244:マジ、狐幼女を「違うんだったら!」
ちょっと早いが夜の部スタート!
『お帰りなさいませ、彗星マジック様』
そう挨拶をするシンフォニアは、何やら忙しそうに半透明なパソコンを操作している。
っていうか、何してんだこいつ。
『申し訳ございません。ただいまウェブコンテンツの作成業務を行っておりますので、彗星マジック様のお相手は出来ません』
「……いや、相手して欲しい訳じゃないから。じゃあ……まぁ、頑張れよ」
『はいっ。いってらっしゃいませ』
一瞬こちらを見てにっこり微笑むと、すぐまたパソコンに視線を戻す彼女。
まるで締め切りに追われた作家のようだな。
邪魔をしないよう、さっさとゲームに移動しよう。
ゲームに移動して直ぐ、ぷぅがお腹空いたと騒ぎだす。
〔ぷぷぅっぷ。ぷっぷぷぷぅ〕
「そろそろ新しい味だと? 贅沢な奴だなぁ」
新しい味と言ってもなぁ。木の実だって何種類もあるように見えないし。
鳥……だったら米味とかでもよくないか?
だってほらさ、田んぼと言えば雀のイメージだろ。
そういや、みかんだのリンゴだのを木の枝にぶっさして野鳥を誘うなんてのも聞いた事あるな。
なんだ。鳥ってなんでも食うじゃん。
試しにクロイスのNPC屋台で果物を一つ買ってみる。
それをノーマルペットフード……たまにはモンスター研究家から買うか。
それと合成して――っと。
「新しい味だ」
〔ぶぶっ、ぶぶぅ〜!〕
なにその投げやりな合成! とか言いつつしっかり食うんだな。
しかも良い食いっぷり。
〔ぷぅ〜〕
「まぁまぁいいわねって、どう見てもがっついてただろ!」
〔ぶ! っぷっぷぷぶぅ〕
「なぁにが「レディに向かってがっつくなんて酷い」だ。そもそもお前のどこがレディなのかと小一時間だっつぅの」
〔ぶぶぶぶぶぶぶ〕
「あ、痛てっ。おいやめっ。やめろってっ」
飛べるようになったぶん、捕まえようとしても逃げられる。そして突かれまくる。
くっそ。マジ痛ぇ。
「あはははは。相変わらず仲良しさんだねぇ」
「は? どこが?」
〔ぷ? ぷっぷぷぅ♪〕
「おい、人を思いっきり攻撃してやがったくせに「やっぱりぃ♪」ってどういう事だ! ――ん?」
ぷぅを鷲掴みしてやろうと手を伸ばしてはたと気づく。
今の声は――。
「お、シースターじゃん。こんばんち」
「ばんわ〜。また凄い格好してるねぇ」
ほっとけ。
〔ぷっぷぅ〜〕
ぱたぱたと飛んでシースターの肩にちょこんと止まるぷぅ。
ほんと、こいつって男相手だと普通に愛想振り撒くし、女が相手だと目の敵にして突くよなぁ。
なんなんだろうな。
「そういや、骨は集まった?」
「あぁ。集まって粉にして撒いた」
「え、もう撒いたの?」
あ、そういやシースターの知り合いに、骨の加工お願いしたいって話してたんだっけか。
「悪い。頼んでおきながら、その場にいた調合持ちの人にお願いしちまって」
「いや、別にいいよ。まだ依頼そのものもしてなかったし。それにしても、あのカキコミで骨が集まったんだね」
公式掲示板の事だろうか。シースターも見てんだな。
「ちなみに俺がカキコミしたんじゃねえぞ」
「うん。マジックの熱狂的なファンの子だね」
〔ぶぶぶ!? ぶっ、ぶぶぶぶ〕
「いや、ここにはいねえから。っていうか、居たらどうするってんだよ」
突くに決まってるじゃない! と、さも当たり前のように言うぷぅ。
そのぷぅを見ながらシースターの顔がにんまり笑っていた。
「ペット……居るとやっぱり楽しい?」
「ぷぅと居て楽しいかどうかという質問なら、答えはNOだあだだだだだだだっ」
〔ぶぶぶぶぶぶぶっ〕
「やっぱり楽しそうだよねぇ」
何故そう見える!?
突かれてるのが楽しそうなのか? シースターは突かれたいのか!?
「ぼくも本気でペットを探そうかなと思ってさ」
「ほほぉ」
「実は今日、まきさんに聞かれたんだよ。どうしてペットを持たないのかって」
聞かれた……もしかして、直接ペット未所持のプレイヤーに尋ねまくったのか。
シンフォニアの言っていた「任せてください」ってのは、ログイン時にNPCが直接質問する事かよ。
生の声を直接運営に届けられれば、少しは奴らも動こうという気に……なってくれるかな?
で、シースターは恐竜をペットにしたいとか言ってたような。
爬虫類好きとはなぁ。
「そうだ。夜は特に予定ないし、シースターが暇なら遺跡に行く?」
「え? い、いいの!?」
「ってことで、よろしくなセシリア」
「任せたまえっ! ところでマジック君。悪役王子様みたいだね」
「悪役じゃなくって騎士なんだとよ」
人を見るなり悪役呼ばわりかよ。まぁ俺もそう思います、はい。
さすがに俺とシースターの二人じゃ心細い。可能な限り肉壁――もとい、仲間は多い方がいい。
「大丈夫やけん。その騎士ってね、実は某国の第三王子がお忍びで城を出るときの――」
デザイン主の夢乃さんが熱く語り出すが、誰も聞いてない。
騎士とか王子とか、しらんがな。
ってことで、夢乃さんも呼んだ――のではなく、見つかったというべきか。
「そうそう、彗星君。夕方の話なんやけどね。うちのエリックがさぁ」
エリック……たぶん夢乃さんところのロビースタッフの名前なんだろうな。と思いつつ聞いてると、シースターと同じ質問をされたらしい。
「でね、ペットはどの種類も飼い主に合わせたバフスキルを覚えるってエリックが言うのよ〜」
「あぁ、シンフォニアも同じ事いってましたよ」
「あと、早く成長させたかったら課金フードがお勧めなんやって」
……俺の合成ペットフードが危機的状況!?
そんな夢乃さんが遺跡ダンジョンについてくる理由が――。
「五階にね、たぬきが出るんだってぇ〜」
「たぬき?」
居たか、そんなの。
「シースター君はどの子をペットに?」
セシリアがそう尋ねたが、シースターはウミャーに夢中だ。
犬が猫とじゃれあってる。そんな光景だ。
仕方ないので俺が小声でセシリアに教えてやろう。
奴がペットにしたいのは――。
「狐の幼女――「そこっ、嘘教えるな!」聞こえてんじゃねえか」
「えっと、セシリアさん……だったよね」
「うん。セシリアでいい。私もシースター君って呼ぶから」
呼び捨てでいいといいつつ、自分は君付けで呼ぶからっ……斬新だな。斬新過ぎてシースターも苦笑いしてるじゃねえか。
「え、えっと。じゃあセシリア。ぼくは……恐竜……を、ペットに……ね」
「き、恐竜!? Tレックスとかプテラノドンとか?」
「うぅん。出来ればトリケラトプスかなぁ」
「角の生えた草食恐竜!?」
「そうそう」
なんか意気投合してるぞおい。
「セシリアちゃんって、ある意味博学ばいね」
「博学っていうんですかね、あれ」
こうして俺たちは、たぬきと恐竜を求めて遺跡ダンジョンへと向かったのであった。
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