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258/268

258:マジ、ノーム出来る子。

 ボーノに即死攻撃は無い。

 その代わり、やたらスキル攻撃のレパートリーが多く、頻度も高い。

 バレエのように足を上げ、くるくる回転する攻撃は、上段と下段の二パターン。

 奴の背後でチクチクやってれば、突然仰け反ってビンタ攻撃。

 中距離、遠距離でも油断が出来ない。つま先立ちジャンプからのキック技が飛んでくるからだ。

 しかも、元の位置にやっぱりつま先ジャンプで戻って来ると、ここでもキックが……。

 そしてつま先立ちで小刻みに左右へと移動すると、まさかのプチ範囲地震攻撃。


 そのどれもが、一撃食らえばHPを四割前後持って行かれるという、恐ろしい技だ。

『カッチカチ』を掛けても三割超え……恐ろしい。

 あんまんやセシリアは元々の防御が高い分、俺よりはだいぶマシだが。それでもくるくる回転を連続で全弾食らってれば死ぬかもしれない。


「おれ……後ろに引っ込んでいいか?」

「マジック君。君は前衛だろうっ。情けないぞっ」

「ぐぅ。でもほら、死んだら元も子もないだろ?」

「あら、マジックさん。蘇生スキル作ったんじゃないの?」


 ……ん?

 そうだった!

 ここで使わずしてどうするっ。そうだよ。蘇生予約あるじゃん。

 これで心おきなく死ねるぜ!


 ……何か違う気がしたが、気にしたら負け、か。


「ではお見せしよう! 俺の新スキル!! 『死してお宝拾うものなし。故に生き返る!』」


 右手が白く輝き、やがてその光は俺のイメージ通りに収束して形を成す。

 蘇生――そこからイメージしようにも何も思い浮かばなかった。なので逆の発想で――。


「マジック君……それはお札なの? まさかオデコに貼るんじゃあ……」

「死してお宝って……欲望丸出しのスキル名だね」

「よっぽどさっきドロップを拾えなかったのがショックだったのねん」

「すまんっす。俺がタンクやってんのに、マジさん死なせてすまんっす」

「あれはねぇ〜。マジックさんが自爆しただけですものぉ」


 っく。みんな好き勝手いいやがって。

 あぁそうだよ。でこに貼るんだよ!

 あぁそうさ。欲望丸出しさ。だってドロップ欲しいじゃんか。

 あぁそうさ。ショックだったさ!

 いや、あんまんのせいじゃないから。

 うん、俺が自爆しただけですそうです。とほほ。


 ぺたりと貼った札は直ぐに消え、視界の端にタイマーが浮かび上がる。

 スキルの効果時間か。

 0:00になるまでなら死んでもいい。

 いや訂正。死なないで済むならその方がいい。


 とにかく防御優先だな。

 そうなると……。


「サラマンダー。悪いがノームとチェンジだ」

〔ぼ!? ぼ、ぼぼぼぼ「ノームさんや」のっ!〕


 何かを必死に訴えるサラマンダーから、元気いっぱいのノームに召喚しなおす。

 よっぽど外に出ていたかったのか、サラマンダーのやつ。今度思いっきり遊ばせてやろう。


「ノームさんや。奴はスキル攻撃が多い。それを食らったらめちゃくちゃ痛いから、ちゃぶ台を頼むな」

〔のっっす!〕

「じゃあ私はマジック君の隣で戦うね」

「お前、ちゃっかりノームのちゃぶ台の恩恵にあずかろうってのか」

「当たり前だ! ね、ノーくん」

〔のっ――のむぅ〜〕


 ノ、ノーくん!?

 セシリアめ。俺のノームになんて馴れ馴れしいんだ。

 しかもノームのやつ、鼻の下伸ばしてデレデレしてやがるし!

 女なのか!

 やっぱり女がいいのかっ。


「ほらちょっと! よそ見してんじゃないわよんっ」

「は?」


 野太いオネエ言葉が聞こえたかと思うと、背後で何かがぶつかり合う轟音が響いた。

 振り向いて見えたのは、視界を遮る土の壁。


〔ののっ〕

「さすがノーくん!」

「なっ。お、お前って奴は……」


 気づかないうちにちゃぶ台を出して俺を……俺を守ってくれたのか!?

 っく。俺はなんて馬鹿だったんだ。

 俺より女の方がいいなんて思ったりして。

 ノーム、すまな――


「ぶへっ」

「だからあーた! 連続攻撃なんだから、壁の耐久度が無くなったら消えるに決まってるでしょん!」

〔のー……〕


 地面に突っ伏したまま、上段くるくる蹴りが終わるのを、屈辱的ポーズで待つ俺であった。

マジック君転がり過ぎ(転がせすぎ)と最近反省気味。

でも即死攻撃のあるボス戦で、パターンを口頭説明されても初見から

全回避できるプレイヤーなんて、実際のMMOだってそうそう居ない・・・はず。

マジック君はVR慣れしているように見えて、実は2タイトル目で期間もそれほど長くありません。

という事で、生暖かく彼の成長を(するのか!?)お見守りください。

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