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232:お願いマジ様。

 翌朝目が覚めてふと思った。

 最近なんだが体が重い……気がする。

 そういやVRあるあるにあったな。


 食って寝ころんでVR人生。三か月もすると体重が五キログラム増える。


 マジだったのか!?

 一階に降りて風呂場に置いてある、主にお袋が使う体重計に乗ってみる。

 ……うん。気のせいレベルとも言えなくはないが、一キロちょい増えてるな。

 これは、マズい?

 ただでさえ冴えない顔だってのに、ここで太ったら彼女いない歴イコール年齢のままずるずる年だけくっていきそうだ。

 今はいい。まだピチピチの十六歳だからな。

 でも十年後もというのはさすがに寂しい。


 たまには運動をするか。


 そう思って朝飯前にジョギングでもと外に出る。

 朝七時前だというのに、なんだこの暑さは!

 日本の夏はおかしいんだよ!


 よし、涼しくなる夕方以降にしよう。


 という事で飯を食ってログイン。


『おはようございます、彗星マジック様』

「あぁ、おはよう」


 ログハウス前にログインした俺は、もみの木の方に視線を向ける。

 今日はピンクとイエローが遊びに来ているのか。

 あのコスライムたち、どこから来てるんだろうな。


『コスライムがどうかいたしましたか?』

「いや、あいつらどこからやってくるのかなぁ〜っと」

『どこから? そりゃあ――』


 そこまで言うと、シンフォニアはニタァっと笑ってこう答えた。


『どこかのプレイヤーに倒されたコスライムの生存データが電子空間と漂い、そして具現化しただけです』


 ……おいやめろ。

 それだとまるでコスライムの怨念が集まって実態化したみたいじゃないかっ。


『まぁそれはそれとて。掲示板の反響が大きいようで。彗星マジック様は遂に魔王として『イマジネーション ファンタジア オンライン』に君臨なさるのですね』

「まて、勝手にラスボス認定するな。別に魔王になんかならないぞ」

「それはよかったです。オンラインゲームに本来、ラスボスなんて存在しませんから。そのような者が存在すると、倒された時点でサービスを終了しなければなくなりますから。それに――』

「それに?」


 シンフォニアがにっこ微笑む。

 黙って笑っていれば、まぁ、そのなんだ。美人ではあるんだからさ。ごにょごにょ。


『彗星マジック様がラスボスですと、ログイン早々にもサービスが終了しそうですから』

「それはつまり、俺というプレイヤーが大して強くも無い、そう言いたいんだな」

『はい』


 そこはもう少し考えてから慎重に答えろよ!

 美人とかごにょごにょ思った俺が馬鹿だった。

 くそ。

 さっさとログインして骨集めするっ。






 ゲーム内に移動して早々だ。


「あんた放電の人だろ?」


 放電の人……。

 俺はいったいいくつの通称を付けられているんだ。


「はぁ、たぶんそうです」

「スケルトンの骨、百三十本あるんだけど、買う?」

「買う」


 即答だ。

 スケルトンの骨はNPCに売却すると120ENになる。

 なので125ENで買い取りをさせて貰った。合計16250EN支払う。


「これでどんな禁術を編み出すんだ?」

「……いや、魔王にならないから」

「え? そうなのか?」

「そうそう。これはな――」


 ざっくばらんに骨の使い道を説明すると、彼は残念そうな顔になった。


「土壌改良とか、地味じゃね?」

「いや、そう言われても」

「待てよ。先住民の土地を豊かにし、そして信仰を集めて洗脳する! そういう事なんだな?」


 だから違うと言うに。

 一人明後日な方向に納得した彼は、笑顔でその場を立ち去っていった。


 幸先の良いスタートなのか、それともダメな方向に向かっているのか……。

 まぁいいや。

 あとはこの骨を粉にしてもらわなきゃならないんだが。


 フレ一覧を見るとファクトに夢乃さんがログインしていた。

 あの人に頼むか。


 メッセージを送ると速攻で返事がくる。

 骨を骨粉にするという加工は初めてだが、協力してくれるそうだ。

 なら早速とばかり工房へと向かうと――。


「彗星君、これ着てぇぇぇっ」

「コートは合成してるから、着れませんって」

「大丈夫! これ、アバターやけんっ」

「は?」


 俺を見るなり夢乃さんが見せてきたのは、どこの軍服かよってデザインの黒い服だ。

 だがアバターって、課金アイテムのか?


「いや、さすがに課金アイテムは……」

「うん。課金やけどね、これ、型紙が課金なだけで一つの型紙で何着も作れるんよ」

「はぁ」


 そんなものまで課金で売ってるのか。

 夢乃さんが言うには、ようは型紙がレシピみたいなもので、それさえあれば同じデザインの装備を量産できるらしい。

 NPC販売との違いは、これで作った装備はアバター扱いになるので性能はまったくなく、だからこそ素材の質にこだわる必要がない――との事。

 またアバターなので、既存装備の上から着て見た目を上書きするだけの物だってことだ。


「だから、着て?」

「なんっすかね、その……疑問形の語尾上げ口調なのに、言葉は命令形って」


 それにしても意外だな。

 上半身裸な今の俺のスタイルのほうが、彼女は喜びそうなもんなんだが。

 まぁ裸族から抜け出せるっていうなら……。


 受け取って着てみると、アバターだけあって上下手足の四点セットだったか。

 そしてこれまた……乙女ゲーに出てくるイケメンキャラ風コスチュームだな。

 見た目は黒い軍服。金の刺繍で縁取りがあって、胸元に裏地の折り返し部分がありここは真っ赤だ。

 肩には金のすだれみたいなのがぶら下がってるし、同じ金の紐が襟元から右の二の腕に、そして後ろに回ってと……。


「どこのステージ衣装ですか」

「今人気の乙女ゲーム『お願い騎士様』ってのの衣装をそのままデザインに起こしてみたんよ」


 やっぱり乙女ゲーかよ!

 はっ。もしや今この瞬間――。


 さっと周囲に視線を巡らせると、時既に遅し。

 目の色を変えた女子たちが、俺を取り囲んでいた。


 たちけてぇー。

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