245:マジ、精霊と戯れる。
「罠だらけだって情報は知ってたけど、楽勝だったね」
「だろ。もう片方のルートだとくっそ面倒くさいんだけどな」
「床を滑ったりクイズに答えたり、本当に面倒だったねぇ」
「楽しそうに聞こえるんやけど?」
四階の落とし穴エリアを通過して、次なるは階層ボス。
どうやらこいつを倒さなきゃ、次回来た時に「この階層をクリアした」という扱いにならないようで、エレベーターが使えない仕組みのようだ。
一階のエレベーターを利用しようと乗り込むと、四階が未クリアの為その先に進めませんと出た。
俺とセシリアはクリアしているので、していない夢乃さんとシースターがパーティーに居るのでダメだという事に。
「じゃあマジック君。歌ってね」
「……やっぱそうなるのか」
俺とセシリアのやりとりにシースターと夢乃さんが首を傾げて見ている。
「けどセシリア。あれが不具合だった場合、俺は不正行為をする事になるんだが」
「ふえぇっ!? そ、そうなの?」
「え、不正ってどういう事?」
シースターと夢乃さんも不安そうな顔になる。
かくかくしかじかと説明するとその顔は元に戻った。
「報告したんなら、いいんやない?」
「いや、でも不具合だと分かっててスキルを使うのはマズいでしょ」
「不具合だって決まったわけじゃないよマジック」
「そうそう」
でもなぁ。
『こんな時はワタクシにお任せくださ!』
「うぉい!? な、なんで突然降って湧いてくるんだよっ」
突然現れたシンフォニアは、全身真っ白のメイド服を着て白いマスクを付けていた。
まさかこれ……GMモードなのか。
「あ、マジック君のところのスタッフさん。こんばんは」
『はい、こんばん――ではなく、ワタクシ、ゲームマスターです』
「この前のNPC会議にも出てた人だね。マジックのところのスタッフは何かと忙しいみたいだねぇ」
『そうなんですよ。それというのも――いえ、ワタクシはゲームマスターですから。えっとですね……』
もうバレバレだから諦めろ。
降って湧いてきたシンフォニアの話は、先日の問い合わせに関する内容だった。
なんでも不具合ではなく、仕様なのだとか。
『デバフスキルの需要をアピールするのが目的のようなもの、とお考えください』
「そういえば、デバフスキルはIMPの消費が多いからって、不人気スキルみたいだね」
『はい。残念ながらそういう状況でございます。しかしレベルが高くなればなるほど、デバフスキルは有効な戦闘手段の一つになってきますので』
な、なんだこのもっともな内容は。
え、本当に仕様だったのか?
じゃあ――。
「俺は歌うぜ!」
『はい。どうぞ、熱唱なさってください』
ニッコリ微笑みながらシンフォニア――もとい、ゲームマスターはすぅっと消えていった。
心おきなく歌えるぜっ。ありがとうな、シンフォニア。
「それにしても、さすが彗星君のところのメイドさんやねぇ。面白いね〜」
「お屋敷のメイドになりきったり、ゲームマスターになりきったり。そのうちイベント用NPCになりきって登場するかもしれないね」
きっと誰もお前をゲームマスターだと思ってないだろうことは内緒にしておこう。
ボス部屋に入ってすぐノームを召喚し、そして歌いだす俺。
「彗星君の生歌声! いやぁん、裏サイトの情報通り、美声ぇ〜」
「うぅん。相変わらずイケメンボイスだなぁ。でもなんでいきなり――うわっ」
ぬぅんっと現れた丸々太った蝙蝠は、登場と同時にごろんっとその場で眠り始めた。
相変わらず、人生全てが面倒くさそうな顔してやがるなぁ。
「マジック、これは?」
「えぇっと――「マジック君、歌って」あ、はい。『全てはぁ〜、真実なのさぁ〜っ』」
説明したいが、歌を止めるとメタボが起きてしまう。
寝ている間は楽にフルボッコできるので、ひとまず倒す方を優先だ。
とばかり、ジェスチャーで攻撃を促す。
〔のっ。のののーむっ〕
旦那。攻撃するでやんすよ。――と、ノームがシースターのずぼんを引っ張って言ってるんだが、もちろん言葉は通じない。
それでもなんとなく理解したのか、しっくりこない顔のままシースターは攻撃を開始する。
弓使いにシフトしたシースターだったが、さすがにDEXがあるだけ攻撃力は高い。
ただスキルが初期の『ショットアロー』しかないので、時間あたりのダメージ計算だと低くなっちまうんだろうけどな。
それは夢乃さんも同様。
ただ――。
「反撃、してこんと?」
「うん。寝てるだけ」
「楽勝すぎない?」
「マジック君がいるから」
というように、ボスが一方的になぶられているという現実が。
さっきシンフォニアが来て教えてくれなかったら、やっぱり歌うのは躊躇していただろうな。
それぐらい楽勝すぎるんだよ。
時間は掛かったものの無傷でボスを撃破した俺たちは、そのまま五階へと続く階段を下りていく。
やっぱり後ろの方では誰かが合唱しているのが聞こえるんだが、そうじゃないんだなぁ。
五階は地属性モンスターが闊歩するエリアで、見た目は一階から三階同様の洞窟タイプだ。
ってことで――。
「じゃ、ノーム」
〔……の〕
そんな切なそうな顔すんなよ。
しょうがないだろ。相性ってもんがあるんだし。
「サラマンダー」
〔ぼっ〕
ノームと違ってこっちは愛想なんてものが微塵もない。
〔ぼっぼぉー〕
「なにも言ってないのにバフスキルかよ。そのスキルを使うのに必要なMPは俺から出てる事を忘れるなよ」
〔ぼーっっけ〕
「誰がボケじゃ誰がぁぁっ!」
「マジック見てると、精霊使いもいいなぁって思うよ」
お読み頂きありがとうございます。
なんと10/31付けのTSUTAYAデイリーにて、「殴りマジ?」が文芸書部門の20位に入っておりました!
ラノベ枠じゃないんですね、実は。




