259:マジ、モテモテ。
床に転がり、屈辱的ポーズで奴の攻撃が収まるのを待ちつつ俺はある事に思いついていた。
それを再度確認するためにも、あの攻撃が繰り出されるのを待つしかない。
だが奴のスキル攻撃頻度は高く、その中でも前衛に対して有効な攻撃がメインになっている。
一分もしないうちにくるくる攻撃の、今度は下段が発動。
〔のっ〕
「よっしゃ! 『ちゃぶ台返しっ』」
ボーノのスキルが始まる直前にノームのちゃぶ台が展開。
精霊はシステム側の自動行動だからなのか、俺たちプレイヤーには反応できないような速度で防御してくれる。
まったく使える奴だ。
で、ノームのちゃぶ台の手前に俺がちゃぶ台を立てる。これで防御壁は二枚だ。
ノームのちゃぶ台が崩れても、次は俺のちゃぶ台がボーノの足蹴りを防ぐ。
そして俺は目をしっかり開き、ボーノの攻撃を観察した。
奴は足を開き、コンパスのように片方を軸にして回転――しようとしている。
その回転はちゃぶ台に当たった足によって止まっているが、特に逆回転しようとか避けようとか、そういうのはまったくなさそうだ。
先に立ったちゃぶ台がミシミシと音を鳴らし――崩れた!
その瞬間、ものすごい勢いで二枚目のちゃぶ台に奴の足が衝突。で、また回転が止まる。
「よ、よし。次は――」
奴の回転は止められるという検証は終わった。
次はいよいよ攻撃だ。
奴の回転方向に合わせて背後に移動する。
そして……。
「うらぁっ『ファイア!』」
寒さは骨身に染みるだろ?
優しい俺様がホッカイロを貼ってやるぜ!
イメージしたのは燃え盛るホッカイロ。
それを奴の背骨に貼りつけ、念のためコンパスの径から離脱。
うん。振り返らない。
今でも必死にちゃぶ台を足で押し切ろうとしている。
これ、文字通り足止めしている間は、殴り放題なんじゃね?
その後、ボーノは諦めたのか、スキル発動時間の上限に達したのか、足を下ろしてあんまんに攻撃を再開。
「マジさん、今のはまさか!?」
「あぁ。どうやら奴のくるくる攻撃は、回転を止めてしまえばあとは攻撃し放題みたいだな」
「あらん。そんな攻略法があったなんて。そもそもあの攻撃、躱す事ばかりで、回転を止めようなんて普通思わないものねぇ」
ふ。俺って天才。
ただボーノのくるくる攻撃は止められても、他の攻撃の対処方法までは見つかっていない。
油断は禁物。されどチャンスは最大限に生かせ。
ノームがちゃぶ台を出したらそれが合図だとばかりにあんまんとセシリアが俺の後ろに。
そして二枚目を設置したら三人でタコ殴り。後衛三人も容赦なく連続攻撃を仕掛けていく。
更にノームが優秀であることをアピールするかのように、奴がジャンプした際には『ロック』をぶつけて着地地点をずらすという離れ業まで披露した。
ノーム……こいつ……すげぇー。
そこそこ苦戦しつつもボーノを倒し終えた俺は、念願のお宝ゲットだぜ!
くふぅ〜。レジェンドは無かったが、ここに来て初めてのレアドロだ。
「よかったね、マジック君」
「あぁ。スキルを作った甲斐がったってもんだぜ」
「え……マジック君、死んでなかったような?」
「うん、死んでないね」
「この子、顔はいいのにいろいろ残念ねん」
「あらぁ、残念な子って、それはそれで可愛いいじゃない〜」
「マジさんモテモテで羨ましいっす」
これはモテていると言えるのか?
「降りる前に説明しておくわねん。ここのボスには即死攻撃があるのん」
あるのか……。
ボーノを倒すと、その奥にあった隠し階段的な物が現れる。
その階段を降りるとすぐにボス部屋だとめふぃすとが説明。
情報が出るまで、知らずにそのまま降りて行った先人パーティーが何組全滅したことか――と。
「最期のボスだけはアンデットじゃないのん。海に住む魔物っていう設定らしくてねん、船に憑りついて沈没させた張本人よ」
波に揉まれたとか、渦に巻き込まれたとか、そういうオチじゃなかったのか。
「即死攻撃のパターンは三つよん。ただそのうち一つは、ボスのHPが30%まで減ってからしか発動しないからん」
最初から使ってくる即死攻撃は二つ。
一つはボスの正面、直線上に部屋の端まで効果範囲のある攻撃。
「ボスが最初に立ってた場所の後ろにね、ボスそっくりの石像があるわん。余裕があればそれを見てて欲しいんだけどん、まぁそれは後衛のアタシたちの方が適任かしらねん」
「石像? それがどうしたんだ?」
「石像の目が光るのよ。そしたら直線型の即死ね。横幅は二メートルぐらいだから」
二メートルぐらいと言われても……じゃあ――。
「あ、ボスの背後に回ってもダメよん。攻撃のスタート地点がそもそも、その石像だからん」
「っち。ダメなのか」
他にもボスを中心に半径五メートル以内への即死攻撃が。
そしてHP30%を切ってからは、ボス部屋を三分割にした範囲で即死攻撃……と。
「それ、どうやって躱すんです?」
「ふふふ。良い質問ねワンちゃん」
「ワ……」
ワンちゃんと言われてシースターの奴、唇尖らせて拗ねてやがる。
いいじゃないか、ワンちゃんぐらい。
こっちは残念呼ばわりなんだぜ。
「即死直前に光る石像の目に合わせてるのよん。左目を閉じてのウィンクなら、光ってる右目側。つまり部屋の右側に即死攻撃が。両目が光ってるときは真ん中ね」
なるほど。右目を閉じ、左目が光ってるなら左側に即死が来るのか。
確かに石像の目なんて、前衛だとボスが視界を邪魔して見えないかもな。
〔ぷっぷぅ〕
「お、そうか。飛んでるお前なら石像も見えるのか」
〔ぷぷぅ〜〕
じゃあぷぅに石像を見て貰うか。
よし、即死の回避方法は分かった。
「あと三分毎に雑魚を召喚するわん。でもこの雑魚、ボスの即死攻撃の対象にもなってるから、タイミングによっては無視しちゃっていいわん。むしだけに。ぶぉっほっほ」
……なんか一人でツボってるな。
放っておこう。
あとは――。
「じゃあバフはここで駆けなおして降りるわよん」
可能な限りのバフを掛けなおし、ノームからシルフに精霊をチェンジしていざ、階段を降りる!
お読み頂きありがとうございます。
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また、新作VRMMO『レッツ錬成♪』不遇職と呼ばれたアルケミストでゆく、楽しいVRゲームライフ。
もよろしくお願いします。
こちらは珍しく女主人公物となっております。可愛いアピールしつつ、やっぱりどこか斜め上な子です。
そんなのしか書けないんだから仕方がない!




