229:マジ、冒頭だけを繰り返す。
「『ウォーターッ』」
レインボー自粛中。
最後のスプラッシュ効果で、仲間やNPCに被害が及ぶ結果になろうとはな。
もちろんダメージは無いが、ブシャって飛び散る水でビックリするんだとか。
うん、まぁ作った本人もビックリするぐらいの勢いだからなぁ。
〔ぷくぅ〜ん〕
水芸でアルマージロにダメージを与える俺の隣では、ウンディーネが奴の鼻先に往復ビンタを叩きこんでいた。
あれを食らわされたら精神的にきそうだな。
しかし、全身を鱗のような皮膚で覆われたアルマージロだと、ノーマルな物理攻撃だとあまり利きそうにないな。
水付与が無かったら、結構な長期戦になっていただろう。
防御力、高そうだし。
「あ……鉱山でのスライムみたいに、鷲掴みで――」
素材、取れたりしないかな?
あの表面の皮膚とか、絶対防御力のデカい素材になるだろ。
ととと――と側面に回り込み、奴の短い前足に右手を突き出す。
そして掴む!
つか――つ――
「掴めねぇぇっ! なんだよこの皮膚はっ」
硬い、というのもあるが、鱗のような皮膚がまるでブロックのように隙間なく埋まっていて、指を食い込ませる隙間すらない。
糞っ。掴ませろ! 素材寄越せ!!
『ウォーター』しながらがむしゃらに掴みまくっていると、突然背後で声が上がった。
「攻撃っ、止めて!」
佳奈さんが必死に叫ぶ。
思わず攻撃の手を止め振り向くと同時に、俺は自分のHPが減っている事に気づいた。
おかしい。アルマージロのタゲはセシリアが抱えているはず。
範囲攻撃も無かった。
つまりダメージは食らってない……ハズ。
「攻撃、ダメ」
「佳奈殿、ダメというのは?」
「反射、入った」
「「反射?」」
俺とセシリアが同時に声を上げ、霧隠さんは慌ててアルマージロの方を見やった。
反射……言葉から連想できるのは、こちらの攻撃を反射してるってことか?
ふと気づくと、NPCたちも見事に攻撃の手を止め、じぃっと奴を睨みつけているのが見える。
「っくっ。ダメージ反射スキル持ちでござるか」
「そう。反射効果が消えるまで、何もしないで。あ、ヘイトスキル、大丈夫」
「わ、分かった。みんなが攻撃出来ないうちに、ヘイト貯めておけばいいのだな」
こっちの攻撃をなんでもかんでも反射する状態にあるアルマージロ。
ただぼぉっと見ているしかないのか。
あ――
「じゃあ、久々に――『カッチカチ』やぞ!」
ダメージ吸収シールドでも張りますか。
俺はバフれない運命にあるが、幸い防御スキルはバフ扱いではない。
防御力を上げるとかだとバフになるんだろうけどな。
あと暇だし、歌ってよう。
これまた幸いな事に、デバフは反射しないようだ。
まぁ反射されれば歌うのを止めればいいわけだしと思って歌ったんだが。歌い始めた途端――
「反射、切れた。攻撃、オケ」
佳奈さんがそう言い終える前にNPCが先に攻撃を再開。
こいつら、システムと直結されてるからコンマ一秒の狂いもなく反応してやがる。
せこい。
攻撃を再開して暫くすると、再び佳奈さんが叫び、NPCが攻撃の手を止める。
ぐぅ。厄介な敵だなぁ。
しかも、こっちは攻撃できないのにアルマージロは構わず攻撃してくるって、ずるいだろ?
今のところ、セシリアにだけ攻撃が集中しているが、最近使ってなかった『カッチカチ』じゃあ、一発耐えるとあっさり割れるっていうね。
だがぷぅサンバ効果でCTは二十三秒にまで減少している。
連発は出来ないものの、割れた後の奴の第二攻撃後には再び『カッチカチ』に出来る。
うん。
これは『カッチカチ』のレベル上げをしろっていう天のお告げだな。
「うぅん。反射、なかなか切れないでござるな」
「そうですねぇ。さっきはマジックさんが歌い出したら、すぐに切れたんですけどねぇ」
「そういえばそうだな。ほれ『カッチカチ』」
二度目の反射だが、ずっとアルマージロのターンとでも言うかのように終わらない。
……。
……。
「『カッチカチ』やで」
「マジック君っ。関西弁バージョンか!?」
「うむ。気づいてくれたか」
「マジックさん、段々飽きてるです?」
実は飽きてきた。
だって『カッチカチ』しか出来ねえんだもん。
飽きるよ。
「なぁディオ。お前らはこいつと戦った事あるのか?」
「あぁ。前に一度だけな」
そう答えつつ、ディオは俺の方に視線を向けようとしない。
NPCはアルマージロを凝視したまんまだ。
「この状態、いつまで続くんだ?」
という俺の問いに、ややシンキングタイムを発生させながらようやく返事が返って来た。
「十分だ。さっきは何故かすぐに解除されたようだが、お前のスキル効果『怠惰』が原因なのかもな」
「たいだ? ……えぇっと――」
あ、『鎮魂歌』のオマケ効果か。
「マジック、試しに歌ってみてくれ」
「お、おう! 俺の歌を、耳かっぽじいて聞きやがれゴルァ!」
そして歌う。
熱血アニソンを。
アップテンポなノリノリアニソンなのに、アルマージロは途端に蹲ってやる気が無さそうに欠伸をする。
すると、反射効果が切れたのか、ディオたちNPCが一斉に攻撃を再開した。
「反射、終わり。デバフ、というか、バフ効果、打ち消してる?」
「やる気を失くさせる『怠惰』効果を付与とは書いてあるが、怠惰そのものにそういう効果でもあるんだろうか?」
「バフ、る気力、奪ってる、なら、分からなくもない」
なるほど。
相手のバフを打ち消す事もできるのか。
それってかなり優秀じゃね?
モンスター側のレベルが上がってくると、こいつみたいに自己バフする奴らも増えてくるだろう。
雑魚ならスルーでもいいが、タダでさえ長期戦になるボス系にやられると面倒だ。
それを打ち消せるって、戦況を有利にできるよな!
たぶん。
「マジック、歌ってくれ」
「おう。任せろ!」
気分よく歌いだした俺。
「反射、終わり」
「マジック、もう歌わなくていいぞ」
……。
数分後――
「マジック、歌ってくれ」
「お、おう――」
歌いだした直後、
「マジック、もう歌わなくていいぞ」
数分後――
「マジック、歌ってくれ」
歌いだした直後、
「マジック、もう歌わなくていいぞ」
俺っていったいなんなの……。
次のオンステージが始まるまで、肩を落として打ちひしがられるのであった。
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