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242/268

242:マジ、私腹を肥やす企てをする。

 売り上げの約百万ENを受け取り、合成ペットフード五千個を追加。

 残り時間を利用してピッピ平原で芋虫を駆逐する。

 目的は『糸』だ。


 二個ゲットした時点でこの二つを合成。

 出来上がったのは『上質な糸』が一つ。

 更に『糸』を二個ゲットして合成。

『上質な糸』が二つになったので、これを合成。

『上質な糸玉』が完成。


「うぅん。この糸玉ってのはなんだろうな?」


 アイテム説明には「より多くの糸をまとめた物」と書かれているがさっぱり分からない。

 となると聞くしかないか……。


 フレンドリストで所在を確認っと。町にいるみたいだな。じゃあメッセージ飛ばしてみるか。


【彗星マジック:夢乃さん、今いいですか?】


 返事はすぐに来た。


【夢乃:もちろん!】

【彗星マジック:糸玉って素材アイテムなんですが、普通の糸と何が違うんですか?】

【夢乃:布装備作るのに糸が百必要なのに対し、糸玉やったら二十五個で済むんよ】

【夢乃:やからお得な素材やね。でも糸玉はドロップ専用やけん、なかなか手に入らんのばい】


 おや? ドロップ専門?

 他にもいろいろ質問して分かったのは、糸を裁縫技能でどうこうしても糸のまま。上質な糸に加工は出来ない。同じように糸玉にも出来ない。

 糸は綿花を加工して作るんだが、上質な糸は上質な綿花から加工して作られる糸だという。

 絹なんかは『蚕』を加工という具合に、若干リアル寄りな設定になっていた。


【夢乃:下位の素材はどのエリアでも必ず取れるんやけど、レベル30にもなると上質か絹しか使わんのよねぇ。なぁんで毎回取れるんやろ】

【彗星マジック:その綿花ってどうしてるんですか?】

【夢乃:倉庫枠が足りてるうちは取っとるよ】

【彗星マジック:俺のマジックで上質な糸にしてやりますよ!】


 ……あれ?

 返事が来ない。


 いや来た。


【夢乃:それダジャレなん?】


 ……そんなつもりは……なかった。






 港町クロイスの中央広場で待ち合わせ。

 が、ここでシンフォニアから三十分経過したという知らせが入った。

 まぁすぐに落ちなきゃならないわけじゃない。説明だけしてあとは夜にするか。


「お待たせ〜」


 夢乃さんがやってくると、まずは人気の無い西の居住区へと移動した。


「なになに? 人気の無い所に連れ込んじゃったりしちゃって」

「……なんもないですから」

「えぇ〜、残念」


 何がどう残念なんだ。


「それで、綿花をどうするの?」

「えぇっと……」


 受け取ったのは綿花。

 しまった。糸にしてもらうんだったな。

 だがこうすれば……。


 受け取った綿花二つを合成すると『上質な綿花』が一つ出来上がる。


「夢乃さん。糸や上質な糸に加工するにに必要な綿花系の数は?」

「ん。綿花一つで糸一つ。上質も同じやよ」


 綿花二つで糸二つ。糸二つで上質な糸一つ。

 綿花合成からやっても結果は同じだな。

 あと合成で綿花を糸には出来ないから、ここは裁縫技能でやってもらうしかない。


「なになに? 合成でワンランク上の素材に出来るの!?」

「そうみたいです。ただ加工は出来ないんで。糸にして貰わないといけないんですけど。あ、上質な糸二つ持ってませんか?」

「持っとるよ」


 受け取った上質な糸二つを合成し、糸玉を彼女に見せる。


「うそっ。そんな簡単に作れるもんなの? やだ、装備やらポーションみたく、完成品しか合成できんのやと思っとった」

「かく言う俺も、合成=ペットフードばっかりでしたから、素材関係の事をすっかり忘れていましたよ」

「なんで思い出したん?」

「それが……」


 合成ペットフードの供給が過多になってきていて、売り上げが落ちているからだと話す。

 

「う〜ん。購入数を絞っとるんやろ? 最初に買った人がそろそろ手持ちが無くなってまた買いに来てくれるんやない? それに、まだペットをゲットしてないプレイヤーも多いし。寧ろ多いかな?」

「夢乃さんもゲットしてませんね」

「うん。イケメンペットがおらんけん」


 と言って俺をじっと見つめる。なので俺は目線を逸らした。

 動物モンスター限定って言ってるだろ!

 こういうプレイヤーがいるから、人型モンスターをペットにはしなかったんだろうな。運営の善意ってやつか。グッジョブ運営。


「まぁ正直、DEXかLUKを限定してあげてくれるようなバフ持ちじゃないと、ペットにしてもねぇ」

「でも幼児期――〔ぶぶ〕幼生期の間の経験でバフを習得するんだし、生産組がペットを飼ったらスキルはそうなるんじゃないですか?」

「うぅん。他の生産職もみんな検証待ちで結局、誰も試してないってのがあるけえんねぇ」


 誰かがやってくれるだろう――みんなそう思ってるから、誰もやらない、と。

 あるある。


「せめて公式でタイプ別紹介でもしてくれればいいんやけど」

「そうですね〜」


 ひとまず綿花を大量に合成して『上質な綿花』にして夢乃さんに手渡す。

 夜までに加工してくれれば、俺が夜に『糸玉』に合成する――という約束をしてログアウトした。


『お帰りなさいませ、彗星マジック様』

「ただいま。なぁ、運営に要望を出して欲しいんだが」

『畏まりました。どのような内容ですか?』


 ロビー事マイログハウスに戻って来た俺は、ウッドデッキに出て椅子に腰を下ろす。

 近くのもみの木の下には、今日も数匹のコスライムがぷるぷるしていた。


「ペット関係の情報なんだけどさ、意外とペット連れが少ないだろ?」

『――左様でございますね。ただいま検索しましたら、およそ三割程度のプレイヤーしかペットを所持していないようです』

「三割か……予想以上に少ないな」


 残り七割のプレイヤーが全員ペットを持ったら……合成ペットフード爆売れじゃね!?

 この要望は重要だぞ。


「ペットを連れてないプレイヤーってのは、卵をゲットするのに失敗しているのか。そもそも卵のゲットすらしていないのか」

『――後者のほうが多いようです』

「それは何故か?」

『何故でございましょう?』


 シンフォニアも興味津々で俺の顔を覗き込んでいる。


『実は運営スタッフの方も困惑しているのです。せっかくのペットモンスターコンテンツが浸透せず、用意したペット用課金アイテムの売れ行きも悪い……と』

「主に後半の金に関しての事で困ってるんだろ?」


 という俺の言葉に頷く彼女。

 汚い。運営汚い!!


 だが俺にとっては好都合だ。

 っくくく。

遂に明日、「殴りマジ?いいえ、ゼロ距離魔法使いです。」が発売されます。

ガクブルガクブル。


発売&ハロウィン記念をして、通常の更新と記念SSとをアップします。

SSのほうが別作品枠として投稿いたしますので、明日更新あとがきにURLをカキコミしておきます。


今後も書籍ともども、よろしくお願いいたします。

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