすぐに引っ込めてしまう。
防御壁になっている火は二秒毎に継続ダメージを発生し、奴が攻撃モーションに入るタイミングでヒットするとキャンセルが可能みたいだ。
ダメージのタイミングは狙って出来る訳じゃないので、運次第な要素だが。
うんうん、なかなかいいじゃない、このスキル。
そんでここからのぉー、
「『サンダーフレア!』」
「マジックが真面目に戦ってるよ!」
「イメージ練習してないスキルなんだよ!」
多段ヒットが終わると、すぐさまウッドマンの攻撃が飛んできた。
地味ぃな踏みつけ攻撃だ。
このウッドマンは体長五メートルほどもある。見上げるのが辛いので足しか見ていないが……こいつ、足あるんだもんなぁ。
踏みつけ攻撃の一撃でカッチカチが割れる。
やっぱりボス戦では役立たずでしたあぁぁーっ!
でも何も無いよりマシかっ。早くCT明けてくれぇー。
必死に応戦しつつ、ダメージを食らってはヒヤヒヤし、CT確認用のスキルアイコンを見ては心臓をバクバクさせる。
シースターとザグの攻撃はあまり通ってない。
俺が踏ん張るしかないな。
「ぬ? 大技が来るぞなもし!」
「わっ。マジック、逃げてっ」
ウッドマンが地団駄を踏み始めて、大きくその足を振りかぶった!?
「わぁぁぁぁぁ『リターンオブテレ――」
《おおぉぉぉ〜》
最後の『ポート』を言う前に、奴の足が地面に着地する。
ごごごごごごごと地鳴りが響き、そして揺れた。
痛い痛い痛い痛い。
これ、地震攻撃か!
「くあぁー。痛いが、魔法攻撃で助かったぜ。『ヒール』」
絆創膏を腹に貼り付け治癒する。
食らったダメージは750と結構痛い。
これINT型じゃなかったら、どのくらい食らってたか。
おっと、INT型じゃない二人は――あ、逃げて無事だったのね。
「マジック大丈夫かい?」
「あぁ。なんとか」
「地属性耐性を持っていたであるかもし。運が良かったであるなもし」
いや、魔法なら全属性に耐性あるけど。まぁいいや。説明してる暇はないし。
CTの明けたカッチカチを再び掛け、ファイア、焔のマント、サンダーフレアと火攻めにする。
足元で戦う俺は、ウッドマンの大技モーションがいまいち見えない。
ので、一番レベル差の大きいシースターには距離を取って貰い、モーションチェックに専念して貰った。
その結果――
「来る!」
「『リターンオブテレポート!』」
《おおぉぉぉ〜》
地鳴り前にウッドマンの背後に飛んでなんとかやり過ごせるようになった。
この攻撃、見た目に反して効果範囲が狭い。
たぶん、隣接してたら食らう程度じゃないかな。
ウッドマンから五メートルも離れればダメージ来ないし。
大技前に待機モーションがあるお陰でなんとか躱せる。が、通常攻撃は待機時間無しなので、回避率での回避しか望めないな。
しかも物理攻撃なぶん、ある意味こっちも痛いっていうね。
カッチカチで一発防ぎ、焔のマントでこっちこないで作戦。しながらファイアとサンダーフレアで火力ぶっぱ。
カッチカチとマント両方がCT中になる時間が必ずあるので、その時に攻撃を食らうのはもう仕方が無い。
持久戦になるが、MPが心配だ。
というか、既にヤバイ。
《ぐぉぉ〜ん》
「ちょ、素パンチが痛いんだって!」
避けたいが、避けきれなかった!
痛い。ダメージ430!
MPも残し少ないし、HPも回復しないといけないし。
同時に回復は出来ないんだよ!
「マジック! ライフマジポだよ!!」
シースターの声が背後から聞こえ、俺ははっとなってインベントリを開いた。
あるじゃん!
HPとMP両方を回復させる手段がっ。
一本取り出し飲み干す。
そして直ぐにカッチカチ。
もう一本取り出し、ポーションのCTを待ってからそれを飲む。
HPはこれでマックスだ。MPはまだ回復しきってないが、いい!
「くぅ〜たぁ〜ばぁ〜れぇ〜〜。『ファイア!!』」
《もわぁぁ〜ん》
こうして、ライフマジポが底を尽く前にウッドマンの討伐が完了。
このゲームを始めて、一番の最長記録だったんじゃなかろうか。
「や、やっと終わったぞなもし」
「ボク、何もできなくてゴメンよ」
「いやいや、大技のモーション教えてくれるだけでも有り難いし、そもそも俺が頼んだんだし」
「そうだぞもし。儂なんか、アレを食らったらたぶん即死ぞなもし」
「そうそう。あれを躱せるだけでも、俺の生存率が一気に跳ね上がるしな」
700超えのダメージとか、全部食らってたらヒールも追いつかない。
ポーション飲んで間に合わせても、その分攻撃の手数が減ることになる。
今よりもっと時間掛かってたら、ライフマジポも……あ、残り三本じゃん。絶対足りてなかったよ。
改めて無事討伐を喜び合い、ついでにドロップにも大いに喜んだ。
「ボスだけあって、レアだのハイクラスの素材を落としてくれたな」
「うぉぉぉぉ。感動ぞなもしぃぃ」
「ボクも……生でレア素材ゲットしたの、初めてだよ」
おいおい、そんなに感動ものなのか……。
今回は装備のドロップは無く、幾つかの素材をゲットした。
木だとか実だとかが内容物だが、これが全部素材になっている。
木工で使えそうなものばっかりだな。
そんな話しをしていると、後ろから別のパーティーがやってきた。
俺たちと同じで迂回してきた連中か。
「おい、こっちに来てもウッドマンが出るぞっ」
「え? なんだって――うわぁぁっ。出たあぁぁっ」
ほうら、言ってる傍から――うん? 出てるのか?
「なぁ二人とも、ウッドマン見えるか?」
「ううん。見えないね」
「ふむ。おそらく、一度倒したら見えなくなるんぞなもし」
ほほぉ。
見えない敵と戦う。まさにこれだな。
剣を振り回す物、魔法をぶっぱなす者。矢を射る者。
魔法も矢も、前衛が武器を振り回している辺りで消えてなくなっている。
「見えない敵と必死に戦ってる人を観察するのも、面白いな」
「でもここ、街道から逸れてるからモンスターがポップしやすいよ」
シースターが指差す先に、三体セットのモンスターが見えた。他にもいろいろいる。
見えない敵と戦うパーティーの邪魔にならないよう、俺達は来た道を戻って街道へと出た。
さっきの二パーティーはさすがに居なくなっているな。
だがそこでも見えない敵と戦う連中がいて、さっきよりも人数が多い上に、もっと険悪なムードだ。
「おい、交戦中の中を突っ切って行こうとするなよ! 結局ウッドマン出てくるんだからさ」
「こっちだって知らなかったんだよ!」
「人が戦ってる隙に楽して渡ろうとするからこうなるんだろ!」
「そういうお前らこそ、俺らの横をこっそり走って通りぬけようとしてただろうが!」
「き、気のせいだろ。俺等はただボスをおびき寄せようと近づいただけで」
「え? リーダー、そうだったのか? 今のうちだ! とか言ってまっさきに走りだしたから、通りぬけするんだと思って――」
「お前っ。余計な事言うなっ」
「あぁん。もう皆邪魔ぁ〜」
「一番最後に来てそれ言うか! お前らのせいで四体になったんだぞ!」
「女の子に怒鳴るなんて、信じらんないっ。どうせリアルじゃブサメンでモテないんでしょ」
「てめーこそ気合入れて美少女アバターにしてるが、リアルはデブブスなんだろ!」
「きぃーっなんですってぇ」
四体か。
なむぅ。




