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253:マジ、出番なし。

「さすが幽霊船。ボロッボロだな」

「そうよ。ほら、あそこに階段があるでしょ。あれで上るのよ」


 めふぃすとが指さす先には、確かに階段があった。こっちもボロいな。

 そのボロ階段を上るプレイヤーの多い事。

 大丈夫か? 底が抜けたりしないか?

 と、なんとも心配になる。


「甲板の上までは普通のMMOフィールドになってるの。入口にワープホールみたいなのがあって、その先はMOよ」


 階段で甲板を上ると、そこには商魂たくましいプレイヤー露店がいくつかあった。

 だがよく見ると、スケルトンと戦っている連中も。


「ここってセーフティーじゃないのか?」

「そうよん。だから休憩中の周回プレイヤーなんかが、露店を守るために湧いたモンスターを倒してるの。ここでは横殴りとか、そういうの気にせず、目に付いたら倒す、でいいの」

「買取露店もあるようだね。町や村に戻ってアイテム整理をするより、現地でそれらが出来る方が時間の節約にもなるし、生産者側も欲しいものが直接買えてウィンウィンってことか」


 シースターは生産者らしい視点で見てるんだな。

 俺なら「ポーション買えてラッキー」ぐらいにしか見てないけど。


 だが準備が整った状態ではまだ露店に用はない。

 ダンジョン入口であるワープホールは船室に入るための扉の所にあるのか。


「中に入っても、ここは何も無いわ。下に降りるための階段だけよん。降りると直ぐに戦闘だから、中に入ってバフるわねん」

「めふぃすと、バフスキル持ってるのか?」

「えぇ。MPの自然回復量を増やすスキルと、移動速度を少しだけ上げるスキルを持ってるのん」


 魔法職の癖に、なんて良いもの持ってんだ。

 俺も前衛の防御力上げに『カッチカチ』をあんまんに掛けておくか。


「私は前衛に聖属性付与と、不死からのダメージ軽減バフを掛けていくわね。マジックさんは付与必要かしら?」

「聖属性? いや、俺は特に……」


 何故必要だと思ったのだろうか。

 俺は魔法職だぜ。直接殴る訳じゃないんだ、必要ないって。


 ざっと事前の打ち合わせをして筋肉あんまんを先頭にワープホールへと突入!

 一瞬視界が真っ暗になった後、さっきとは全く別の空間に出た。


 ぼろっぼろの木造船。あちこち穴も開いてるし、何より薄暗い。

 よく見ると壁や天井にはフジツボが付着、ヒトデや魚の骨も落ちていた。

 あの骨で骨粉作れるかな?


「じゃあ俺が先頭で」

「お、ちょい待ってくれ。『カッチカチ』。オケ」


 盾型バリアであんまんを強化。

 彼を先頭に階段を降りると、めふぃすとの言った通り、階下にはモンスターが四匹待ち構えていた。


「『かかってこいやぁぁっ!』」


 ヘイトスキル……人によってマジいろいろだな。

 ただ共通するのは、挑発するようなセリフってことか。


 待ち受けていたモンスターはスケルトン。

 けど、頭には髑髏マークの頭巾を被っているし、手に持つ武器はシミター系の曲刀と海賊っぽいいで立ちだ。


【彷徨う海賊の骨:LV36】


「モンスター名が骨って……なんか同情するな」

「でも骨で間違ってないと思うぞ、マジック君」


 まぁそうなんだけどな。

 カタカタと骨を鳴らして筋肉あんまんを取り囲む骨。

 あんまん、レベルは骨と同じ36だし、VIT型なのでこの数は余裕で耐えてるな。


「『悪霊退散っ』」


 真っ先に仕掛けたのは紅茶さんだ。

 けど……死霊ゴーストじゃなくって、スケルトンなんですけど――というツッコミはダメか?

 しかしさすが退魔師と自称するだけの事はある。

 今の聖属性攻撃で四体の骨のHPがレッドゾーンだ。


 セシリアの一振りで一体が倒れ、シースターの一矢でまた一体。


「『恋の火花』」


 おい、なんだそのスキル名は……。

 めふぃすとが放った炎球は線香花火のようにバチバチと火花をまき散らしながら骨の目前で破裂し、まるで散弾銃のように四方へと飛び散る。で、残り二体が倒れた。


 あれ?

 俺、何もしてなくね?

 え、えぇっと――。


「あんまん、バリア掛けなおすな。『カッチカチ』」

「バリアありっすわ」






 ゴーストシップ内に登場するモンスターは骨だけじゃなかった。

 やたら歯の鋭い魚の――骨。

 あと肉付きだが、見た目が怖い深海魚のような魚。ただし体が透けていて骨が見える。あと宙を泳いでる。

 一番恐ろしかったのは、でかいフジツボ。

 いやフジツボだと思いきや、中から出てきたのは人の手だ。

 なまっちろい、にゅ〜っと伸びてくる手に触れられるとMPを吸い取られるって……怖ぇーよ!


 深海魚以外は不死属性なので、聖属性か火属性が有効。深海魚は俺がサクっと毬栗『サンダー』で撲殺して終了だ。

 出会う敵出会う敵、その場で対処してるってのもあるんだろうけど、意外と余裕だな。


 中ボス部屋まであと少しという所でめふぃすとが「タゲ切り場所を教えてあげるわん」と、堀の深い髭面でウィンクしながら言う。

 定位置でじっとしているモンスター三匹を筋肉あんまんが引っ張り、めふぃすとが案内する場所まで全員で移動。

 扉の無い小さな小部屋にめふぃすとが入っていくと、中に置かれた妙な像によじ登りはじめた。


「タンスや積み上げられた丸太に上ってちょうだい」


 めふぃすとの指示に従って、俺たちもその辺にある背の高い物に上って行く。

 この時点では、まだモンスターどもはあんまんに攻撃しようとカタカタ骨を鳴らしていた。

 俺とセシリア、紅茶さんが積み上げられた丸太の上に。筋肉あんまんとシースターがタンスに上る。


〔カタタタタタ〕

「なかなかタゲ切れないな」

「筋肉くん、もうちょっとタンスの中央に立ってごらんなさい」

「うぃっす」


 あんまんが狭いタンスの上をごそごそと移動するが、直下のモンスターどもは動こうとしない。

 ん? もしかして筋肉あんまんじゃなく……。

 よく見ると、シースターのふさふさ尻尾がタンスから落ちているじゃん。


「シースター。お前の尻尾、タンスの上にしっかり乗せてみろよ」

「え? ぼくの尻尾が狙われてる?」


 シースターが慌てて尻尾を抱きかかえると、足元のスケルトン軍団の動きが止まる。そして物凄い速度で踵を返して部屋から出て行った。


「あらん、尻尾だったのねん」

「尻尾にも判定があったなんて……」

「獣人は要注意っすな」


 スケルトンが居なくなって、全員床へと戻る。

 そぉっと部屋から顔を出して通路を確認すると、さっきのスケルトンたちは元の位置でじぃーっと立っていた。


「経験値よりもボスドロ目的なら、確かにこっちの方が周回が早くなるな」

「そうよん。でもアタシは経験値も欲しいかしら」

「うん。経験値欲しい」


 ボスドロップは欲しい。だが経験値も欲しい。

 みんな同じ意見のようだ。

 今回は初回ってことでその都度倒して進んだが、数セットまとめて範囲殲滅ってのでもよさそうだ。

 俺の『シャイニング』と紅茶さんの聖属性範囲があれば、十体ぐらい余裕だ。

 どちらかというと筋肉あんまんがどのくらい耐えれるかが重要なんだろう。


 ま、次の周回の時に考えるか。

 今は――。

 目の前のボスに集中!

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