262:マジ、大発見(?)をする。
大空ならぬ倉庫を羽ばたく俺。
そう。
俺は今、羽ばたいている!
「うおぉぉぉ。人間やれば飛べるもんだな!」
「いや、それぷぅちゃんが頑張ってホバリングしてるだけだから」
「な、に!?」
振り返るとそこに、真っ赤な顔をした青い球体がばさばさやっていた。
ぷぅは申し訳程度にある足で俺の服を鷲掴みし、そして羽ばたいているのだ。
〔ぶ……ぶぶぅぅ〕
「ぷ、ぷぅ! お前、俺の為に……くっ。さっきはデブだデブだと言って悪かった。あとでお前の為に、特性ペットフードを合成してやるからな!」
〔ぷ! ぷっぷぷぷぅ〜♪〕
新作ペットフードと聞いて、ぷぅの顔に余裕が出る。
やっぱり食い気に勝るものは無いんだな。
だが徐々に下降していく。
風でもあれば川の範囲外に流されつつ下降しても困りはしないんだが、なんせここは倉庫の中。いや船の中か。
風なんて……あ。
「シ、シルフ! ぷぅの翼に風を送って、川の向こうに飛ばしてくれっ」
〔ひゅる〜ん〕
〔ぷっぷぅ〕
ぷぅもやっぱりしんどいようで、シルフにお願いコールをしている。
シルフがくるんっと回転し風を起こすと、それを受けたぷぅが右へと流され始める。
「もう少しだぷぅ! 頑張れっ」
〔ぷ、っぷぷ、ぷぅ〕
ペットフードとダーリンの為に……か。
俺の地位はペットフードの次らしい。
まぁそれでもいい。無駄死にしないのなら!
斜め方向に降下していく中、川の流れを遡って見て見ると……なんだあれ。
川上にあるタコ男の石像から、まるで墨を吐くような感じで流れ出てるんだが。
きもぃ。
そりゃあ即死もするわ。
その川の流れは扇状に広がりながら床まで流れ、実物のタコ男の向きに合わせてざざーっと。
しかしこの川、実際には水じゃないのか?
あちこちに置かれてる樽なんかは、特に流されているようでもない。
ちゃぶ台は破壊されたが、樽は健在……ん?
樽は健在?
しかも樽が川の流れをせき止めるかのように、その後ろは人ひとりが立てるぐらいのスペースが空いている。
着地したときにはちょうど川の流れはストップし、即死の恐怖に怯えることなく帰還。
「不死鳥のように舞う俺、さんじ〔ぷっぷぷぅ〜♪〕」
シュタっとポーズを決めた俺の頭頂部に、ぼすっと着地するぷぅ。
「まさか空中で回避できるなんて思わなかったわん」
「普通、そんな事思いつく人はいないっすもんね」
「だって横に逃げれば済むことですもの」
「さすがマジック君だ! いつもながら発想が変!」
おい、変ってなんだ変って!
しかもぽんこつ娘に言われるなんて、心外だぞ!
ふっ。いいさ。今は言いたいように言わせてやる。
あとで俺を絶賛し、褒めたたえる時が来るだろう!
その為に〜……。
近くに転がる樽をかき集める。
「おいマジック、何してるんだい?」
「あぁ。みんなが俺を褒めたたえるための準備をだな」
「褒め……え?」
とりあえず検証用だ。三つもあればいいだろう。
それを石像に対し横一列に並べて置く。
「ちょっと検証したいんだ。もし俺の予想が当たっていれば、即死を回避しなくてよくなるかもしれない」
予想が外れれば死ぬ……というのを説明し、
「まぁいいんじゃなぁい? ダンジョン攻略なんだし、そういう検証も大事だと思うわよん」
「死んでも自力復活するんだろ? デスペナなむと先に言っておくよ」
「マジさんが死んでくれれば、ヘイト奪われなくなるんで歓迎っすよ」
「マジック君の死は無駄にはしない!」
こいつら……好き勝手言ってくれるじゃねえか。
あとになって俺を崇めても、何もやらねーからなっ。
〔ひゅるっ〕
〔ぶ〕
お、ぷぅも嫌々ながら合図を送るようになったな。
みんなが逃げる中、俺は樽に横に並べた樽にぴったり密着する。
頼むっ。予想よ、当たれ!
「マジ南無」
「デスペナ祭りねぇ」
「南無っすわ」
「骨は拾ってあげるわよ」
「マジックくぅ〜んっ!」
好きなだけ言ってろ。
俺は勝つ!
とか思いつつ、予約蘇生の効果時間をチェック……よし、時間は十分ある。
万が一にもバッチリ対処できるぜ。
ざざーっと毒々しい紫色の川が流れてきて、樽に直撃――するが、樽は微動だにしない。
更にぶっ壊れる気配もない。
当たり前だよな。ぶっ壊れるなら、倉庫内の樽なんて既に存在すらしていないはずだ。
そして予想通り。
三つ並べた樽は川の流れをせき止め、川は樽を避けるようにして流れていく。
樽の後ろには横幅樽三つ分、長さ一メートルぐらいの非即死ゾーンを作り上げていた。
「ここにオブジェ最強伝説が始まる!」
拳を突き上げ高らかに宣言すると、後ろで罵声を飛ばしながら見ていた仲間たちから感嘆の声が上がる。
「す、凄い。樽で即死が回避できるんだ」
「マジック君。私は信じていたよ!」
「うっそん。信じらんな〜い」
ふふふ。そうだろう、そうだろう。
おっと、攻撃検証もしないとな。
……と思ったが、ちょっと……手が……届かない……。
いや、タコ男まで二メートルぐらいなんだが。
うぅん、二メートルだぜ?
ち、近いじゃん。当たるだろ?
「『サンダーッ』」
毬栗のみの『サンダー』を、かる〜くぽいっと投げてみる。
タコ足の隙間に落ち、タコ、無傷。
「ねぇ、あの子何やってるのん?」
「光弾を落とした? どんなスキルっすか?」
「きっと地雷式なのよ」
無駄に近魔の経験値をリセットするだけだな。
……やっぱり投げるのは二度とすまい。
今この瞬間、俺はそう心に誓った。
書籍のほう、そろそろ返本時期になるかと思います。
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そちらもぜひ、よろしくお願いいたします。




