260:マジ、人生初のスカートをはいて天井を見つめる。
〔この船は誰にも渡さないっす! ようやくバルーンボ副船長が居なくなったというのに、渡してたまるかっすぅ!!〕
隠し階段を降りると直ぐ、ダンジョンボスの索敵に引っかかった。
ボス部屋は『部屋』というよりは倉庫のようにただ広いだけの空間で、壁際には酒樽のようなものが見える。転がってる物もあるな。
めふぃすとの言うように、ボスが立ってる後ろのように石像が見えた。
問題は……生理的に凝視したくないそのフォルムだ。
それは目前のボス然り。
「おい、あれは何が元ネタになってるんだ?」
「えぇっと……オクトパス?」
クラーケンは巨大イカの怪物で、オクトパスは巨大タコの怪物。
たしかにタコかもしれない。
ただ、タコな部分は足だけ。
上半身は人間だ。
マッチョで髭が濃く、だが頭はつるつるのピカピカ。
「なんでこんな濃いボスなんだよ!」
「あらん。ステキじゃない」
「「え?」」
シースターとほぼ同時にめふぃすとを見ると、あちらはあちらで筋肉あんまんを見てウィンクしていた。
あんまん、逃げてーっ!
「そういえば、あのボスの口調ってあんまん君に似ているね」
「生き別れの兄さんっすか!?」
セシリアの言葉にノリノリで返すあんまん。
ヘイトスキルでボスを向かせると、そのまま突進していく。
兄弟の涙の再会シーンか。
「兄さん!? 『シールドバッシュ』っすわぁぁっ」
「鬼のような弟だな」
タコ足をその大きな盾でどつき、斧で斬りつける。
絵面としてはかなりシュールだな。
あんまんの二回目のヘイトスキルが入ったところで、俺たちも攻撃に参加する。
ボスはアンデットではない。海の魔物……というか、海の魔物が船員と合体してる、みたいな?
まぁ水属性なら、雷が有効なんだろ。
だが雷の精霊は居ない。
次点で有効なのが風であるため、呼び出したのはシルフだ。
〔ひゅるる〜ん〕
シルフは飛んで行って、『エアカッター』のミニサイズのような攻撃でタコ足を斬りつけている。
通常攻撃も『エアカッター』そっくりだっていうね。
あ、そういやシルフのスキルをまだ作ってなかったな。まぁ『エアカッター』だけはデフォで使えるんだが。
「シルフ。お前、どんなスキルが欲しいか?」
〔ひゅる? ひゅるるぅ〕
3.5頭身キャラのシルフが腕を組んでうぅんっと唸る。
ダークエルフの集落がある森で見たシルフは、全裸の魅惑的な美女だったが……なんでうちのシルフはこうなんだろうな。
おっと。
精霊のスキル、今度こそ派手なエフェクトの攻撃スキルにしようと思ってたんだった。
「シルフ。スキルなんだがな、攻撃系にしたいんだ」
〔ひゅる!〕
「え? 良いのを思いついた?」
〔ひゅる〜。ひゅひゅひゅっぴゅ〜〕
攻撃にも防御にも使える、ステキスキル……だと?
「いいね!」
〔ひゅるる〜ん♪〕
さっそくスキルが作成され、IMPが勝手に減らされる。
が、思ったよりも多くない。減ったのは25か。まぁまぁだな。
「さっそく見せてくれっ」
〔ぴゅ〜ん〕
くるくるとシルフが回転すると、竜巻をさかさまにしたような小さいのが現れ……。
「こっち来る!? おい、狙う方向間違ってるだろっ」
〔ひゅる〜〕
大丈夫って、何がどう大丈夫なんだあぁぁぁっ――あ、あれ?
地面から一メートルちょっとぐらいしかない竜巻は、俺の体にフィットするように止まった。
「マジック君……スカートはい――」
「言うな! それ以上言わないでくれっ」
どう見ても渦巻くスカートです。本当にありがとうございました。
「って、何なんだよこのスカートは!」
「自分で認めてるっすわ、スカートって」
〔ひゅるるん〕
なに? 『焔のマント』の風バージョン?
バフスキルじゃなく、通常のアクティブスキル扱いなのか。
ほぉほぉ。
効果は六十秒で、一度に対象一人にしか使えないようだ。
だから消費IMPも抑えられてたわけだな。
「よし、シルフ。次はあんまんにやれ!」
「え? いや、特に必要じゃないっすから」
「いいや遠慮するな。一緒にスカートはこうぜ?」
〔ひゅる〜〕
何? CT六十秒?
つまり常時使えるが、一人限定……。
つまりスカートは俺だけ……。
〔ヒャァ〜ッハッハッハッハ。シネシネシネシネェ〕
「即し「笑ってんじゃねええっ!」
スカートの威力、思い知れっ。
タコ男の正面に立ち、ピッタリとくっついた瞬間……轟音がとどろき床が揺れる。
「ちょっとお馬鹿っ、何やってんのよ!」
「え?」
めふぃすとの声に驚いて振り返ると、全員何故か遠くに逃げてい――あ。
タコ男の背後から毒々しい紫色の何かが川のように流れてくると、その流れに飲まれた瞬間、俺の視界はモノクロ世界を映した。
【戦闘不能状態になりました】
【即時復活しますか?】
【はい / いいえ】
流れる川底から天井を見上げながら決意する。
我、常に冷静であれ――と。
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