261:マジ、倉庫に羽ばたく。
部屋の端から端までが即死ゾーン。その訳がよく分かったぜ。
「俺、復活!」
からのぉ『ヒール』にポーション飲んで再び『ヒール』。そして『カッチカチ』
更に『死してお宝』も掛けなおしっと。
「よかったなマジック君。スキルが役に立ったぞ」
「あぁ、そうだな……」
役に立たないならそれでもよかったんだけどな。
再び陣形を整え攻撃を再開。
「ぷぅ、ちゃんと石像見ててくれよ」
〔ぶぅ〜〕
あの石像、生理的に受け付けないだと?
そんなもん、俺だって同じだよ!
「俺が死ぬことと、石像を見るのと、どっちが嫌なんだお前は」
〔ぷぷ〕
「はぁ? 石像見る方が嫌だと!? 俺が死んでもいいってのかっ」
〔ぶぶぶぶ〕
すぐ起き上がるからいいでしょだと?
デスペナで経験値が減るんだよ!
くそう。なんてペットだ。
〔ひゅるるん?〕
「え? シルフが見ててくれるのか?」
〔ひゅる〜〕
シルフ……マジ女神。
〔ひゅるっ〕
「オッケー!」
シルフの合図でタコ男から急いで離れる。
毒々しい川はシルフの合図から七、八秒ぐらいして流れてきた。
僅かな時間しかないが、川幅は二メートル足らずなのであんまんでも回避可能だ。
しかもその間、タコ男は一歩も動かず、あんまんが移動しても追いかけてくることは無い。
タイミングさえ間違わず逃げられればほぼ確実に回避可能っていうね。
「いやぁ、シルフ有能! それに引き換えこのデブ鳥ときたら」
〔ぶ!? ぶぶぶ、ぶぶぶぅぶぶぶ〕
デブじゃないわよと抗議しているが、どこからどう見ても丸いですから!
「でもほんと、精霊って優秀よねん。ボスのスキル攻撃感知だって、システム側で先読みしてるのってぐらい反応早いし」
「うんうん。言葉は分からないけど、シルフの焦ってるような声が聞こえたら逃げればいいんだしね」
「ほらみろぷぅ。みんなシルフを大絶賛だぞ。それに引き換えお前ときたら……デブ」
〔ぶっ!?〕
青い顔を真っ赤にさせ、いつにもまして丸く膨らむぷぅ。
なんか、魚のフグみたいだな。
拗ねたぷぅをほったらかし、タコ男の討伐に専念する。
即死の頻度は案外高いせいもあって、攻撃になかなか専念できない。
おかげで時間がかかって仕方ないな。
最速二十五分攻略なんて、どうやってんだよ。
一階部分を殲滅しながら進行だったとはいえ、そこだけで二十五分はかかったんだが。
と、そんな廃人たちの事なんか考えたって仕方ない。
俺たちは俺たちのやりかたでやりゃあいいんだ。
〔うぅぅぅ。オラの船に無断乗船しやがって。許さないっすぅ!〕
そう叫んだタコ男。範囲即死か?
慌てて奴から離れて待つことすぐ――。
倉庫の壁に空いた小さな穴から、がさごそと何かが這い出てきた。
「ふえぇぇっ。気持ち悪いぃ」
「いやぁぁん。気持ち悪いわぁ〜ん」
おまえがな。
そう思わずにはいられないめふぃすとの悲鳴。しかもかなりわざとらしい。
だが二人が叫ぶように、確かに気持ち悪い。
出てきたのは体長五十センチのフナ虫。
海岸で見たあれとデザインは同じだが、背中にフジツボを背負っている。
幸い、普通のフジツボっぽい。
そのフナムシが三十匹ぐらい、わさわさ出てきたんだ。男の俺だって鳥肌が立つわ。
で、一斉にあんまんに向かってかさかさやってくる。
で、あんまんの近くで戦っている俺たちの足元でもかさかさ。
「ぎゃあぁぁぁっ『雷神の鉄槌・トールハンマー』」
モグラ叩きならぬフナムシ叩きを炸裂した直後だった。
〔ひゅるっ〕
「即死か!」
慌てて逃げようとした俺の足元に、瀕死のフナムシが一匹……。
ぐちゃっという、生々しい音と共に、俺、すってんころりん。
え……嘘だろ。
こんなタイミングで?
まだ間に合う! 間に合うと信じて……でも無理ぃぃぃ!?
「のぉぉぉぉっ『ちゃぶ台返しっ』」
壁を立てて川の流れをせき止められればっ。いや、寧ろ上に立てば川に浸からないんじゃね?
「とうっ!」
ちゃぶ台の高さは二メートル強。
よじ登った瞬間、毒々しい川が石像の方からざざーっと流れてくる!
南無さん。頼む、俺の予想が当たってくれっ。
がさごそしていたフナムシ、蒸発。
あいつら何しに出てきたんだ?
川の流れが到着した瞬間、僅かにちゃぶ台が揺れたが、俺の視界はフルカラーのままっ。
や、やった!
や……あぁぁっ、やっぱダメなのかぁぁっ。
やり過ごせると思った瞬間に足場のちゃぶ台が崩壊しはじめる。
っく。こうなったら――。
「川に浸からなきゃ即死しない。それは分かった。だったら浸からないようにすればいい! とうっ」
ちゃぶ台が完全崩壊する直前、おれは天井に向かって羽ばたく。
これは、命がけの大ジャンプである。
〔ぷっ、ぷっぷぅーっ!!〕
こっそり・・・
ガクブル。
ガクブル。




