235:マジ、活躍無し。
村に到着すると真っ先に出迎えてくれたのは――。
「マ、マジックさん。そ、その人は……」
「マジック。また女連れか」
ディオとティナの兄妹だ。
またとはなんだ、またとはっ。
ディオはにやけた面で、ティナのほうは兄貴に隠れてもじもじしながら、何故かブリュンヒルデを警戒中だ。
「で、マジック。どの子が本命なんだ?」
「は? 本命ってなんの事だよ」
「ほ、本命だなんてぇ。恥ずかしいですのぉ」
「マ、マジックさぁん」
何がどうなってんのかサッパリ分からないんですけど?
「はっはっは。そうだよな。一人に決められないよな。うん、分かるぜマジック」
「俺はお前の言っている意味が分からないぜディオ。ったく、せっかく大量の骨粉を持ってきてやったってのに」
にやけ面のままディオが固まる。
シンキングタイムっていうか、思い出しタイムだな。
数秒後、思い出したディオが動き出す。
「ほ、骨粉!? マジック、お前……」
にやついていたディオの顔が、今度は感動のあまり涙腺緩みっぱなしに。
変わり過ぎだろ。
「じゃあ私はご近所さんに手伝って貰うために、呼びますの」
「ご近所さん?」
はいですのと答えたブリュンヒルデは、ぶつぶつと呪文を唱えて両手を天に掲げた。
両手を天に掲げたわりに、魔法陣は地面ってね。
そして魔法陣から三人のダークエルフが登場した。
全員男だ。
【おぉ、ここが先住民の村ですか】
【なるほど。我らの集落よりも……】
「この土地では作物が実らないのも納得ですな。大地の精霊はもちろん、水・風の精霊の力も弱い」
二人はテキストで、一人だけ声ありかよ!
差別とか可哀そうだ。
「マジック、このダークエルフたちはなんだ? お前の村の知り合いなのか?」
「え……え、えぇっと」
うっ。マズい。
同じダークエルフだから怪しまれないだろうとは思ったんだが。
「私はダークエルフの集落を納める長老の一人ですの。マジックさんに集落を救って貰った恩を返すために、この村の発展にご協力するですの」
【私はブリュンヒルデ様の隣に住む者です。ブリュンヒルデ様と共に、あなた方に協力するためにやってきました】
【俺は――】
以下略と言わんばかりに自己紹介をしていくダークエルフたち。
台無しだ。
今までの俺の演技が全部台無しだ!
「マ、マジック……お、お前は――」
「デ、ディオ……お、お前を騙すつもりじゃなかったん――」
「あのダークエルフの始祖である姫すら懐柔したのか!?」
どうしてそうなる?
いつの間にか集まって来た村人も「さすが英雄様だ」と訳の分からない事を……。
「そういうことだ!」
うん。そうしておこう。
「じゃあ精霊を召喚するですの」
ブリュンヒルデたちがそれぞれ、火・水・土・風の精霊を召喚する。
そして俺は村人と協力して畑を耕していった。ノームにも手伝って貰ってだ。
畑の長さは十メートル。幅は五メートル。
村の敷地内に作れる畑は、このぐらいのサイズがいくつか作れそうだ。
ひとまず試験的に一か所だけ作ってみた。
骨粉は一メートル四方に百個必要だ。
合計で五千個か。
骨一本から骨粉一個……一個って表現はおかしいが、まぁ一個なんだから仕方がない。
手持ちの骨粉は約一万。残るのは五千個と、未加工で預けてある分が一万か。
この畑でどのくらい供給できるか分からないが、もうちょっと欲しいよな。
村人に骨粉を渡してどんどん撒かせる。
なんせ一メートル四方辺り百個撒かなきゃいけないんだからな。
「百個だからな。無駄に撒かないでくれよ」
「「お任せを」」
声を合わせて返事した村人NPCは、完全にシンクロした動きで骨粉を地面に撒き始める。
なんだ、この一糸乱れぬ動きは。
十人の村人が見事な動きで粉を振り撒いていく。
まったく同じ動作をまったく同じタイミングで繰り出す職人技。
いや、違うか。
「マジック。お前の担当枠が疎かになってるぞ」
「あ、ああ……」
そう俺に声を掛けるディオもまた、顔はこちらに向いたまま他の村人とシンクロしている。
もうちょっとさ、ほら、人間っぽいNPCでもいいと思うんだ。うん。
時々コエーから、このゲームのNPC。
そんな事を思いながらブリュンヒルデたちに視線を向けると――。
ごぉぉぉぉぉぉっっと大地に炎がうず高く上る。
な、なにをするつもりなんだ!?
「イフリートさん。この辺一帯の炎の力を弱めて欲しいですの。極々自然の形に戻して欲しいですの」
は?
イフリート?
五メートルぐらいある全身火だるまのマッチョが『承知』とか言いながら消えた。
一瞬熱風が吹いたかと思うと、次の瞬間には辺りが涼しく。
更にブリュンヒルデは大賢者でおなじみのベヒモスを召喚し大地に実りを〜とか伝えている。
そして水で出来た大王イカに、半透明で下半身が逆竜巻状の全裸男が登場する。
それらをブリュンヒルデが一人で召喚し、それぞれに何かを命令していた。
他三人は俺と同じように下位の精霊を呼んで、やっぱり何かを命令している。
「マジックさん。これでこの土地の精霊たちは、自然の形に戻ったですの」
「自然の形?」
「はいですの。この辺一帯は炎の精霊力が強く、それで荒れ地になってるですのよ」
なんかそういうネタのファンタジー小説があったような。
全てが均衡を取り戻せば、あとは時間をかけてゆっくり緑豊かな大地に戻るってネタだろ?
だがこれはゲームだ。小説ではない。
なので……。
「おぉ! 草が生えてきたぞっ」
「き、奇跡だ!」
なんてことだろう。
完全シンクロによって見事に百個の骨粉が撒かれた場所に、雑草が生え始めやがった。
せっかく土壌改良してんのに雑草とかっ!
「おいっ、誰か野菜の苗とか種、持ってねーのかっ」
そう尋ねると、村人が完全シンクロして、
「無いっ」
とドヤ顔で答える。
ぐっ。大音量なんだよっ。耳痛ぇーっ。
てか、ドヤ顔で言うことかよ。
ったく、そこから世話しなきゃならないのか。
「じゃあ私が集落に戻って、お野菜の苗をたくさん貰ってくるですの」
「え? いいのか、ブリュンヒルデ」
「はいですの♪ 同じ大陸に住む者同士、助け合うですの」
なっ……。
ちょっと前までは「我らは罪深きー」とか、ネガティブな種族だったのに。
成長、したんだなぁ。
――と思ったが……。
くるりと踵を返した彼女がぼそりと呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。
「我ら罪深きダークエルフが、罪滅ぼしするですの」
――と。
どこまでお前らの業は深いんだよっ!




