264:マジ、友を救う。
「マジさん、これ最初のボスから出たドロップっすわ」
「マジいいのか!?」
「三つ拾ったし、一つぐらいどうってことないっすわ」
二つくれよ。
タコ男を無事撃破した俺たちは、二周目に突入。
ふ。同じ過ちは二度としない!
第一のボス、カジャットはとにかく即死に気を付ける事。
倒し終えれば二階に下りて壁をぶち壊しショートカット。
第二ボスのボーノは比較的楽だった。俺とノームの二枚ちゃぶ台で回転を止め、止まったらフルボッコするだけ。
即死がないうえに対策も出来れば一気に楽勝ムードになる。
ラスボスは階段を降りるとすぐ戦闘なので、まずあんまんがヘイトを溜めるために飛び出す。
続いて俺たちは足場作りの為に樽を並べ始める。予備も含めて十個ぐらいを、ある程度離して。
その準備が整えば戦闘開始。
どこに即死川が流れてこようが、樽に上れば関係ない。
足を踏み外して落ちない限り、死ぬ事はない。
とはいいつつ、五周を終えた段階で――。
「久々に死んだ……」
「なんだよ、一回ぐらい。俺なんて初見で二回も死んだんだぜ」
更に言えば、その後も追加で一回死んでいる。
「何周かしていれば、事故死ぐらいあるわよん」
というめふぃすとも一度転がった。
「そうねぇ。こういったダンジョンボスの即死なんて、周回を重ねてタイミングを覚えるものだしぃ」
と慰めてくれる紅茶さんは、唯一の死亡ゼロ者。
今、最も落ち込んでいるのはあんまんだ。
「タンクの俺が戦闘不能なんて、申し訳なさ過ぎて……申し訳なさ過ぎて……」
「私なんてサブタンクの立場でなきゃいけないのに、マジックくんにもめふぃすとちゃんにもダメージヘイトで負けてて……その癖死んでるし」
前衛物理の二人の周囲は、どよぉんっとした重い空気が漂っていた。
「ま、まぁいいじゃないか。パーティーが決壊したわけじゃないんだ。それにこのパーティーは効率よりも楽しもうぜっていう前提で募集したはずだぜ?」
五周して手に入れたのは、レジェンド素材が五つ。レアは九つ。その他素材はゴミなので後でNPCに売却して金にする。
これなら二日あれば装備素材が集まるな。
この時点で時刻は昼前。
一日上限十周という縛りもあるし、一度に十周するのはさすがに疲れる。
みんなとフレ登録をして解散。
経験値は……デスペナもあったし、思ったよりは増えてないな。だいたい20%弱ってところか。
まぁ全殲滅してたのは一階だけで、二階はショートカット。三階はそもそもボスしかいなかったわけだから仕方ないか。
夜に追加の五周をすれば一日で40%ぐらい。
素材が揃う頃にはレベル36だな。
なんだ、ちょうどいいじゃん。
あとはレベルアップと同時に新装備が作れれば……。
「ってことでさシースター」
「うん。どういう事なのかさっぱり分からないけど、とりあえず返事はしておくよ」
「おぅ、サンキューな。じゃあ素材は最低限用意するから、何が必要なんだ?」
「そこ、最低限って単語が気になるんだけど!」
「一発でよろ」
「鬼ぃぃぃぃっ。鬼が居るよぉぉぉっ」
『お帰りなさいませ、彗星マジック様』
「あぁ、ただいま」
『見てください、この【いいね】の数を』
「は?」
昼飯&運動の為にログアウトしてロビーに戻って来た俺に、シンフォニアはホログラフィックモニターを見せてくる。
しかもやたら嬉しそうに、だ。
映しだされていたのは昨夜のペット紹介ページ――のページ下部。
そこにはSNSか何かかと見間違うようなボタンがあった。
そう――【いいね】ボタンが。
しかも【いいね】の横には押されただろう数値まで出ているという。
「いいね……986回?」
『はい! あともう少しで1,000回達成でございます。彗星マジック様、ここは是非っ』
……さて、飯食うか。
にこにこ顔でモニターを抱えるシンフォニアを無視し、俺は現実世界へと戻って行った。
昼飯を食い、昨日同様に体育館まで自転車をこいでいく。
誰でも利用可能なロビーで汗が引くのを待ち、ついでにお腹も休めてから体育館の利用料金を支払ってランニング開始。
ふ。
日曜日の今日、施設の利用料を取られる仕組みになっている。
だが俺は軍資金の調達に成功したのだ!
親父に「ジュース飲みたいからジュース代をくれ」と頼み、まんまと百五十円を騙し取ることに成功! もちろんジュースなんて飲まないし買わない。
冷蔵庫の中には麦茶がある!
これで十分だっ。
あとは机の中を漁って二十円ほど発掘し、合計百七十円で施設利用料金に。
土日の利用料二百円のところ、会員様は百七十円なんだよ。
会員最強伝説!
「さて、軽く走るか」
なんかオブジェ以来、最強伝説が俺の中でツボになってるな。
っぷふ。
ランニング最強伝説!
体育館を見下ろすランニングコースに入ってすぐだ。
「あれ? 水村君」
「お? 星見君。え? そっちもランニング?」
頷く星見の額には、既にほんのり汗が浮かんでいた。
まさか星見もVRによる弊害が!?
「や、やっぱりVRやってると、その……運動不足になるから?」
体重が……とは聞かず、ちょっとオブラートに包んで尋ねてみる。
すると案の定というか、星見は苦笑いを浮かべた。
「ま、ね。あれってさ、放っておくとすぐ体重が増えるんだよ。まぁぼくらは男だからいいかもだけど、女の子は大変なんじゃないかなぁ」
「いや、男でもデブるのは嫌だぜ」
「だから走ってる」
「俺も」
うぅん、気が合うなぁ。
星見と並んで走った後、再びロビーで汗を拭き、更にその汗が完全に引くまでゲームの話で盛り上がる。
「へぇ、じゃあ星見君もペットをゲットしたんだ」
「うん。ぼくは生産メインだからさ、必要ないかなとも思ってたんだ」
「でもDEX上昇バフとか欲しいんじゃない?」
「そうそう。どうやら希望するバフとか、ある程度絞れるみたいなんだよね」
絞れるというか、主人のプレイの様子で決まるようだ。生産メインなのに戦闘ばっかやってるプレイヤーも早々いないだろう。となると、DEXかLUKの補正バフを覚える可能性がほとんどだってことだ。
逆に戦闘職のほうが、どんなバフになるか想像できないかもしれない。
物理か魔法か、この二択のどちらかぐらいは確定できるだろうけどな。
「で、どんなモンスターをペットに?」
「あぁ……恐竜だよ。子供の頃から好きでね」
「ほぉ。恐竜かぁ。結構人気なのかな?」
シースターも恐竜好きだったしなぁ。
「案外人気っぽいよ。相棒のペットが恐竜だと、戦闘職ならやっぱり強そうでかっこいいからってさ」
「確かに。でも戦ってくれないから、強そうとか関係ないよねぇ」
「だよね〜」
などと他愛のない会話のあとに何気なく聞いた質問。
「星見君って、VR歴長そうだけど」
「あぁ……えっと、五年ぐらいかな」
五年……俺たちって今高校一年生だろ?
五年前って十歳か十一歳……どっちにしろ小学生じゃん。
ふと星見の表情が曇り、ぽつりぽつりと身の上話をしはじめた。
「うちさ、両親が離婚しててね。それ自体は特に珍しい事もないんだけどさ」
う……な、なんか空気が。
「しかも、両親が揃ってぼくを引き取りたがらなくって……今は父方の祖父母の家で暮らしてるんだ」
「そ、そうなのか」
「まぁそんなんで、拗ねた時代があってね。いや、今でも十分拗ねてるけどさ」
そう言って星見は笑う。
その拗ねてた時代に、親とか学校とかから逃げ出したくてVRゲームを始めたのがきっかけだと。
「いやぁ、でもこれが意外とすんなりハマってさぁ。ぼくがゲームの話を楽しそうにすると、おばあちゃんがゲームで使えるようにってお小遣いくれたりしてね。あ、でもちゃんとお礼に肩たたきやお風呂掃除とかはしてるんだよ」
そう話す星見はさっきまでの明るい表情に戻り、今現在は普通に楽しく、幸せに暮らしているんだというのが分かる。
そっか……星見にそんな過去が……。
「あ、そうだ。同じクラスの相田君って知ってる?」
「え? あ、ああ。話はした事ないけど」
他県から引っ越してきた俺は、未だにクラスには溶け込めていない。
まぁ星見を含め、何人かは会話ぐらいする連中はいるけど。
相田は声がでかく、クラスでも悪目立ちするタイプの奴だ。正直、関わりたくない。
その相田がまさかの!
「イマジネーション、やってるみたいなんだよね」
「げっ」
「あはは。げって思うだろ? ぼくもだよ。彼には同じゲームやってるって、知られたくないよねぇ。他にも数人、イマジネーションやってるの居るんだけど、全員に絡んでるみたいだよ」
うわちゃ〜。こりゃ絶対知られたくないな。
お互い学校ではあまりゲームの話をしないようにしようと約束した俺たち。
体育館を出て、お互い別々の方向に帰って行った――のだが。
「水村君、ちょっといいかしら?」
「あなた、最近星見君と親しそうよね」
「星見君がプレイしているゲームの事、知ってる? 知ってるなら教えてよっ」
こいつら、星見ファンクラブの面々か?
仁王立ちして俺を待ち構えていた女子三人組に見覚えがある。
登校日の帰りに、下駄箱で待ち伏せしていた女子だ。
まさか休日にストーカーかよ!
「ねぇ、知ってるの!?」
「教えなさいよっ」
「いや、残念だがタイトルは知らない」
「嘘いいなさい!」
「本当だ」
嘘です。
「ただし俺がやってるゲームとは違うってのだけは、さっき話してて分かった」
嘘です。
「じゃあ、あんたがやってるゲーム教えてよっ」
「イマジネーションファンタジアオンライン」
本当の事です。
「イマジネーション……ね。ありがとう水村君。それ以外のタイトルで探すわよ!」
「「おぉ〜っ」」
星見。
俺は今、お前の事を守ったぞ。
VR以外のジャンルで新作の投稿をはじめまして。
よろしければそちらも生暖かく応援いただければ嬉しいです。
『アンデッド無双~古代竜を生贄に召喚された霊媒体質の俺は、異世界で死霊使いになりました~』




