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247:マジ、白亜紀にタイムスリップする。

 ペットモンスターは一匹しか飼う事が出来ない。

 つまり、他のモンスターをペットにしたければ、既に飼っているペットを意図的に逃がすしかない――のだが。


「卵の状態やと逃がす事もできんやん〜」

「でも夢乃さん。それ、ボスモンスターの卵ですよ? 良い効果のバフスキルが使えるかもしれませんし」

「でもアレがぁ、アレがぁ」


 シースターに宥められるも、アレアレと連呼して収集が付かない。

 いいじゃねえか。アレが少しぐらいでかくたって。

 そんな狸を連れている夢乃さんを想像すると、ちょっと笑えた。


「彗星君。光っとるけんね。笑ってるの、丸分かりやけんね!」

「……ま、まぁ、孵化してから逃がせばいいじゃないですか。そん時にはまた手伝いますから」


 平常心を装ってそう言う。


「約束やけんね!」


 そう言いながら彼女は、黄金色の孵化器を……?


「夢乃さん、それ、なんっすか?」

「高速孵化器。1500AQ」

「せんごひゃ!? 課金アイテムかよ!」


 いやあんたさっきも課金卵投げてたじゃん。500AQだったか?

 四個ぐらい投げてたよな?


 ペットに幾らつぎ込んでるんだよ、この人は。


 



 狸騒動もひと段落し、ようやく六階へと到着した俺たちの前には広大な大地が広がっていた。


「なぁ……ダンジョン……だよな?」

「マジック君! 天井が無いぞっ」

「うわぁぁ……六階そのものがフィールドエリアみたいな構造になってるんだねぇ。あ、向こうに火山があるよ」


 話には聞いていたけどさぁ。実際にこれを見ると、やっぱ驚かずにはいられない。


 セシリアの言うように天井は――無い。寧ろ空がある。ただし青空ではなく、なんとなくどす黒い雲に覆われた空だ。

 そしてこれまでのダンジョンにあった『壁』もない。

 代わりに見えるのはジャングルと火山。


 俺たちが今いるのは岩山。後ろにはぽっかりと空いた穴があるが、その穴が五階へと続く階段の入口になっている。

 高い所にあるので、辺りが見渡せるのはいいんだが――見る限り、白亜期とかジュラ期って言うのか? 景色は恐竜が生きていた時代そのものなんだが。


「いるよね、これは」

「いるだろ」

「いるね!」

「はぁ……」


 一人だけテンション下げ下げなんですが……。


 まずは岩山を降りて、辺りの探索を開始する。

 岩山の下は草木が生い茂ったジャングルだが、生えてるのがシダ系の、しかもかなり大きなヤツだ。

 恐竜映画で見るような、そんな感じ。


「どこから恐竜が出てくるのか、全然分からないね」

「マジック君。ここは火属性モンスターが多いとひつじさんが言っていたぞ」

「羊さんって、誰だよ」

「えっと、ログインロビーの――」

「それ執事だろ!」


 というツッコミをしながら、サラマンダーからウンディーネにチェンジ。

 サラマンダーが一瞬、首を左右に振るのが見えて罪悪感を抱くが仕方がない。すべては効率のためだ!


〔ぷくぅ〜〕

「よろしくな、ウンディーネさん。ついでにバフっといてくれるか?」

〔ぷくぅ〜♪〕


 うん。ウンディーネさんはお淑やかなお嬢様タイプで助かるぜ。

 ただ通常攻撃のスタイルがアレなんだが。


〔ぷぷぷぅ〜〕


 ぱたぱたと頭上を飛ぶぷぅが、モンスターの接近を知らせてくれる。と同時に近くの草が揺れた。

 ど、どきどきする。

 恐竜だぞ? 俺たちはこれから、恐竜と戦わなきゃならないんだっ。

 負ければ食われ――。


〔オゥ〕


 茂みから出てきたのは、爬虫類の顔。

 どうみても大トカゲじゃね?

 サイズもそんなにデカクなくね?

 これならさっきの狸のアレの方が……。


 がさごそと更に茂みから出てきたそいつは、首の長いブラキオサウルスのミニチュアみたいな奴だった。

 草食恐竜だし、大人しい奴だろう。


 ――と、勝手に思い込んだのがマズかった。


〔オォォォゥゥゥ〕

「きゃあぁぁっ」


 体長は一メートルほどのブラキオサウルスが突然走り出し、セシリアに向かって体当たりを仕掛けてきた。

 がさごそと更に茂みから別の恐竜が現れる。

 今度は長い角を持った――えぇっとアレは――。


「トリケラトプス来た!」

「ふえぇぇぇっ。アクティブだよぉ」


 そう。アクティブなのだ。

 草食だとか関係ない。

 こいつらは恐竜であって恐竜ではないのだ!


 そう。

 モンスターなのだ!


〔オォゥッ〕

〔クオォォォ〕


 シースターのお目当てはトリケラトプス。

 ならブラキオサウルスの方は倒すかっ。


「セシリア、トリケラだけ残して別の奴は倒せっ」

「う、うんっ。たぁっ」

「追加のキリン君来たばい」


 キリン君? もしかしてブラキオサウルスの事か?

 振り返ると案の定、ブラキオサウルスが二体、来ていた。


「わあぁぁぁぁ。T−REXだよっ。T−REXが出たぁ」

「ふえぇぇ。いっぱい来過ぎぃ」


 T−REX。ティラノサウルスか。

 うん、これまた小さいな。というかブラキオサウルスが実際はこの中じゃ一番デカいはずなんだが、どれもほぼ同じサイズだ。

 ティラノの迫力もまったくない。

 まぁ見た目は実物の恐竜とは程遠く、ちょっと可愛くデフォルメされてるしな。


 さて……囲まれたぞ。

 どうしよう?


「シースター、とにかく早くトリケラをゲットするんだっ」

「うん。もうゲットしてるよ」

「「え?」」


 俺と夢乃さんが同時に声を上げシースターを見つめる。

 彼の手にはしっかりと、白い卵が握られていた。

 い、いつのまに……。


「それ、ノーマルな卵だよな?」

「うん。モンスター研究家から買った卵、一週間熟成物」

「一発で?」

「うん。一発で」


 横で夢乃さんが泣いている。

 課金卵。一個500AQ。つまり五百円。これを四個使って、目的のモンスターと微妙に違うやつをゲットしている。


 金で解決できない事もいろいろあるってことだな。

お読み頂きありがとうございます。


作者は子供のころから恐竜が大好きでした。

某映画を見て、どうしてこ書きたくなった恐竜ペットネタ。

でもマジックにはぷぅがいるし、逃がせばマジックのゲーム人生オワタだし。

テイマーでゲットという手もあったけど、これ以上画面がゴチャゴチャするのはアレなので

自粛しました。

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