表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
246/268

246:マジ、でかぃ。

「デケェ……」

「うん……大きいね」


 五階の最深部までやってきた俺たちは、ボス部屋入口でこう感想を漏らした。

 この部屋の先に、六階へと続く階段がチラっと見えている。

 つまり、奴を倒さなければ階段には降りれないって訳だ。


 それにしても――。


「デケェ……」

「うん……大きいね」

「あぁ、デケェ玉ぶく「そこから先はダメぇぇっ」あ、はい」


 仁王立ちしているボスモンスターは、たぬき。

 全長三メートルほどの、二本足で立つたぬきだ。

 そしてデカい。

 アレが。


「夢乃さん、大きいアレの後ろに小さいたぬきが居る」

「セシリアちゃんまで大きいって――え、小さいたぬき?」


 セシリアが言う大きいアレってのは、大きいたぬきっていう意味なんだろうが……このタイミングで「アレ」呼ばわりするもんだから夢乃さんが勘違いしている。

 その大きいアレの後ろに見える階段のすぐ脇には、腹太鼓をぽんぽこしながら楽しそうに踊る普通サイズのたぬきが数匹見えた。


「夢乃さん。セシリアのウミャーの件だってあるし、大きいアレもゲットできるんじゃないですかね?」

「嫌! 絶対アレは嫌やけんっ!」


 嫌々と、デカぃアレ……まさしくアレ! を指差しながら夢乃さんが叫ぶ。


「じゃあボスを先に倒して普通のたぬきをゲットしに行こうか」


 そうシースターが言って戦闘準備を始めた。

 なんか星型のクッキーを取り出したぞ。


「あ、これね。DEXを上げるクッキーなんだよ」

「あぁ、料理技能のか。シースター取ったのか? 料理技能」

「ザグから買ったんだ」


 あぁ……なるほど。

 白髪ダンディドワーフがふりふりエプロン付けて、星型のクッキー作ってるんだな。

 きめぇ。

 そのクッキーを夢乃さんにも渡し、二人の火力が底上げされる。


 で、念には念を押して、遠距離からボスだけを攻撃して釣ることにした。

 シースターが生贄だ。


 一本の矢がでかぃアレにぶっ刺さる。


「えげつねぇ所狙ったな」

「痛いよね、絶対」


 などと言いつつ、のっしのっしとやってくるでかぃのに備えていると……。


「ふえぇぇ、小さいのも来たよぉ」

「え? うげっ、マジだ」


 のっしのっしと二本足で歩いてくるボス狸の足元を、てってけて〜と走ってくる雑魚狸の姿が!

 あ、結構可愛えぇ。


「ってそうじゃなくって!」

「たぁっ!!」


 セシリアが気合が入ってるのか入ってないのか、ちょっと微妙な掛け声とともにでかぃ方に斬りかかる。

 一撃ではヘイトを奪えず、すぐさま『スラッシュ』を使ってタゲ確保。

 小さいほうは……。


「シースター君、そのまま。そのままぁ〜」

「無理ぃぃぃ」


 狸に追いかけられ逃げ惑うシースター。その狸の後ろを追いかける夢乃さん。一人でかぃアレと対峙しつつ、時折視線をそらしているセシリア。

 何、このカオス……。


 俺はどっちに付くべきか。

 セシリア一人で奴を倒せるか? いや無理だろ。

 じゃあ夢乃さんがたぬきをゲットするまで、シースターには生贄になって貰うか?

 それも無理だろう。既にHPが半分近く減ってるし。


「『ヒール』大丈夫かシース……あぁあぁぁぁっ!」

「マジック、ありがとうっ」

「しまったぁぁぁっ」


 この瞬間、小さい方のアレ――狸五匹が俺に向かってきた。

 つまり、ヒールヘイトが発動して俺に怒りの矛先を向けてきた――と。


「ぬわぁぁぁっ! 『焔のマ――「だめぇぇぇっ。止め刺しちゃあダメぇぇ」ぐぬっ」


 まさか俺が生贄にされるとは!?

 けどあっちは大丈夫か?

 見るとセシリアが自前のゴミヒールで耐えようとしている。

 無理だってば……。


「セシリアちゃん、地属性耐性の装備とか持ってない?」

「ふえぇ。何それぇ?」

「えっと……あぁん、たぬたん動かなんでぇ。卵投げられんけん」


 地属性耐性……そうか。でか狸は地属性なのか。じゃあこいつらも?


「夢乃さん、鑑定でこいつらの属性確認してくれ。全部地か?」

「たぶんね――『鑑定』――うん、ボス含め地属性ばい」


 なら――「サラマンダー! バフ頼むっ」

〔ぼっ〕


 召喚して早々、舌打ちですか!


「いいから頼むよっ。お前のバフが無いと、俺たち今回はマジでやばいんだって!」

〔ぼっぼぼ〕


 そこまで言うなら〜って、もじもじしながらこっち見んな!


〔ぼっぼおぉぉぉぉっ〕


 ガッツポーズのサラマンダー。一瞬膨れ上がったと思ったら、赤い火の粉のようなものを振り撒きはじめた。

 その火の粉を浴びると、俺の体に火属性が付与された。

 これで地属性攻撃の耐性が付いたぜ!


「ありがとう、サラマンダーちゃんっ」


 でかぃ方と戦闘中だったセシリアからお礼を言われると、サラマンダーは再び膨らんで鼻を鳴らす。

 そういやこいつ、通常攻撃が火のブレスだったな。


「サラマンダー。俺の代わりにあっちで戦っててくれ。セシリアを助け――あぁ、もう行ったのね」


 ぼっぼ言いながらサラマンダーはセシリアの横に並んで戦闘を開始している。

 なんだろう……召喚主放置で女に懐く精霊って……。

 さ、寂しくなんかないからな!


「じゃあ、ちゃちゃっとゲットしちゃおう!」

「お願いしゃっす……痛ぇ」


 こうして俺は、夢乃さんが狸のゲットに成功するまで、こいつらの太い尻尾を尻に食らいながら耐える事に。

『カッチカチ』で少しでも耐えようと努力する。


「行くばい!」

「はよ!」


 夢乃さんが握りしめているのは、黄金に輝く卵だ。

 あれ、課金卵だよな……。


 で――。


「うわぁん、失敗ぃ。次!」

「『ファイア』ソード!!」


 一度失敗した狸は二度とゲットできない。だったら速攻で倒すのみ!


「えぃ」

「『ファイア』ソード!」

「次ぃ〜とうっ」

「『ファイア』ソード!! って、それ課金の卵だろっ。なんで三連続で失敗してんだよ!」


 倒した狸は、まさかの即リポップ!

 数が減らない!

 俺のHPが減っていく!!


「うぅん。やっぱり少しHP減らしてからのほうがいいんやろか?」


 瀕死状態のほうが確率高くなかったか?

 だったらこうだっ!


「必殺文具っ『エアカッター』」


 火属性攻撃だと一撃で仕留めてしまう。『サンダー』はスキルレベルが高いので、手持ちの初期スキル内じゃ純粋に威力が高い方だ。

 となると相性が悪い、且つレベルの低い攻撃なら――あぁ、低すぎて二割しか削れてない。


「水芸を食らえっ『ウォーター』」


 更に右手で鷲掴み。左手でも鷲掴み。最後にもう一度『エアカッター』と『ウォーター』の連続魔法で八割強削れた。

 尚、俺のHPも六割ほど持っていかれている。

 あっぶね!


「『ヒール』! 夢乃さん、はよっ」

「任せて! たぬたん、君に決めるけんっ」


 投げられた黄金の卵を狸が――その太い尻尾で打ち返した。

 ぴゅーんっと飛んで行った黄金の卵は、俺たちの頭上を飛び越え、そして――アレに当たった。


 セシリアたちと戦闘中の、でかぃ方のアレに――。


「嫌あぁぁぁっ。失敗してぇぇぇぇっ」


 絶叫する夢乃さん。

 戦闘中だったセシリアたちは驚いて振り返る。


「アレをペットにする気なの?」

「違うけんっ」

「マジック、随分モテてるね」

「痛いんだぞ、これ……『ヒール』」


 卵の中に閉じ込められたでかぃアレが暴れているのか、地面に転がった黄金の卵がもぞもぞと動いている。

 成功、するのか?

 失敗すれば、また卵からでかぃアレが出てくるはずだ。


 だが――出てこない。

 その間俺のHPが減り続けているんですけど?


「嫌あぁぁぁぁぁっ。お願い、失敗してぇぇぇっ」


 結論。


 夢乃さんはでかぃアレ――『頑張る親方ラクーン』を――。


「嫌あぁぁぁぁぁっ」


 ゲットしたのであった。

お読み頂きありがとうございます。


書籍版のほうも、どうぞよろしくお願いいたします。



あと、たぬきって言えばこれだよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ