256:マジ、破壊神話。
「『起きなさい、私の可愛いぼ・う・や♪』」
横たわる俺を温かい光が包み込む。そして俺の目には紅茶さんが女神に見えた。
ここまでがスキル効果なようだ。
スキル名ってほんと、個性豊かだよなぁ。
俺なんて王道ファンタジーを突き進んでるし、個性薄すぎるよな。今度スキル作る時には、ちょっと奇抜なネタを入れてみよう。
そう考えながら、俺、復活!
「ふぅ。紅茶さんが蘇生スキル持ちで助かったぜ」
「んふふ。お礼を言いなさい」
「あ、はい。どうもありがと――はぐっ」
立ち上がって頭を下げようとした俺の視線の先に、ダイナマイトボディな紅茶さんの胸の谷間がくっきりと!
み、見ちゃダメだ。見ちゃダメなんだっ。
そう言い聞かせようとしても、俺の目は勝手に谷間を捉えて離さない。
「いいのよぉ、見るだけならいくらでも見ちゃってぇ」
「い、いや、そういう訳には――」
といいつつ、目線がががが。
「いやぁねぇ、これだから男って」
「ん? めふぃすとちゃんも男なのでは?」
「んまっ。セシリアちゃん、酷いわっ」
「ふえぇっ」
あっちはあっちで漫才コントをやっているようだ。あの二人の会話を聞いたら、ちょっと理性が戻って来たよ。
それにしてもセシリアのやつ、いつから「めふぃすとちゃん」なんて呼び方に。
「んふふ。でもマジックくん。君も聖属性魔法を使えるんだし、蘇生魔法ならINTも関係ないから持っておいた方がいいわよ」
「はぁ」
「前衛だけど、回避も防御も低いでしょ? いざという時、用意しておいたほうがいいと思うわ」
「でも、俺が転がるの前提で蘇生っておかしくないか? だって死んだらスキル使えないんだし」
そう思ったが、紅茶さんが言う用意するべき蘇生は死んだ者に使うスキルではなく――。
「事前にスキルを掛けて、効果時間内に戦闘不能になったら発動するっていう予約蘇生の事よ。私が以前プレイしていたゲームにあったのよ」
「あぁ、そういうスキル、このゲームでも作ってる人いるらしいよ。ぼくが見たのは掲示板情報だけど」
シースターの話だと、スキル発動から効果時間が長い物ほど消費IMPもでかくなるらしい。他にも蘇生後、HPの状態によってもIMPの消費が上下するようだ。
つまり、スキルの効果時間が五分のタイプと十分のタイプなら、後者のほうがIMPが多くなり、復活後のHPが1の場合とMAXの場合だと、当然後者がIMPを多く必要とする。
なるほど。倒れる前に蘇生予約しておくのか。
雑魚戦ではそうそう必要ないが、ボス戦だったりモンハウに突っ込むのが事前に分かっている時なんかにはいいな。
まぁHPの方は自前のヒールでどうにでもなる。ポーションも飲めるしな。
それなら効果時間が長くてHP1復活ならいいんじゃないかな。
そしてスキル名。なんか奇抜なアイデアはないものか。
どこかにヒントは……と仲間たちに視線を送ると、倒し終えたボスドロに一喜一憂しているシーンだった。
俺……死んでいたからドロップ入ってねえし。
よし。スキル名――『死してお宝拾うものなし。故に生き返る!』にしよう。そうしよう。
効果時間は十二分。復活後のHPは1。
時間については悩んだ。五分にすれば消費IMPは30と少ないが、正直ボス戦は十分近く掛かる。それ以上の場合もあるからな。
だからってニ十分にすると消費IMPは100……多すぎ。
で、この効果なら消費IMPは50だ。
他にも時間十五分で復活後のHPを50%に設定すると、消費IMPは80と大きく膨れ上がり、MAXだと150に。
完全ヒーラー型でも、なかなかでかい出費だな。
くっくっく。次のボス戦前ではちゃんと使うぞ。
船内の二層目。地下二階とでもいうのか?
配置されているモンスターのレベルは、上の階より一つ上がって37。
ソロだとかなりヤバい所だな。
しかしそこはこれ。
「『かかってこいやぁぁっ!』」
VIT特化の筋肉あんまんが敵をかき集め、集まった所に紅茶さんが退魔術を展開。
倒し損ねた奴をセシリアとシースターが競うようにして止めを刺していく。
必然的に俺とめふぃすとの出番が少なくなってしまう。
だって仕方ないよな。紅茶さんの魔法のあとに、さぁ止めだ! と思ってモンスターの前に出ようとする前に、後ろから矢がぷすっと飛んでくるんだぜ。
前に陣取ってても、さぁスキルを使うぜ! ってタイミングでセシリアが剣を一振りして終わるんだぜ。
悔しいから鷲掴みしようと思ったんだが、相手がなぁ……。
〔ぶぉえぇぇ〕
「ゾンビの顔面は触りたくない。いや顔面に限らず触りたくない」
「触りたくないってあんた、触らなきゃ攻撃できないでしょん?」
「まぁそうなんだけどさ。でもゾンビは嫌だ」
このゲームはなぁ、触感はリアルに再現されてんだぜ。
絶対ぐちゃっとねちゃっとべちゃっとするに決まっている。
殲滅をほとんど紅茶さんに任せ、俺はMPを温存する事にしよう。
……だがしかし、暇だ。
たまに筋肉あんまんに『カッチカチ』を掛けて支援はしている。だが支援に徹するというスタイルが、どうにも俺には合わない。
暴れたい。
暴れたいんだあぁぁぁっ!
と、壁に張り付いた三葉虫のようなモンスターが目に入る。
テニスのラケットサイズのその体に、ピンポン玉サイズの目玉が付いた奴なんだが……。
「その長い睫毛がムカつくんだよっピコハン『サンダー!』」
孫の手毬栗よりも、気分的にはピコハンだな。
形状変化もさまになってきたようで、最近では瞬時にイメージ通りの形に出来るようになった。
ただこの形状変化も、使い慣れたスキルほどうまく形を変えられるというのも最近分かった。
その放電するピコハンで三葉虫を叩き潰すと、更なる三葉虫が目に入る。
その数、三匹。
「うらぁぁぁぁ『雷神の鉄槌・トォォルハンマァァッ』」
全力で壁に巨大ピコハンを叩きつけると、一瞬にして三匹の三葉虫が蒸発する。
それと同時に、ミシ、ミシっという嫌ぁぁ〜な音が……。
「ちょっとあんた!? 壁なんか破壊して、どうするつもりなのよっ」
「マジック……君って奴は……」
「大丈夫だみんなっ。いつものことだから」
「あぁ、またやったっすねマジさん」
「ま、またとはなんだ、またとは!? 俺がいつどこで何を破壊したっ」
まったく聞き捨てならないセリフを言いやがって。
「俺とマジさんが初めてパーティー組んだ時。海賊ダンジョンの正面入り口を、パンチで破壊したじゃないっすか」
……あれ?
お読みいただきありがとうございます。
『死してお宝』効果、若干調整。
効果時間15分から12分へ、
消費IMP増量。
新作VR物、投下致しました。
そちらもよろしくして頂ければ幸いです。




